Moon Light 6
「言ったでしょう。私は魔女よ。怪異への耐性は持っているし、なんならこういった呪いの本も読んだことがあるわ。その私がなんの抵抗も出来ずに引きずり込まれた。これは異常であり得ないことよ。そんなレベルの怪異相手にして思念を祓い落とすなんて芸当不可能だわ」
言われて納得した。佳蘭は魔女を自称するようなオカルトのスペシャリストだ。そんなコイツがヤられたんだ。そりゃ無理ってもんだわ。
「じゃあもう一つの方法ってなんだよ」
「怪異には必ず
「あー。なるほどな」
例えが分かりやすくて助かった。大昔震えながら見た呪いのビデオを巡るホラー映画。あれも確か呪いを解くための物語で、ようはそういうことかと納得出来た。
「といってもこれに関しては鍵はわかっているわ。この本の中身を知ること。けれどもそれが破滅に繋がりそうなのよね。話を聞く限り」
「なあ。俺の親友が死んだのって、やっぱりこの本が原因なのか?」
「最期に読んでいたのがこの本なんでしょう? だったら十中八九これが原因なんでしょうね」
「やっぱりそうか…」
嘆息するように呟く。鉄平が自殺するわけがないという俺の予想は的中したわけだ。俺が形見としてこの『月光』という本を譲り受けた理由。実は鉄平が誰かに殺されて、『月光』の中に何かダイイングメッセージが隠されているなんていうくだらない妄想があったからだ。けれども現実はもっと奇想天外で、『月光』という本を読んだことが鉄平の死の原因で。言ってしまえば有馬鉄平という人間は本に殺されたといっても過言ではない。なあ俺はどうしたらいい? どいつに、どこにこの感情をぶつけたらいい?
「ルールなんぞガン無視してこの本燃やすのはダメか? 現物なきゃ幾らなんでもなんも出来ねーだろ」
「そもそも燃やすことが出来ないわ。多分私が止める。高戸を殺してでもね。それに私が止めなかったとしても貴方じゃこの本を傷つけることは出来ないわ」
「は? どういうことだよ」
さっき殺されかけたことを思い出し、佳蘭が阻止してくるっていうのは納得した。だが俺じゃこの本を傷付けられないとはどういうことだ? たかだか本一冊燃やすくらい余裕で、なんならライター持ってるし今から試したっていい。
「言葉の通りよ。納得出来ないっていうならやってみるといいわ」
すっと渡された『月光』。それを胡乱な瞳で受け取った。くるりと茶色の表紙を裏返し、マジマジと見つめる。
「いいのか? いや。流石にもう一度殺されそうになるのは勘弁だぜ」
「大丈夫よ。私はそれを不可能なことを知っている。さっきのようなことは起こらないわ」
「まあそう言うんなら遠慮なくやらせて貰うぜ」
ポケットからライターを取り出して火を付ける。オイルライター独特の甘い匂い。赤い炎をそっと『月光』に近づけていく。ページの端に火が燃え移り、暫くして全てが灰に変わった。
「おい佳蘭。燃やせたぞ」
「よく見てみなさい。そんなことないから」
何言ってんだと左手の、焦げだらけになっている筈の『月光』へ向かって視線へ落とす。思わず「え」と間の抜けた声が漏れた。左手には燃えた形跡の一切ない綺麗な『月光』があった。
「嘘だろ⁉」
思わず叫び声が出た。確かにライターで燃やした筈で…。いやと思わず口元に手を当てて考え込んでしまう。自分の行動に違和感があった。なんで俺はこの場で燃やそうとしたんだ? 火事でも起こす気かよ。しかも左手に本持ったまま燃やそうとするなんて何考えてたんだ? あり得ないだろ。
「ちなみに言うとね。貴方はライターを取り出して、そのまま仕舞っただけよ。これでわかったでしょう? これが怪異に囚われるってことよ」
静かに射貫くような佳蘭の青い瞳。身体の内側から滲むような寒気と合わさって気圧される。ここへ来て一気に怖くなってきた。
「捨てた筈の呪いの人形。それがいつのまにか戻ってきている。聞いたことあるでしょう? こういった類の怪談話」
「あれってこういうことだったのかよ…」
ようは捨てたつもりが、持って帰ってたってことだろ? 今俺が体験したのと同じように。
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