第30話 友達
久しぶりに公園に入った。
下手をすれば、10年単位で来ていないかもしれない。
小学生の頃は、何かと言えば公園に集まっていた。遊具で遊ぶ時もあったが、カードゲームをベンチを上手いこと使って遊ぶこともあった。
カードゲームをしたければ、誰かの家でやれよと今では思うが、小学生の我々は、遊び場といえば、公園以外の選択肢はあまり無かった。
そんなに好きだった場所に、中学生になった途端に行かなくなった。
部活やら塾やらで忙しくなったというのが1番デカい理由だが、根本的な理由は、「恥ずかしいから」だった様に思う。
中学生で公園で遊ぶことは恥ずかしい。
何故と問われても分からない。
去年まで元気に走り回っていた場所を恥ずかしいと思ってしまい、行きたくもないオシャレっぽいお店で喋ることに、物足りなさを感じていた。
まだ、鬼ごっことかしたかったが、周りがミスチルの話をしているのに合わせる。
あの頃から、友達付き合いを面倒に思う様になっていった。
人といることに、若干のストレスが伴う様になり、自分から関わることが減っていった。
代わりに、1人で行動することに躊躇することなく、色々な行動できる様になった。
そんな青春を送ったことに後悔していないが、教師になってから、楽しそうにしている生徒達が、ほんの少し不気味に見えることもあった。
生徒に、興味を持てないのは、その辺が原因なのかもしれない。
ベンチに座って、温めてもらった弁当を食べる。
お。
予想以上に美味い。
健康に悪いであろう味が、今は心地良かった。
「げっぇっぷ」
下品なゲップをする。
あと三分の一は残っている。
「あの、お待たせしました」
黒咲苺が現れる。
「腹減ってる?」
「え、はい」
「あげよう」
女子高生には、カロリーが高すぎる食べかけのメシを押しつける。
「え!良いんですか!?」
「んお?うん」
こんなに大きな声出せたのか。
「いただきます」
隣に座り、すごい勢いで食べる黒咲苺。
アメフト部男子も顔負けの良い食いっぷりだ。何だが、もう腹いっぱいになっている俺が情けなくなる。
「ふっ」
笑ってしまった。
笑えた。
そうか。まだ笑えるのか。
笑わせた本人は、俺なんか眼中になく、最後の鶏肉を口に放り込む。
「けっぷ」
俺のとは違い、可愛らしいゲップだった。
「ご、ごめんなさい。キモイですよね」
顔を真っ赤にして謝ってくる。
あんだけ良い食いっぷりを見せたのだから今更な気がするが、こいつも思春期の女の子らしい。
「いや、なんか飲み物買ってくる」
「え、食事を奢ってもらったのに、申し訳ないです」
「食いかけのコンビニ飯を押し付けたにそんな遠慮する必要ないよ」
そう言い放して、自販機でお茶を2つ買って戻る。
「でさ、ここはどこなんだ?」
「ふじみ野です」
「ふじみ野?」
「埼玉県のふじみ野市です」
ふむ。
ピンとこない。
でも、やはり東京ではなかったか。
「あの、先生」
「ん?」
「なんでこんなところに?」
それは俺もお前にしたい質問なんだが、生徒からの質問だ。
俺は、今日・・・いや、昨日の夜からのことを話した。
\
「大変でしたね」
「大変なのは、馬場先生と・・・生徒達だよ」
危うく小泉と言おうとしてしまった。
大変になったのは、自業自得じゃないか。
「まあ、そうなんですけど、そんなに真面目に自分を責めてるの、先生くらいだと思います」
真面目・・・。
「そういう人が損するのは、なんか嫌です」
「・・・」
お茶に口をつける。
こんなに美味かったと軽く驚く。
黒咲苺もお茶を飲んだが、特にリアクションはとっていなかった。
「理由はどうあれ、痴漢を放って置けない人は、優しい人です。よく、偽善者だとか言う人もいるけど、偽の善の何が悪いのか私には分からないんです。何もしないことが、人のために行動するよりも良いみたいなの、正直言って気持ち悪いです。何もできない、何もしてこなかった人の方がいっぱい考えてるって、自分への言い訳でしかないでしょ」
なんか、火がついた。
こんなにたくさん喋る奴なんだなぁ。
なんだか、面白い。
「私が救われたのは、行動をした先生です。だから、先生は、真面目で、良い人です」
若いねー。
と、スマホのCMみたいなことを思った。
若いでまとめないで下さいって、怒られるかな。
でも、これは褒め言葉なんだよ。
いらんことをたくさん知って、経験した大人からしたら、若いってのは、デカい武器なのだと思い知らされる。
リスクのことを考えて、簡単に行動することができなくなる。
だから、俺は、面倒なルールを作って、動く理由を作っていた。
そのルールがなければ、自分が壊れる予感がしたからだ。
眩しい。
朝陽が登ってきた。
もう9月も終わりだが、まだまだ太陽は元気で、眩しく、目をしかめる。
太陽を浴びると、身体が活性化されるらしい。
実際には変化していないのだろうが、少し、ほんの少し、目を前に向ける気持ちになってくる。
隣に座る黒咲苺を見る。
俺と目を合わせるのを避けて、俯く彼女の姿を初めて認識した気がした。
「あの、友達になってくれ」
小学生、いや、幼稚園児の時さえ言わなかったセリフを言う。
寝不足と疲労で変なテンションになっているな。
黒咲苺は、俯いたまま、絞り出す様に、「はい」とだけ言った。
もうちょっとだけ、頑張ってみるか。
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