第27話 魔の2学期開幕

2学期に詰め込みすぎだと思う。


文化祭、体育祭、合唱祭、修学旅行など、学校生活に置けるビックイベントは、ほとんど2学期に集中する。

それを楽しめる生徒もいれば、煩わしいと感じる生徒もいる。


感動ってのは、プラスでもマイナスでもストレスになる。


レベルの高い娯楽が腐るほどあるこの世の中で、パズドラなどの単純なゲームがヒットする理由がここにあると俺は思っている。

壮大な伏線や、おもしろすぎる掛け合いを観るのがしんどいと感じてしまう現代人には、ああいう、頭を空っぽにして時間を潰せるコンテンツが必要なのだ。


だから、楽しい(とされる)イベントを一気に消化するこの時期は、今まで我慢してきたものが爆発することが多くなる。


何を考えてんのかね。日本の教育委員会は。

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9月1日。

怠い日ランキング堂々1位のこの日だが、教室は賑わっている。


来年には受験勉強で遊べないからと、はっちゃけた思い出を大事で話している。

内容と声のボリュームが合っていない気がするが、今のうちに楽しいふりをしていた方が良い。

そんな、声を上げるだけ上げているグループもいれば、1人で本を読んでいる生徒もいる。


陸上部の赤井颯太のようなタイプだ。

学校という場所に心底うんざりしている雰囲気を纏っている小泉洋介は、先生方からは、「目立たない生徒」と評価されている。

目立たないからどうというわけでもないが、職員室でも軽んじられる存在だ。


こいつには何を言ってもやり返してこないだろうと、幼い表現をすれば舐められている。

少しヤンチャな生徒にはできない注意も、小泉には偉そうにしている先生はたくさんいる。


自分を大きく見せたい教師には、格好の餌食だ。

特に、体育教師の馬場先生がしつこい。

小泉は、あまり運動神経が良くないのだが、サッカーの試合でミスをした小泉をネチネチ攻撃しているのを見たことがある。


なんだったか。「なんでそうなる?」とか言ってたかな。

なんでそうなるかを考えて改善策を見つけるのがお前の仕事だろうと思うが、そんな指導力があったら、こんなところで体育教師などしていないだろうから、仕方ない。


そんな小泉は、攻撃中は俯いていたが、馬場先生がその場を去ると、刺すような視線を向けていた。

本当に刺されなきゃ良いけど。

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刺されたらしい。


9月18日の金曜日の2年2組の5時限目の体育にて、事件は起こった。


目撃した生徒達の証言をまとめると、グランドで準備体操のストレッチをする際、ペアがいなかったため、小泉が馬場先生にそう報告したら、「まあ、お前みたいな暗い奴とペア組みたい奴なんていないよな。見学してろ」という様な意味のセリフを言った。


小泉は、ゆっくりと校舎に入っていったが、誰も止めなかった。

10分ほど経ったら、小泉が包丁を持ってグラウンドに戻ってきた。

生徒達は体育祭の行進の練習をしていて、馬場先生は朝礼代で指示を出していた。


生徒達は遠目だったため、小泉が何を持っているのかが分からなかったが、2人の距離が近づくと、馬場先生が倒れたので、一部の生徒達が駆け寄った。

腹から出血している馬場先生を、小泉は無表情で見ていたそうだ。


腕っぷしに自信のある生徒が出るまでもなく、大人しく警察が来るのを待っていた。

あまりの落ち着き方に、何らかの誤解なのではないかとも思ったが、救急車に連れて行かれる馬場先生の姿は、あまりにも現実味があり、何が起きているのかイマイチ分からなかったとのこと。




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