第37話 頼れる探偵さん達
とにかく、息苦しい青春時代を過ごした高校までの道のりを歩く。
苦しかったが、星田に会えたことだけは感謝している。
家族以外で10年以上続く縁があることに、眠れない夜に救われる。
あいつに言われた「楽をしろ」みたいな助言のおかげで、社会の一員に辛うじてなれている。
同じようなことを教師に言われても、当時の俺は、響かなかっただろう。
男子高校生なんて、立派な大人の助言よりも、気になっていた女子に言われたことの方が記憶に残る生き物だ。
白状してしまえば、俺は、星田のことが好きだった。
それを感じ取ったから、白井さんは俺に敵意を向けるのだろう。
でも、俺はあいつと釣り合わない。
今の時代、個人探偵事務所が生き残るのは、小説家になるくらい難しい。
その芸当を可能にしているのは、星田のカリスマ性に他ならない。
学生時代に自分で書いていた主人公のような完璧な格好良い探偵になってしまった。
ああいう奴が、歴史に名を残す。
その隣に立つべきは、俺ではない。
でも、少しでもマシな人間になりたい。
「・・・やるか」
星田の助言には反しているが、佐藤のことを放っておけない。
明日は10月1日。
金額がチャラになる月初だ。
どうせ何も変わらないのだろうが、8000円の教育はしてみるか。
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「こんな時こそ、文化祭が必要だと思うんです!」
佐藤が教頭に直談判していた。
体育祭は、もちろん中止になっていた。
文化祭も自粛と雰囲気だったが、こうして生徒に直接先手を打たれた教頭は押し切られた。
まあ、二学期はイベントがあり過ぎると愚痴っていた俺だが流石に体育祭だけでなく、文化祭も関係ない生徒達から取り上げるのは、気が引ける。
関係ない生徒なら。
さすがの佐藤と言うべきか、生徒達の文化祭開催を求める署名も用意していたため、内部だけでの文化祭が開かれることになった。
2年2組の教室も、久しぶりに明るい雰囲気になった。
さながら、小説や映画の主人公のようだ。
「・・・」
文化祭は、10月30日。
その間、佐藤とその周囲に頼りになる探偵さんに監視を依頼していた。
\
「ついに、教え子の監視ですか」
「佐藤は、知らない奴ではないから、ちょっと躊躇してしまいますね・・・」
白井さんと相馬は、乗り気ではなかった。
「はい。もう返す言葉もございません」
下手をしたら、法律に引っかかる仕事を無理に押し付けるわけにもいかなかったので、大人しく退散しようとしたら、聞き飽きた声が聞こえた。
「二月のことだから、なんか事情があるんだろ?」
言うまでもないが、星田恵だ。
「うん」
「だったら、良いよ」
星田は、覚悟を感じさせる表情で、もう一度言う。
「お前の頼みなら、良いよ」
その鶴の一声に、白井さんと相馬は目を合わせて、諦めたように笑う。
「分かりましたよ」
「先生を信じますよ」
どれだけ慕われているのだろう。
星田が自分を特別扱いしてくれたことを嬉しく思うのと同時に、3人の一体感に、少しだけ嫉妬した。
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