第32話 被害者から加害者へ
馬場先生には、会えなかった。
正確に言えば、会わせてくれなかった。
看護師さんから、「何か伝えておかなければいけないことがあるなら、私共が承ります」と、一見丁寧に聞こえる門前払いをくらった。
「自分だけが傷ついたみたいに思ってんのかな。ムカつく」
教師としては注意しなければならないセリフなのだろうが、陰口や悪口は、本人の耳に届かなければセーフだと考えている俺は、無反応を通した。
まあ、全く予想していなかったわけではない。
基本的に教師という生き物は攻撃に弱い。
普段は攻撃する側だから、いざ、それなりに強い攻撃を受けると、大人とは思えないほどに脆い。
そうなってくると、仕事の優先順位を変えるしかない。
小泉に会いに行く。
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刑事ドラマでよく見る面会室に実際に入れたことは、少しだけ嬉しかった。
ちなみに、佐藤は今回は現れなかった。
あいつも暇ではないのだろう。
それにしても、本当にガラス張りだ。
素人目で見たら、セキュリティは大丈夫なのかと愚行してしまうが、未だかつて、ここから脱獄したというニュースは聞いたことがないので、見た目より厳重なのだろう。
小泉から、脱獄の手助けをお願いされたらどうしようと馬鹿みたいなことを考えながら待っていたら、小泉が入室してきた。
話の中心人物だったが、こうして会うのは久しぶりだ。
・・・。
こいつ、こんな顔してたっけ。
「先生、迷惑かけてごめんなさい」
小泉は頭を下げる。
反省しているのは良いことだと他の先生は言うだろうが、俺は、「だったら最初からやるなよ」としか思わない。
反省しようがしまいが、起きたことは変わらない。
「おー。あんまり時間もないから、手短にする」
俺は書類を整理する。
退学の話を10分かけて話す。
これで、今日の俺の仕事は終了だ。
しかし、時間が5分余ってしまった。
会いにきた方が早めに切り上げるのは、なんだか見張りをしている警察官に申し訳ない。
本人達は、面倒で退屈な仕事が早く終わって嬉しいかもしれないが、漫画喫茶を想定していた時間より早く出る時の気まずさに似ている。
正直、もう話すことは無いのだが、どうしたものか。
「・・・いじめられてたんだ」
小泉が、相変わらずの無表情で言う。
「加藤と、鳥崎と菅野に」
どんなイジメをしていたのか簡単に聞く。
面会が終わり、駅に向かいながら思う。
でもな、小泉。
もう、そいつらよりお前の方がクソヤローになってんだぞ。
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