第25話 既読

千原燈子さんは、リモート授業の提案に賛成してくれた。


「よく、学校は勉強以外のことを学ぶ場と言いますが、別にそれが学べる場所は学校だけじゃないんです」


友達と青春を過ごして心を豊かにするだとか、イベントで協調性を身につけるだとか、それは、学校の専売特許というわけではない。

バイト先でそれが学べることだってあるし、自分の興味がある行事にボランティアで参加してみても良い。


「学校に囚われる必要はないんです」


燈子さんは、自分で入れた紅茶をじっと見てから、「そうですね」と言った。

「学校に通うのが普通だから、どうしても、復学するのがゴールだと考えていましたが、それだけではないですよね」


「もちろん、卒業できるに越したことはないので、出席日数と相談して、登校できる時には登校してもらうのがベストですが、決して無理をせずに」

「はい」


理解が早くて早くて助かる。

\



<え?リモート?じゃあ、優衣ちゃんに会えないの?>


LINEで佐藤に報告すると、絵文字もスタンプも何もないメッセージが返ってきた。

普段、フレンドリーなメッセージのやつが淡白な口調のメッセージになると、そこそこ怖いな。


<それは千原次第だよ>


既読がつく。

少し待ってみたが、返信されない。


いつもだったら、10秒もあれば返ってくるのだが、こういう時もあるだろうと、読書をしながら待つことにした。

もう50ページもないから、今日で読み終えてしまいたい。

読書を続けること30分、スマホが鳴った。


LINEではなく、電話の急かすような威圧感に若干苛立ちながら、通話ボタンを押す。


『お疲れ様でした』

『いや、別に終わってないけど』


なんだったら、ここからだ。


『優衣ちゃんに学校で会えないのは悲しいけど、その内くる可能性もあるもんね』

『うん』

根本的解決など、一教師ができるわけがない。

辛うじてできるのは、その生徒にもう少しマシな環境を用意することくらいだ。


『でも、優衣ちゃんが何を感じて、不登校になったのかは、分からずじまいかー』


今のところ、千原にかけている労力は、7000円。

明日は8月31日。

もう一仕事はできそうだ。

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