第33話 いつものあなたじゃない

事件から1ヶ月、ようやく、通常授業が再開された。

1ヶ月分のカリキュラムを見直さないといけないので、教師サイドは、授業スタイルを大きく変えなければいけない。


学校は、勉強を教える場所なので、このままでは、給料泥棒と言われても否定できない。申し訳ないが、詰め込む形の授業になる。

遊びもなく、ただただ知識を詰め込むだけのつまらない授業になった。

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生徒達にも疲労が溜まっている様だった。

普通の高校生活を送っていたら、感じる必要のない疲労だ。


しかし、中には、まだ事件のことをイジる奴もいる。

小泉が言っていたイジメをしていたという3人組だ。


何が面白いのか、小泉が馬場先生を刺した時の場面を再現して笑っている。

本当に面白かったら、周りも思わず笑ってしまうと思うが、周りは、ガン無視である。3人だけで異常なまでにテンションを上げているのを見ていると、胃がキリキリしてくる。


早い話が、馬鹿なのだ。


賢い奴は、イジメはリスクが高いのでやらない。しかし、イジメってのは馬鹿でもできるマウントの取り方なので、その手軽さにハマってしまう。これでクラスの中心人物なら人をまとめる力があるのかもしれないが、こいつらは、3人だけで世界が完結している。


こいつらが困っていても、わざわざ助ける物好きは、このクラスにはいないだろう。

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3人が小泉をいじめている動画が流出した。


顔も出ていて、動画内で名前も飛び交っていたので、デジタルタトゥー確定だ。

ちょっと前の回転寿司動画みたいな話題のなり方になっているが、あれよりは、世の中は騒いでいないようだった。


問題は、誰が動画を流したかだ。


我が校の生徒の確率が高いのは分かるが、そこまでしか分からなかったので、師匠に聞いてみることにした。


「撮影媒体はスマホたぶん古いやつ、左利き、女性」

いきなり、絞られた。


「こんなところにいないで、もっとお金儲けできるところに行きましょうよ」

「私は、一生ここにいる」


格好いいのか情けないのか判断に迷う様なセリフを言う白井さん。


お金に興味がないというわけではなく、星田と共にいる方が大切だと言い張る変わり者の俺の師匠は、

動画を見ただけで、知りたい情報をくれた。


今の星田探偵事務所には、白井さんしかいないため、あまりダラダラ居座ると怒られそうなので、ボチボチ退散しようとしたら、「なんか、焦ってます?」と聞かれた。


「・・・誰がですか?」


珍しく向こうから声をかけてきてくれたのは嬉しいけど、質問の意味が分からない。


「あなた以外に誰がいるんですか」


焦っている。

側から見たら、そう見えるのか。


あまり、自己評価で動くと痛い目を見る。

人間の本性は、他人の方が見抜ける。


「今までのあなたなら、1ヶ月くらい様子を見て、それでも事態が好転しなかったら動き出す。くらいのスタンスだったと思います」


確かに、相馬や千原の時もそうだった。


「まあ、今回は、洒落にならない事件ですから、仕方ないのかもしれませんが、私は、こういう時ほどどっしり構えるのが、遊佐二月だと思っていました」


「・・・」


「何か、私達にも隠してることがあるでしょう」


はぁ。

やっぱり、この人には敵わない。

俺が敵う人なんてそうそういないのだが、特にこの人には勝てる気がしない。


「はい」

「ふん。別に良いですけど、恵さんと相馬君には迷惑かけないで下さいよ」

「善処します」

「絶対に巻き込まれるパターンじゃないですか」


言っておくが、この探偵事務所にお金を払って協力してもらっているため、巻き込む権利はある。


しかし、今回はできれば借りを作りたくない。


できれば。


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