第23話 大したことない


「別に、大したことは知らないよ」


アイスコーヒーにたっぷりのガムシロを入れながら佐藤は言う。

「私が優衣ちゃんと喧嘩したとか、いじめたとか、そんな分かりやすい話はできないけど、それでもいい?」

「あぁ」


軽くため息を漏らす佐藤。

「二月先生は、もっと賢いと思ってたんだけどなぁ」

「そんな過大評価してくれてたのか」


賢かったら、こんな面倒な性格をしていない。

難しい顔して腕組みしてれば、それなりに賢く見えるのだろうが、本当に賢い人は、表情まで気を配ることができる。

自覚はないが、どうやら度々難しい顔をしているようなので、俺は馬鹿の部類に入るのだろう。


「まあ、どんな時でも普段通りってわけにはいかないか。・・・えぇと、優衣ちゃんが不登校になるまでね」


コーヒーに口をつける。

あんなに砂糖を入れて大丈夫かと不安になったが、本人は表情を変えることなく飲む。


「優衣は、最初から友達を作る気がなかったと思う。1人で高校生活を送るリスクを理解した上で、1人を選んでたから、<可哀想なボッチ>っていうより、<格好良いボッチ>って感じだった。私の知り合いに、声はかけられないけど、友達になりたいっていう子は、それなりにいたよ。美人さんだしね」


なんか、ラノベのヒロインみたいだ。


「その反面、気に入らないと感じる子達もいた。自分達が必死になって<イケてるグループ>をしてるのに、全く努力してない優衣ちゃんの方が人気があるってのは、あの辺の娘達からしたら、面白くないだろうからね」

「アイドルの話か?」

「はは。まあ、アイドルほどの真剣さはないけど、目に見えない人気投票を気にしてる娘もいるよ。まあ、ブスが多いけど」

「はは」


確かに、そういうのを気にするのは、化粧やら髪型やらでそれっぽく見せているブスの考え方だろう。本当の美人は、そんなもん興味がない。ついでに言うとお前にも興味がない。


「そんなこんなで、不思議な孤立の仕方をしてる優衣ちゃんに興味が出て、1年の2学期くらいに話しかけたんだよ。最初は無視されたけど、1週間毎日話しかけ続けたら、向こうが根負けしてくれて、一緒にお弁当食べたり、雑談するようになった。私もそこそこ美人だから、優衣ちゃんの隣にいても必要以上に目立たなかったのは、良かったと思ってる」

「うん」


自分のことを「そこそこ美人」と真顔で言うのにつっこんだ方が良かった気がするが、佐藤の顔の造形が整っているのは否定できないので、スルーする。


「前に話したけど、趣味が合ったから、一緒にいるのに疲れなかった。優衣ちゃんもそう思ってくれてると思ってたけど、私だけだったっぽいね。

学校の外で遊んで楽しかったのは、優衣ちゃんを含めて3人しかいないから、私にとっては、大切な友達だった。でも、綾達とも連んでたから、それが不満だったのかも」


原田綾。

千原に「ちょっかい」をかけていたイケてる(笑)グループのリーダー。


「私的には、どっちとも巧くやれてるつもりだったんだけど、結果、大切な方を無くしちゃった」


まるで死んだような言い方だな。


「これが、私視点から見た出来事。どー?大したことないでしょ?」

「うん」

大したことない。

俺や佐藤にとっては、大したことない。


「でも、ありがとう」

「いや、お礼を言われるほどでは・・・」

「このパンケーキ美味いから食べるといい」

美味い美味いと食べる佐藤。

その表情は、何やら悔しそうに見えた。

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