Moon Light 1
幼馴染が死んだ。どうやら自殺だったらしい。らしいというのは、俺がその事実を受け入れることが出来ないから。あいつが自殺するなんて…。
浅い眠り。意識がないのに、確かにそこにあって。なにも考えられない
早起きは三文の徳なんてことわざもあるくらいだ。折角早く起きたんだから、大学へ行く準備でもすればいいものを、ベッドでぐだぐだと寝転がる。だったらソシャゲにログインでもして暇でも潰そうかとも思うも、妙に面倒臭くってそんな気にならない。結局起き上がったのはアラームが鳴ってからだった。
どんより絡みつく倦怠感を吹き飛ばすように、掛布団を足で蹴とばした。そのままの勢いで立ち上がる。すぐに目に飛び込んできた、テーブルの上のチューハイ缶を見てげんなりする。最近眠れなくて、アルコールの力を借りた残骸の山。こいつは酷いと、仕方なしに空き缶を片付ける。そのままツマミに買ったジャーキーとチーズ鱈の残りを朝食代わりに口の中に突っ込む。
洗面台で歯を磨き、そのまま寝癖を直す。そのまま置いてあったワックスを手に取り、指で一掬いして手の平で広げる。軽く髪の毛が逆立つように、それでいて自然な形になるよう弄っていく。がっつりワックス使いましたなんて、オシャレ覚えたての中坊じゃあるまいし、あくまでさりげなく。洗面台に映るいい感じに纏まった茶髪を見て軽く頷く。リビングに戻り今日使う教科書をリュックに突っ込み、ジーパンを履きお気に入りのアロハを羽織る。最後にスマホで時間を確かめると丁度いい感じ。最後にぐんるり部屋を見回し、忘れ物や火元を確かめるとマンションを出た。
徒歩十数分の最寄り駅に向かって歩く。ポケットからウォークマンを取り出し音楽を流す。パチンコ曲ばかり集められたトランスアルバム。意外や意外。地味にいい曲が多いのだ。そうじゃなければいくら俺がパチンカスの一人だからといって、ウォークマンに入れるわけがない。
定期券をかざして駅の改札口を潜り抜ける。すれ違うサラリーマンに女子高生たちを尻目に四番ホームを目指す。着いてからほんの三分くらいで電車が来た。
今日は珍しく一限がある日で、都会の満員電車程じゃないがサラリーマンやら制服姿の学生がひしめき合っている。勿論シートに座れるわけもなく、吊り革に掴まりながら 窓から覗く、いつもと変わらない景色を眺めつつ大学へと向かう。
イヤホンから流れる音楽はポップで小気味良く、けれども迫りくる睡魔を吹き飛ばせない。漏れ出そうになる欠伸を嚙み殺す。ここ最近の不眠のせいだ。原因はわかっている。あいつが、有馬鉄平が死んでからだ。
成人式以来のかつての仲間との再会。全員が黒い服を着て、涙と嗚咽溢れる悲惨な同窓会。「なんで」「どうして」という言葉と一緒に見た鉄平の顔は、眠っているようで安らかだった。俺はあの時の鉄平の顔を一生忘れることが出来ないだろう。
吊り革に寄り掛かるようにして、右手に力を籠める。ぎゅっと吊り革が鳴る。ついに噛み殺せなくなって欠伸が漏れた。あと五分かその辺りで着く。そうなれば退屈で刺激的な大学生活の始まりだ。そうなればこの眠気も、少しは晴れるだろうか。
やる気のない教授のつまらない講義を、スマホを弄りながら適当に聞き流す。この教授は代返とか許さない代わりに、出席さえしていれば単位をくれる。しかも静かにしてれば何をやっても文句を言われない。そんなわけで俺のツレたちも、体のいい昼寝時間と割り切って出席だけはしている。この講義でノート取ってる奴なんて、前の席の真面目君たちぐらいだろう。俺のツレのクズどもは教科書すら出していない。それに比べて教科書だけは出している分、俺の方が幾分マシなクズというもの。ここで重要なのは、結局クズなのは変わりないということだ。
終了のチャイムが鳴る。適当に挨拶をして、颯爽と教室を去るマイペースな教授。ふうと溜息一つ。眠っている両隣のクズ二人の頭を叩いて起こす。午前中の授業はこれで終わり。急いで学食に行かないと混雑しちまって悲惨な状態になっちまう。
眠そうに欠伸しながら歩いてるクズ二人に殺意が沸いてくる。本当はさっきの授業でも眠りたかったのに眠れる感じがなく、結局スマホを弄るだけで終わった一時間半。ここ最近の不眠も合わさってイライラが止まらない。
俺たちが学食に着いた頃にはもう既に八割方テーブル席が埋まっていた。急いで空いてる席を探してなんとか見つける。財布を取り出し、クズの一人田畑に千円渡す。
「日替わり丼一つ。釣りは返せよ」
「わーってるよ」
いつものやり取りで、田畑も勝手がわかってるから、これくらいの短いやり取りで充分。さっき見つけたテーブル席まで一直線に向かう。気が付けば反対方向から陰キャ集団が、俺の狙っているテーブル席に向かって歩いているのに気が付いた。向こうの方が半歩速い。咄嗟に俺は背負っていたリュックを放り投げ、一歩分の距離を稼ぐ。ギリギリで俺の勝利。反則とも言える所業で席を確保した俺に、恨めし気な目で見つめる陰キャども。
「んだよ」
「別に」
適当にドスを効かせて睨みつけてやると、陰キャどもはついと目を反らし「このDQNが」なんて捨て台詞を吐いて別の席を探して消えていった。こうして込み合う学食で無事席を確保した俺は、ツレの田畑と加藤を待ってスマホを弄る。適当にゲームアプリを起動させて、スタミナを消費し始めた。そうして十分も待っていれば、俺の分の日替わり丼を持って二人がやって来た。
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