第16話 厄介で便利な生徒

グレンデマジックという概念がある。


雪やウェアの影響から、そうでもない異性を「良いな」と思ってしまう現象である。

これは、本人の顔や内面が見えにくい状態から生じる錯覚である。


教師に対してもこの錯覚が起こる。


別に大した顔をしていないし、学校という狭い世界で生きているスケールの小さい存在なのに、「年上」「権力」の魅力を感じてしまう。

絶対に同級生を好きになった方が楽しいのに、教師に魅力を感じてしまう生徒には、活発な奴が多い。

物語のヒロインになりたい願望を最も手近な大人で叶える。


この火遊びで人生を狂わした同僚を何人か知っている。

真面目な人だった。


授業の完成度は高いらしかったし、雑用も嫌な顔をせずにしてくれる「良い」先生。

そんな人が、最後は「加害者」のレッテルを貼らせされて学校を去っていった。


割に合わないと思った。


クビになるほどの価値があの女生徒にあったか?

否である。


だから、佐藤よ。


利用はさせてもらうけど、お前のストーリーを盛り上げる途中退場するキャラクターになる気はないよ。

\



「好きなアニメが一緒だったの」


例の自販機前で話を聞く。


「ほら、怪異のやつ」

化物アニメだ。

俺もアニメ、映画、小説、DVDに収録してされているキャラクターコメンタリーまで全部観た。


最近の高校生は、佐藤のようなリア充(死後なんだっけ?)もアニメの話を堂々としている。それだけアニメが市民権を得たということを感じられて嬉しい。


「それで仲良くなって、休みの日にグッズ買いに行ったりコラボカフェでお茶したりした」


思ったより、仲良しレベルが高かった。


しかし、慎重にいけ。


「千原が不登校になった理由は知ってるか?」

「優衣ちゃんが可愛いから綾達にちょっかい出されてたから?」


ちょっかい。


この表現は、そんなに間違ってはいない。

イジメと言ってしまうと大袈裟なのだ。


今のところ分かっているのは、大グループで遊びに行くのを千原が断った際に、「美人は私達と仲良くなる必要ないかー」みたいな嫌味を言われたという、原田綾達に注意をするか迷うことだ。

しかし、日常生活レベルで言われ続けたら、ストレスが溜まるのは分かる。


「ちょっかいされてる時、佐藤はどうしてたんだ?」

「気にしないで・・・とかかな」


まあ、妥当だろう。

千原が不登校になっても佐藤は、具体的なアクションは起こさなかったが、別に冷たいわけではないと思う。

下手に動くよりは、ただ味方でい続けることは、佐藤の人間性が悪くないことを表している。


ちょっと危なっかしいけど。


閑話休題。


どうやら、佐藤を連れて行っても、千原はそれほど嫌がらないかもと感じていた。

今度、お母さんに提案してみるか。

\



しかし、この時の俺は楽観的すぎだったと後悔することになる。

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