第22話 二月、動きます

「お金を稼ぐ手段」が何なのかが一番気になってしまった。

千原家は、それなりの住宅街にあるそれなりの家なので、お小遣い程度の話ではないだろう。


株か?


あのお母さん・・・いや、三人称で呼ぶのは失礼だな。燈子さんは、金という武器で娘を守ることができているらしい。


心の問題は、親が介入しすぎるリスクを考えて慎重になっている。

そんな聡明な人が、あまり話したくないであろう話をしてくれた。


「・・・少しは動いてみるか」


もちろん、親と同様、教師もこういった問題には慎重にならなくてはならない。部屋のドアを蹴破って無理矢理外に出す暴走は避けるべきだ。


ルール9 教師ドラマに影響されない。


外に恐怖を抱いた人間の拒絶を舐めない方が良い。俺にも身に覚えがあるので、短期で考えたら取り返しのつかないことになることが予測できる。


とにかく、千原とのコミニケーションは続ける。

で、今まで先延ばしにしていた問題に着手する。

佐藤愛との接触だ。

\



我が校のバドミントン部は、あまり強くない。


しかし、去年佐藤が全国大会に行ってしまったものだがら、顧問の荒川先生が勘違いして、今は「ブラック部活」になっている。

無意味な練習や謂れのない罵声が飛ぶ部活になった。


そのため、現在の部員数は3人。


バドミントンとなると、練習相手が必要不可欠なはずだが、どうしているのだろう?

そんな疑問を持ちながら陸上部のエリアから体育館に移動する。


佐藤が、たった1人で壁を使って練習していた。

そういえば、佐藤意外のバドミントン部員を見たことがない。

周りの目が無ければ人は手を抜くものだが、こうも集中できるものなのかと感心する。


邪魔するのは気が引けたので、一区切り着くまで練習を見ていた。


俺は、スポーツ観戦の楽しみ方がよく分からないのだが、不思議と退屈せず見ていられた。

人が全力で何かをしている姿は、門外漢も惹きつけるようだ。


壁打ちを続けること4分、ようやく、佐藤の中で区切りがつき、汗を拭きながら水分補給に向かう。


「あれ?二月先生」


さっきまで遠い存在に見えていた美しい表情が、俺のよく知ってる笑顔に変わった。


「おー、頑張ってんな」

「うん。もう大会は終わったんだけど、しょうもないミスしちゃって納得できなかったから、部活休みだけど、勝手に来ちゃった」


タオルで汗を拭き、片付けを始める。


「手伝うよ」

「ありがとー」


何処に片付けるのかを答えさせる労力を考えれば、佐藤の負担を減らしているかは微妙だが、何もせずに見ていることができなかった。


片付け終わり、佐藤に言う。


「陸上部の練習も終わるんだけど、ちょっと話せないか?」

「お!デート?」

「違う。違うけど、大事な話だ」


宇宙人を見るみたいな目で俺を観察する。


「そっか。大事な話ね。いいよ」

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