第38話 お久しぶりです

前回は、体育祭直前に事件が起きた。


しかし、今回もイベント直前である保証はないし、佐藤だけでなく、仲間と思われる奴も警戒しなければならない。


『文化祭ねぇ。退学してから見てみると、ちょっと羨ましいっすね』


相馬が電話口で言う。


「そうなん?」

『こればっかりは、退学組しか分からない感覚でしょうかね。買い出しに行ったり、段ボールになんか書いてたり、演技の練習をしている奴らが、キラキラして見えますよ』


隣の芝生は青く見えるってやつかな。


教師からしたら、忙しい割にリターンが少ないイベントだが、こんだけ好き勝手に自分達のやりたいことを簡単に表現するする機会はないのだがら、やりたいことがある奴からしたら、経験を積むって意味では、丁度良いイベントだろう。

成功するかは置いといて。


例えば、バンド。

自分の通っている学校で盛り上げることができなかったら、外で通用するはずがないと、諦める奴らもいる。


では、どうやったら成功するかと言ったら、普段から発言力、カリスマ性をアピールするしかないだろう。

文化祭の時だけ頑張ったって、他の生徒達は見向きもしてくれたい。

実力があっても人気がなければ、正当に評価されないと学べる、楽しいだけではない残酷なイベントが、文化祭だ。


このイベントで、最も楽しめるだけの努力を日頃からしてきた生徒がら佐藤愛だった。


「佐藤さん、格好良かったよねー。教頭にビシッて言ってさー」

「佐藤さんは、陽キャだけど怖くない」

「アタシ、1年の時から愛ちゃんの友達なんだよねー」


佐藤愛の名前を聞くことがここ最近、グッと増えた。

ファンと呼んでも良さそうな連中もいた。


俺達からしたら、厄介なことこの上なかった。

今や、佐藤のためにやらかしそうな奴だらけになってしまった。


探偵さん達は優秀なので「問題ない」と言っていたが、もう少し、人手が欲しいところだった。


しかし、佐藤より俺の味方をする奴なんて、心当たりがなかった。


当たり前だ。8000円分の人間関係しか築いていないのだから。


「先生」

俺は、誰も救っていない。


「二月先生」

それが、この差だ。


「二月先生ってば!」

肩を強く叩かれて振り返る。


「相変わらず、疲れてますね」


にへらと笑う彼女は、夏休みにしょっちゅう会っていた、元引きこもりの生徒。


「お久しぶりです」


千原優衣だった。

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