第17話 お手紙
「手紙?」
なるべく可愛らしい便箋を選んだつもりだが、どんぐりの背比べだろう。
「そう。昨日観た動画面白かったくらいで良いから」
佐藤はまじまじ便箋を見る。
「・・・私、手紙書くの初めてかも」
おー。
今や、メッセージを送る手段など腐るほどあるのだから、生まれた時からスマホが身近にあった世代は、手紙を通らずにきたのは、当たり前と言えば当たり前だった。
「でも、ドラマとか映画では観たことあるよ」
俺らのポケベルに近い感覚なのかもしれない。
メチャクチャおじさんに観られてるだろうなぁ。
実際におじさんなのだから仕方ない。
風邪の治りが遅くなっている男が格好つけても仕方ない。
弁えろ。
少し楽しそうに文を綴っていく佐藤の邪魔にならないように、俺はスマホをイジる。
生徒の前でスマホをイジるなとお叱りを受けるかもしれないが、こう見えても仕事をしている。
今の時代、小テストの作成もスマホでできる。
偶にお爺さんお婆さん先生に苦言を受けるが、クオリティが上がるのに利用しない方が怠慢だろうと思いながら、笑顔でかわしている。
仕事をすること20分、佐藤が「できたよ!」と報告してきたので、手紙を一応確認する。
\
優衣ちゃん、久しぶり。
愛です。
暑い日が続きますね。
最近見つけた古着屋さんで可愛いストライプシャツばかり着ています。優衣ちゃんに合いそうなポロシャツがあったので、写真送っていい?絶対似合うよ!
今期はアニメもドラマも面白いのが多いですね。優衣ちゃんはどれに注目してしていますか?私は、アニメだったら魔法使いのやつと、ソロ活女子のやつです。今度、語り合いましょう。
\
ふむ。
「良いな」
「そう!?」
「うん。俺がもらったら嬉しい」
古着屋のくだりも、外に出ろやみたいな威圧感がない。
「じゃあ、千原のお母さんに渡してみる」
「ん!」
\
2回目の千原家。
お母さんに手紙のことを話すと、割と喜んでくれた。ぜひ渡してくださいとお許しを頂いたので、意気揚々と千原の部屋に入る。
今回は、無理に話さなくてもいいようにゲームを持ってきた。10年くらい前のやつだけど、操作方法が簡単な格闘ゲームだ。
多少は接待プレイしてやろうと思っていたが、ボコボコにされた。
次に来るまでに強くなることを誓った。
まあ、千原が楽しそうだったから成功だろう。
帰る際、「ああ、そういえば」と臭い演技をして手紙を渡した。
最初は俺からだと思って引いていた千原だったが、佐藤からだと説明すると、表情が変わった。
「そっか・・・佐藤さんは優しいなぁ」
マイナスな感情・・・ではないと思う。
例えるなら、中学生が大掃除で幼い頃になくしたオモチャを見つけたけど、もう使わないからどうしようと考えている。みたいな気まずさに近いかもしれない。
「ありがとうございます。頂きますね。佐藤さんにお礼をお伝え下さい」
礼儀正しいが、熱を感じない。
「おー。またな」
\
帰り道、何かを見落としている不安に苛まれたが、風呂に入ったら気にならなくなり、小説を読んで寝た。
夢は、観なかった。
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