第4話 玄海町観光
その日の夜はぐっすり眠れて、朝9時にスマートホンのアラームが鳴るまで一度も起きなかった。のそのそと起き出して部屋の障子を開けてみると、窓の外は爽やかな光に満ち溢れている……東京の自分の部屋ではまず見られない光景だな。大体、窓を開けた隣りのマンションの壁だし。
着替えを済ませて一階に降りると七海ちゃんがいて、どうやら僕を呼びに来ようとしていたらしい。今日の彼女は髪を下ろしていてスカート姿。昨日のロックな感じと全然雰囲気が違う。
「あ、起きた? 朝ご飯できてるよ」
「ありがとう。おかげでぐっすり眠れたよ。こんなに爽やかな朝は久しぶりだな」
「普段、どんな生活してるの? さあこっち、こっち」
彼女に誘われて食堂へ。美咲さん(彼女の母親)が朝食の準備をしてくれていて、いい香りが漂ってくる。ご飯にお味噌汁、それに焼鮭に目玉焼き、冷奴まで……正に旅館の朝食と言ったラインナップだ。
「おはようございます。すみません、朝食まで用意して頂いて」
「昨日は玄人くんに料理してもらっちゃったからね。これぐらいはサービスしとかないと。七海も食べちゃいなさい」
「はーい」
一人旅を決め込んでいたので、こうやって誰かと一緒に朝食を食べられるのは嬉しい。対面に座った彼女はニコニコしていて、それだけでその場が温かくキラキラして思えた。窓の外の景色といい、朝から贅沢続きだ。
「なーに、七海。あんた妙に浮かれちゃって。玄人くんと一緒なのがそんなに嬉しいの?」
「そ、そんなんじゃないから! 自分の町を案内できるのが楽しいだけ!」
「はいはい、ムキにならなくてもいいわよ。しっかり案内してあげなさい」
「もう!」
「ハハハ……、よろしくね、七海ちゃん」
食後にコーヒーを頂いて、少しゆっくりしてから観光に出かけることに。民宿を出たのは10時を過ぎた頃で、僕の借りた車に七海ちゃんと二人で乗り込み彼女のナビで観光スタートだ。まずは国道を南下する。
「あ、ここが私の母校、青翔高校」
「ここ、昔はコンビニなんてなかったのに! 高校の時に欲しかったなあ」
などなど、地元情報も交えて彼女とお喋りしながら道を進む。暫く南下した後、脇道に。最初は対面二車線の道だったが進むにつれて細くなり、山や畑の中を走っている感じになった。途中、県道47号線と書いてあったが、それでも細い一車線の道。
「これ、合ってるの?」
「大丈夫、大丈夫。田舎の道なんてこんなものよ」
そう言う彼女を信じるしかないが、途中いくつか大きな溜池の横を通りやがて公園らしき場所に到着する。
「ここで一旦降りまーす」
彼女の指示で車を停め公園内へ。ここは轟木公園と言うらしく、沢山の桜の木が植わっていた。平日だけあって人はまばらだが鳥の声がかすかに聞こえて、空気もとても清々しい。
「ちょっと歩こっか」
「そうだね」
二人並んで公園内から続く遊歩道を歩く。森の中を歩いていると小さな滝があって、水の流れる音が心地よい。マイナスイオンが辺りに満ちている……気がする。
「海沿いの町に来たつもりだったけど、山の中にもいい場所があるんだね」
「そうよ、玄海町は海と山、どっちも楽しめる場所なんだから!」
暫く自然を満喫してから車に戻る。彼女の話ではこの先に大きなダムがあり、そこの周りを走っていくことにした。
「おーっ! キレイなダムだね!」
「藤ノ平ダムは結構新しいからね」
さっきの滝もそうだけど、ダムを見るとちょっとテンションが上がる。ダムの周りの道もキレイに舗装されていてずっとダムを見ながら運転できるのが気持ちいいし、道沿いに植わっている桜もいいアクセントになっていた。ダムをグルっと一周してから再び県道に戻り、今度は北上。役場の横を通り過ぎてそのまま北上していくと、別の県道に交差していた。
「ここ、右に行くと西唐津駅に行けるよ。直ぐに隣町なんだ」
「ああ、じゃあ昨日のあの道、海岸沿いの道に行かなかったらここに通じてるんだ」
「そうそう。今村枝去木線(いまむらえざるぎせん)って言うんだよ。あ! ここを道沿いに西に行ってね」
「オーケー」
暫く走ると見覚えのある道と交わる。確か昨日も走った国道だ。彼女の指示通りそこを右折して更に北へ。エネルギーパークの手前まで来て、目の前にある食堂の駐車場に入るように言われる。
「ここでお昼食べよう!」
「おー!」
そこは『バス停食堂』。中華料理に焼き鳥、ラーメン……何でもありな感じかな? 注文は彼女に任せると、焼きビーフンや焼き鳥、餃子、それにタコ刺しにサラダとかなりのごちゃ混ぜだったが、どれも美味しかった。魚介類は当然名物だけどこの食堂も地元では有名らしく、確かに平日なのに結構人がいる。近くの原発やエネルギーパークの人たちが食べに来るそうだ。こういう場所でご飯を食べるのも、旅の楽しみの一つなのかも知れないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます