第19話 事件の顛末

 女王が倒れた原因については,いまだ不明だ。今も眠りについて,起きる気配はない。


 霊媒師テイジラや,亡くなった魔法士隊長テーブロの弟であるテガーラは,数時間後に目覚めた。


 彼らは,卑猥行為をしたことで,親衛隊長らによって,ロープで拘束された。


 今回,女王を中心に結界が構築された原因については,まだ不明だ。


 国王秘書は,女王のために設けた仮設テントで横になって,相変わらず意識を失っている女王を見守った。ゴルージオもいるので,国王秘書が見守る必要はない。


 国王秘書としては,なんで女王が目覚めないのか原因がまったく不明だ。すぐに,この地域にいる高名な医師をアレンジするように親衛隊長らに命じた。


 ーーー

 丸1日が経過した。


 足止めを喰らったアイラやリブレ,マリアたちもここに集まって来た。親衛隊の部下たちも続々集合した。彼らは,事の経緯と,メリー女帝が昏睡状態に陥っていることを知った。


 その中には,ちょっと変則的な形になったものの,作戦がほぼ成功したことを知ってほそくえんだ連中もいた。ただし,理想としては,メリー女帝ではなく,ゴルージオを昏睡状態にしたかったというのが正直なところだ。第1王子を殺したのはゴルージオだからだ。


 アイラがメリー女帝を診断しても,原因は不明だった。アイラは,メリー女帝がつけているネックレスに気がついた。


 アイラ「あら? このネックレス,禁断のネックレスに似ているわ。でもちょっとデザインが違うみたい」


 この言葉に,国王秘書が返答した。


 国王秘書「はい,わたしもそう思いましたが,デザインが明らかに違います。それに,このネックレスは検閲を受けて問題ないと判定されました」

 アイラ「あら? そうなの? じゃあいいわ」


 もし,アイラがそのネックレスを間近で注意深く診れば,呪詛魔法陣を発見できただろう。だが,国王秘書の言葉を信じて,そのままにした。


 メリー女帝の母親であるマリアは,メリー女帝のそばについてあげたかった。でも,メリー女帝の赤ちゃんの世話を優先した。それに,マリアが傍についてあげても,何もできないからだ。


 地域にいる医者たちが続々と集合した。その数15名。この国で医師に名乗るには,回復魔法に精通するのは当然として,薬草の知識,各種病気の知識,風土病,などに精通する必要がある。資格は必要がない。でも,結局,実績がないと自然淘汰されるだけだ。その意味では,ここに集まった15名の医師は,実績のある優れた医師たちだ。


 医師たちは,自分たちの専門を明らかにする。この分野であれば,確実に治せますということを明言することで,信用を勝ち取っていく。


 彼らは,まず,ひとりずつ,メリー女帝を診断していった。その結果,明確に病名,または原因を明らかにすることはできなかった。15名が全員で相談したもの,なんら答えは出なかった。


 その医師たちの一番の長老が,国王秘書にあるアドバイスをした。


 長老医師「われわれが診ても,また,どんな高位の回復魔法でも,まったく効果なく,原因が発見できないということは,一般的な病気ではないと思われます。そうなると,残るのは,,,精神的なショック状態に陥ったとみるべきです。つまり,呪詛の類い,あるいは,精神攻撃・霊体攻撃を受けた可能性です」

 国王秘書「え? ということは,解除師,もしくは,霊体を回復させるような霊能力者を探すということですか?」


 長老医師「はっきり申せませんが,その線で解決の糸口を探るほうがいいと進言します。それと,女王様は,まったく食事や水を受け付けません。このままでは,2,3日のうちに衰弱死する可能性があります」


 国王秘書「・・・,そうですか,,,アドバイス,ありがとうございます」


 国王秘書は,時間的余裕のないことを知った。すぐに,国中の解除師,除霊師,その他,なんでもいいので,異能力者を1日以内に集めるように御布令を出した。


 また,建設中だった転移ゲートが完成したこともあり。王都とこの地で転移できるようになった。そのため,王都に,解除師などの連中を集めればいいことになる。


 ◆ー◆ー◆

  御布令の内容


 新しく即位したメリー女帝が,原因不明の病で昏睡状態に陥りました。通常の回復魔法では効果はありません。考えられる原因としては,呪詛の類,精神的なショック症状,精神(霊魂,霊体)への攻撃を受けたなどが考えられます。


 ついては,呪詛に造形の深い方,呪詛を解除した経験のある方,霊的なパワーのある方,その他,優れた能力で,メリー女帝を救えるだろうと思える方は,24時間以内に,王都の王宮,もしくは,以下に記載の合同慰霊祭会場に来てください。


 救えた場合は,金一封と就職先の提供を保証します。尚,救えなかった場合でも,交通費の半額を支給します。


 合同慰霊祭会場:XXX


 ◆ー◆ー◆


 ーーー

 魔法国との国境近くの地方都市,その郊外の一軒家で,あるひとりの若者がいた。名をダクノールという。外見から14歳くらいだが,実際の年齢は不詳だ。また,彼の身の回りの世話をする乙女がいる。カリラ,11歳だ。


 ダクノールは,隠れた名医だ。名医と言ってもまったく医学知識はない。そのため,医者とは名乗っていない。患者からの紹介で,どこの医者からも見放された患者を高額で診るという仕事をしている。だから,ダクノールを知る者は,極々限られている。


 中には,貧乏人の重病患者を助けたことがある。当然,高額の治療費を払えずに,自分の娘を彼に提供した。カリラのことだ。ちょうど身の回りの世話をする女中がほしかったので,特別にその条件で引き受けた。


 ゴトゴトゴトーー


 馬車が彼のところにやってきた。以前,治療してあげた患者だ。名をグダゲルという。今では,彼の仲介役をしている。それだけでも,充分,食べていけるほどの金を稼ぐ。


 カリラがダクノールの書斎に来た。


 カリラ「御主人様,グダゲル様がいらしゃいました。どうやら患者を運んできたようです。その他,従者が3名,牛1頭もいます」

 

 ダクノール「ここに通しなさい」

 カリラ「はい,ご主人様」

 

 カリラは,重たい乳房を揺らして,仲介人グダゲルのところに行って,彼を書斎に案内した。その道すがら,彼はカリラと雑談した。


 グダゲル「カリラ,ちょっと見ない間に,おっぱい大きくなったな。それ,もうGカップはあるんじゃねえか?」

 カリラ「はい,以前重さを乳房の重さを測ったら,片方で1kgほどありました。でも,ご主人様はまだまだ小さいと言って,もっと大きくしようとします。わたし,御主人様に,なんとか性的にさっさと満足を与えて,これ以上の巨乳化を阻止しています。それがなかったら,わたし,もう,歩けないほどの超ウルトラ爆乳になっていました」

 グダゲル「ハハハ。カリラは身長125cmしかないから,余計そのおっぱいが目立つな。うん。いい傾向だ。頑張って励みなさい」

 カリラ「はい,グダゲル様」


 カリラが,今,こうしていられるのも,仲介役のグダゲルのおかげだ。大事な恩人だ。彼のためなら,ときどきは御主人様の目を盗んで浮気してもいいほどだ。


 グダゲルが書斎に来た。


 グダゲル「賢師様,ご無沙汰しております。いかがお過ごしでしたか?」

 ダクノール「ごたくはいい。要件を言いなさい」

 グダゲル「へへへ。実は,賢師様の神の力をまた拝借させていただこうとおもいましてね。患者を連れてきたんでさ」

 ダクノール「今度は,ちゃんと金を払うんだろうな? もう娘はいらんぞ。生活費がかさむだけだ」

 グダゲル「へへへ。それがですね。代理で引き受ける牛の購入代金,牛の解体

屋,さらに,牛に麻酔する薬師の手配,さらにわたしへの仲介料で,もう,お金がなくなったらしいんですわ。それで,ひとり娘のサリラ11歳を提供することでいかがでしょうか?」

 ダクノール「アホ! さっきも言ったろ! もう娘はいらん。娼婦にするにも,客をどう集めるんだ? そんなんで無駄な時間は取られたくない。カリラひとりで充分だ。おまけに,しょっちゅう風邪はひくは, お腹が痛いと言っては,医者を呼んだりして,手間がかかりすぎる! もういらん!」

 

 このダクノールの言葉は,充分に予想された言葉だ。仲介屋グダゲルとしても,金貨500枚(500万円相当)をもらっている以上,そう簡単には引き下がれない。ここからが仲介屋としての本領発揮だ。


 グダゲルは,一枚の紙を取り出して,ダクノールに渡した。彼はそれを受け取って,その内容を見た。それは,メリー女帝が彼女を救える人材を集めている御布令だ。


 ダクノール「これがどうしたんだ?俺と何の関係がある?」

 グダゲル「賢師様なら,メリー女帝を救えるんじゃないんですか?」

 ダクノール「アホ言え! これは,たぶん全身に及ぶ呪詛か精神支配などによる影響だろう。これを『移す』には,若くて健康な女体が必要だ。しかも,移した女性は間違いなく死ぬ。そんなことできるわけかなろう」

 

 グダゲルは,ニヤニヤしながら,自分の後ろに控えている少女サリラを自分の横に移動させて,彼女に聞いた。


 グダゲル「サリラ,お前はお父さんの目の病を治すために,この賢師様の言うことならなんでもしますか? たとえ,それがメリー女王様が被った病気をすべて引き受けて,死ぬことも同意しますか?」

 

 サリラは,目から涙をポタポタ流しながら答えた。


 サリラ「はい,お父様からもお母様からも,何度も言われました。賢師様の言うことなら何でもしなさいって。それが,女王様の身代わりで死ぬなら,とても光栄です。こんな命でいいのなら,いくらでも差し上げます」


 サリラは,暗記したかのように答えた。でも,その顔は,悲しみと悲壮感に満ちていた。

 

 ダクノール「・・・,でも,仮にサリラがその覚悟があったにしても,ここから王都まで24時間で行くのは無理だ」


 グダゲルは,さらにニヤニヤとした。


 グダゲル「へへへ,賢師様がこれまで命を救った人たちの連絡網を甘く見ては困りますよ。わたしが一声かければ,彼らは必死で王宮に,女王様を救える人物がいると訴えてくれます。そうすれば,近場の領主様のところに行って,王都への転移ゲートを使わせていただけるはずです。どうです? 

 女王を救ったとなると,報奨金は思いのまま!犠牲になるサリラの両親にもかなりの見舞金が送られるでしょう。誰も損はしませんよ。ちょっと,サリラが可愛そうですけど」


 サリラは,自分の命がもう数日もないことを知っている。どうしても涙が止まらない。


 ダクノールは,もう一度,サリラに聞いた。


 ダクノール「サリラ,もう一度聞く。自分の素直な気持ちをいいなさい。死ぬのが怖ければ,怖いと言いなさい。女王様の身代わりにはなりたくないのなら,正直に言いなさい」

 

 ダクノールの言葉に,サリラは,以前の言葉を繰り返すだけだった。ダクノールは,やむなしと思い,仲介屋グダゲルの口車に乗ることにした。グダゲルは,すぐに自分のネットワークを駆使して,女王を救える人物がいることを伝えて,最短ルートで女王の下に移動するルートを,王宮側から指示してもらうように依頼した。


 その後,ダクノールは,患者たちを裏庭に運ばせた。薬師はすぐに牛に麻酔をかえて深く眠らせた。


 ダクノールは,患者の状況を見た。目の部分が,なにかに突き刺さったような痕があった。そのショックでもう片方の目も見えなくなっていた。


 大黒柱が仕事できない状況になった。生まれたばかりの乳飲み子がいたので,まだまだお金が必要だ。


 いくら高位の回復魔法をかけてもらっても回復不能だった。すでに回復魔法の限界を超えていた。ほうぼうの医師を探し回って,かなりの資産を使ってしまった。やっとのことで,仲介屋グダゲルを見つけた。しかし,肝心の賢師様への謝礼金である金貨1500枚(1500万円相当)は全然支払えなかった。


 仲介屋グダゲルは,11歳の娘サリラを差し出せば,治療してもらえることを説明した。サリラの両親はあれこれ逡巡した結界,仲介屋グダゲルの言う通りにした,という経緯があった。


 ダクノールは,患者の被害部分に右手を当てて,健康な牛の目の部分に左手を当てた。そして,ブツブツと呪文とも,神への祈りともつかない言葉をひとしきり述べた。


 1時間後,,,


 患者の目は,牛の目のようにギョロンとした目になった。一方,牛の目は,患者の被害に遭った目に変わってしまった。


 患者は,目の形状が変わってしまったものの,はっきりと見えるようになったので,賢師様に土下座して何度もお礼を述べた。


 その後,その牛は解体屋によって処分され,牛肉を売る代金で,解体屋と薬師への謝礼金に回されることになる。



 ーーー

 ー 合同慰霊祭の臨時女王テント ー


 相変わらず,メリー女王は深い眠りについていた。水も食事も取れないので,衰弱死まであと数時間という厳しい状況になった。


 これまで,


 そこに,親衛隊長が女王秘書に報告に来た。


 親衛隊長「これでもう50人目ですが,まったく女王様には効果ありません。このままでは,,,」

 女王秘書「いいえ,最後まで諦めてはいけません。メリー女帝を死なせてしまっては,千雪様が戻られた時,言い訳ができません。最後の最後まで,絶対に助かると信じましょう」


 そんな会話をしている時,副親衛隊長が,3名の人物を連れて来た。


 副親衛隊長「失礼します!王都から,51人目の救助者たちが送られました。お連れしてよろしいでしょうか?」

 国王秘書「どうぞ,お連れしてください」


 テントの中に,3名の人物が入ってきた。仲介屋グダゲル,ダクノール,そして,サリラだ。


 グダゲル「お初にお目にかかります。国王秘書様。わたしくし,天才究極医師,賢師様であるダクノール様の仲介役をしておりますグダゲルと申します。お見知りおきください」

 国王秘書「前置きは結構です。ご覧の通り,メリー女王は,もう一刻の猶予もありません。すぐに施術をお願いいたします」


 グダゲル「はい,もちろんでございます。ですが,国王秘書様,天才究極医師,賢師様であるダクノール様の能力を,事前に国王秘書様にお伝えしてから,施術を行いたいと思います。よろしいでしょうか?」

 国王秘書「わかりました。では,その能力とはどういうものなのですか?」

 グダゲル「天才究極医師,賢師様であるダクノール様の能力は,病巣など肉体にとってマイナスになるあらゆる要素を,すべて他人に転嫁し,他人の健康な部分を患者に転嫁する能力です。おわかりになりますか? この説明でわかりますか?」

 国王秘書「それって,女王の病巣すべてを,健康な人と入れ替えるってことですか? つまり,健康な人が,女王の代わりに病巣を引き受けて,,,代わりに,,,死亡してしまうってことですか?」

 

 グダゲルは,一歩背後にいるサリラを手前に連れてきた。


 グダゲル「国王秘書様,彼女,サリラが,女王様のあらゆる病巣を引き受ける覚悟です。死亡することも同意しています。その意味,わかりますね。それにふさわしい,,,報奨金,,,を,その,,,事前にご提示をお願いしたいのですが,,,」


 国王秘書「・・・」


 ここで,ゴルージオが口を出した。


 ゴルージオ「仲介のグダゲル様,ひとつ,お尋ねします。女王の身代わりが必要ということですが,それは,男性でもいいのですか?それでいいのなら,わたしが女王の身代わりになりましょう」


 グダゲルは,賢師ダクノールの顔を見た。ダクノールは,首を横に振った。


 グダゲル「残念ですが,男性では身代わりになりません」

 ゴルージオ「では,女性の霊魂であればいいのでか?」


 グダゲルは,ゴルージオの言葉の意味がよくわからなかった。賢師ダクノールは,ここで初めて口を聞いた。


 ダクノール「健康な女性の肉体と女性の霊魂が必要です。残念ですが,あなたには身代わりにはなれません」


 それを聞いたゴルージオは,皆に背を向けた。


 ピカーー!


 ゴルージオの体が光った。そこにいた全員が目を閉じた。閃光が止んだので,目を開けた。すると,そこには,先ほどの身長180cmにもなる大男はいなかった。代わりに,身長155cmほどの可愛い女の子が全裸姿で立っていた。男物の服は,大きすぎて,地面に落ちた。


 国王秘書「え?あなた,だれ? もしかして,ゴルージオ?」


 国王秘書の驚きは当然だ。賢師ダクノールやサリラも驚いて開いた口が塞がらなかった。仲介屋グダゲルだけは,鼻の下が伸びきってしまった。


 その女性は,Fカップの豊満な胸を両手で隠して,少しはにかみながら振り向いた。外見年齢15歳ほどの可愛い全裸の女性がそこにいた。


 ゴルージア「わたし,もうゴルージオをではありません。名をゴルージアといいます。女性です。霊魂を女性化しました。かつ,肉体も女性になりました。この体と女性の霊魂で,女王の代わりにはならないでしょうか?」


 ゴルージアは,胸元を覆った両手を広げて,自分の美しい裸体を見せた。


 賢師ダクノールは,少し平常心を取り戻して,鋭く質問した。


 ダクノール「肉体に男と女があるように,霊魂にも男と女があります。そう簡単に男の霊魂が女の霊魂に変化できるものではなりません」

 ゴルージア「フフフ,普通の霊魂ではむりでしょうね。でも,わたし,悪霊大魔王の家来であれば,霊魂を男性から女性へ,その逆も容易にできるのです。身の心も霊魂も,すべてを融合したようなものですから,,,」


 ゴルージアのこの説明は,常人にはまったく理解不能だった。でも,賢師ダクノールは,ゴルージアの女性らしい裸体と,そのしゃべり方から,間違いなく肉体も霊魂も女性であると認識することにした。


 ダクノール「わかりました。では,ゴルージア様,女王の身代わりになって,女王の病根すべてを受ける覚悟はあるのですね?」

 ゴルージア「フフフ,わたし,千雪様からメリー女帝を守るように命じられております。ここでメリー女帝を死なせるわけにはいきません。喜んでこの身,メリー女帝のために捧げましょう」

 ダクノール「わかりました。では,施術をしたいと思います。すいませんが,他の方は,この場から去っていただけませんか?」


 国王秘書は,仲介屋グダゲルとサリラを連れて,この場から去った。


 ダクノールは,メリー女王が着ている服,その他,ネックレス,指輪すべてを,ゴルージアが身につけるように指示した。


 その後,ゴルージアは,メリー女帝の隣で横になった。


 メリー女帝もゴルージアも全裸で横たわった。どちらも豊満な胸をしていて,女性らしい体つきだった。


 この場は性欲を出すような状況ではない。ダクノールは,精神統一をしばらくしてから,施術をしようとした時,ゴルージアが小さい声で,ひとりごとを吐いた。


 ゴルージア「回復魔法陣発見,解除します。解除しました。隠蔽式転移防止結界魔法陣発見,解除します。解除しました。隠蔽式透明バリア結界魔法陣発見,解除します。解除しました。隠蔽式,,,解析不能な呪詛魔法陣発見,解除不能。魔力吸収方法で無効化します。無効化成功しました。寿命・魔力交換魔法陣発見しました。解除します。解除失敗。解除します。解除失敗。魔力吸収方法で無効化します。魔力吸収,,,継続中,,,魔力吸収完了しました。無効化成功しました。ネックレスにあるすべての魔法陣を解除もしくは無効化に成功しました」


 ダクノールは,いったい,何がどうなっているのか,一瞬,わからなかった。ただ,どうやらネックレスに,いろんな魔法陣がしかけられていて,それを無効化したような言葉を言っているのは理解した。


 ダクノールは,ゴルージアの言葉を気にするのは止めて,自分のするべきことをした。


 ダクノールの右手をメリー女帝の心臓部の胸部分に接触させ,左手をゴルージアの心臓部の胸部分に接触させた。


 まず,メリー女帝の病巣すべてをゴルージアに移す作業を行う。


 メリー女帝の体内に浸透していった病巣をゴルージアに移していった。


 ゴルージア「流体呪詛魔力検出。魔力を吸収して無効化します。無効化完了しました。微粒子呪詛魔力検出。魔力を吸収して無効化します。無効化完了しました。固体呪詛魔力検出。魔力を吸収して無効化します。無効化完了しました」


 ダクノールは,いったい,何がどうなっているのか,さっぱりわからなかった。ただ,メリー女帝の病巣は,すべてゴルージアに移し終わった。次に,ゴルージアから,健康な生気をメリー女帝に移す作業が残っている。


 ダクノールは,ゴルージアから生気を移動させようとした。


 グダノール「あれ? 生気は? 生気はどこ? え? 生気がない! もしかして,ゴルージアって,人間じゃない?」


 この言葉を聞いて,ゴルージアが,ダクノールの手をどけて,起き上がった。


 ゴルージア「ダクノールさん,どうやら,メリー女帝の病巣をすべてわたしの方に移し終えたようですね?」

 ダクノール「あっ,そっ,そうだ。すべて移し終えた」

 ゴルージア「 幸い,わたしのマルチ多重魔法陣解除術ですべて対処できたようです。ダクノールさん,メリー女帝に回復魔法をかけてみてください。効果が期待できるかもしれません」

 ダクノール「え? あ? っそ,そうか? うん。わかった。回復魔法をかけてみる」


 ダクノールは,メリー女帝の全身に回復魔法を展開していった。


 1時間後,,,


 メリー女帝の今にも死にそうな状況だったのが,徐々に緩和されてきたようだ。


 メリー女帝は,まだ意識を回復っしていないが,言葉を発した。


 メリー女帝「み,,,みず,,,水,,,ほしい,,」


 その言葉を聞いて,ゴルージアは,両手を合わせて,その中に水を出現させて,それをメリー女帝の口元に添えた。彼女はそれを啜った。


 これを見て,ゴルージアもダクノールも,メリー女帝はもう大丈夫だと思った。


 その後,低濃度の食塩水や糖分を含む水を与えると,少し落ち着いたかのように,熟睡状態になった。でも,その熟睡状態は,回復に向かう状態であり,決して死に向かう状態ではないことは明白だった。


 ・・・

 1日後,メリー女帝は,意識を取り戻して,食事も取れる状態になった。


 親衛隊長や副親衛隊長もメリー女帝の見舞いに来た。メリー女帝の傍には,ゴルージオはいなかった。


 親衛隊長「メリー女帝,おめでとうございます。よくぞ,回復されました。必ずや,回復すると確信しておりました」

 メリー女帝「ありがとうございます。皆さんのわたしを絶対に回復させるという諦めない気持ちが,ひしひしと伝わってきました。大変,助けられました。心からお礼申し上げます」

 親衛隊長「あの,,,ゴルージオさんはどうしたのですか?見当たりませんが?」

 

 メリー女帝は悲しい顔をした。


 メリー女帝「大変,残念なことですが,ゴルージオは,わたしの身代わりとなって死亡しました。その死体さえも残らずに死亡しました。惜しい人材をなくしました」


 国王秘書は,内心『あれ? そうだっけ?』と思った。でも,ゴルージオを死亡させることは,亡くなった第1王子を慕う部下たちに対して,溜飲を下げるのに大いに役立つものだと思った。


 国王秘書は,口裏合わせをした。


 国王秘書「わたしは,その現場に立ち会いました。ゴルージオの肉体は,女王の体内にある悪の因子をすべて肩代わりしてしまい,みるみるとその体を蝕んでいき,消滅してしまいました」


 この言葉は,ちょっと,実際とは異なるものの,賢師ダクノールも,その内容に話を合わせることにした。


 ダクノール「わたしの異能は,悪の因子を他人に移すものです。女王様の悪の因子は,強大でした。あと1時間も処置が遅れたら,女王様は助からなかったでしょう。幸い,ゴルージオ様が,自分の命を賭して,女王様をお助けする覚悟があるということで,急ぎ,その処置を行いました。ゴルージオ様は,今際の際に,『ありがとう』という言葉を残して,消滅してしまいました。女王様が助かったのは,幸いなのですが,,,ゴルージオ様を失ってしまいました。残念です,,,」


 親衛隊長「なんと,,,そんなことが,,,」

 副親衛隊長「まさか,,,そうでしたか,,,ゴルージオさんが亡くなったのですか,,,」


 メリー女帝「急ぎ,ゴルージオの親族に連絡したところ,幸い,ゴルージオの妹が,この獣人国を旅行中だと分かりました。そこで,急ぎ,転移ゲートの場所を連絡して,この場所に来ていただきました。わたしの隣にいるのが,ゴルージオの妹,ゴルージアです」


 ゴルージアは,皆に頭を下げた。


 ゴルージア「皆様,わたしが,ゴルージオの妹,ゴルージアです。兄は,メリー女王の身代わりになって死亡したと聞きました。それは,兄にとっては,本望だったのだと思います。兄の意思,それは,メリー女帝を庇護することでした。そこで,兄には到底及びませんが,わたしも,及ばずながら,メリー女帝のお側に使えさせていただくことになりました。皆様,これから,どうぞよろしくお願い申し上げます」


 ゴルージアは,再度,深々と頭を下げた。


 親衛隊長や副親衛隊長は,いつしか,ゴルージオが,ゴーレムの体をしていたことを完全に忘れており,この状況を違和感なくスムーズに受け入れた。


 というのも,ゴルージオは,憎き第1王子を殺した悪党だ。その彼が死亡したのだから,仇を取ったように爽快感を感じ,そのことが,この現実をより受け入れやすくした。


 親衛隊長「そうでしたか。ゴルージオさんは,大変優秀な方でした。ほんとうに残念です。でも,女王の代わりに死亡したのですから,本望だったのかもしれません。女王,ゴルージオさんの葬儀はどのようにとりはからいましょう?」

 

 この問いに,ゴルージアが答えた。


 ゴルージア「兄の葬儀については,後日,家族葬にて執り行なうことにしました。それは,生前の兄の遺言でもあります。兄の葬儀については,ご配慮いただかなくて結構です。その心遣いだけで兄も喜んでいると思います」

 

 親衛隊長「そうですか,,,わかりました。メリー女帝,その方向でよろしいのですね?」

 メリー女帝「はい,亡くなられた本人の希望ですから,その意思に従いましょう」

 親衛隊長「了解しました。あと,1時間もすれば,転移ゲートの準備が完了します。メリー女帝も荷物等の取りまとめをお願いします」

 メリー女帝「了解しました。いろいろとご苦労様です」

 親衛隊長「いえいえ,当然のことです」


 親衛隊長と副親衛隊長は,この場を去った。


 ーーー

 副親衛隊長は,すぐに第一王子衛兵隊長に,ゴルージオが女王の身代わりになって,死亡したことを伝えた。また,女王は,瀕死の状態だったが,意識を取り戻したことも伝えた。


 この情報は,第一王子衛兵隊員に,歓声を挙げさせた。内々進めてきた作戦が大成功を収めたのだ!


 第一王子副衛兵隊長のマルベロは,部下のガリッタを連れて,第一王子の妻であるカルリーナに報告にしに行った。


 ー カルリーナの家 ー


 第一王子副衛兵隊長マルベロと部下ガリッタは,第一王子の遺影に手を合わせて頭を下げた。その後,妻のカルリーナに,今回の騒動の顛末を報告した。


 副隊長マルベロ「カルリーナ様,今回の合同慰霊祭では,いろいろとハプニングがありました。ですが,やっと,収拾がついたようですので,その説明に参りました」

 カルリーナ「わたしも合同慰霊祭の儀式を家にある映像モニターで見ていました。どうやら,メリー女帝に対して悪意のある方々がいるように感じました。それに,以前,あなたがたに渡したネックレス,少し宝石を付け足してデザインを変更したようですが,女王に渡ったのは,それではありませんか?」

 

 カルリーナのこの素朴な質問に対して,副隊長マルベロや部下ガリッタは,ギクっとした。まさか,その点を突かれるとは,思ってもみなかった。


 彼らが口ごもっていると,カルリーナが言葉を繋げた。


 カルリーナ「どうやら,図星のようですね。メリー女帝が倒れてから,わたしもおかしいと思って,あのネックレスの由来を詳しく,調べてみました。すると,あのネックスは,『禁断のネックレス』と呼ばれていて,ヒトの寿命を奪って魔力を増強させるというと悪魔のような能力が隠されていたのですね? 夫は,その解明のため,前国王からそれを譲り受けたこともわかりました。


 合同慰霊祭で,魔法士隊長テーブロの霊魂が

,霊媒師の口を通して語った内容では,あのネックレスは,メリー女帝に渡すものだと言っていたようですが,,,こんなこと想像したくもないのですが,,,もしかして,今回のメリー女帝への暗殺計画があるとすれば,,,魔法士隊長テーブロの霊魂さえも,巻き込んだ大がかりなものだったのではないのですか?」


 カルリーナは,目の前にいる第一王子副衛兵隊長マルベロと部下ガリッタを鋭い目で睨んだ。そして,,,ニコッと微笑んだ。


 カルリーナ「わたしは,別に,事を荒立たせることはしたくはありません。たぶん,亡くなった主人のために,よかれとしたことだと思うからです。でも,,,主人亡き今,今回の件については,事実を把握しておきたいと思っています。


 一切,他言はいたしません。それは約束します。ですから,正直に知っていることを明かしていただけませんか?」


 第一王子副衛兵隊長マルベロと部下ガリッタは,お互い,顔を見合わせた。もともとは,第一王子を殺したゴルージオが死亡したという事実だけを報告すればいいと思っていた。


 でも,ここまで鋭く詰問されてしまうと,もうすべてを白状するしかなかった。


 副隊長マルベロは,意を決した。そして,ありのままを報告することにした。


 副隊長マルベロ「カルリーナ様,,,はい,ご推察の通りです。すべては,わたくし,マルベロが計画したことです」

 

 副隊長マルベロは,こう切り出してから,言葉を続けた。


 副隊長マルベロ「すべての計画は,霊媒師であるレイジラが,本当に降霊術を行う異能力者であること,さらに彼女が上級魔法士であるということを知ったことから,今回の計画を思いつきました。


 わたしの目的は,第一王子を殺したゴルージオを暗殺すること,これが第一の目的でした。その計画を進める中で,メリー女帝が死んでしまうこともよしとしました。


 まず,合同慰霊祭が開催されることを知って,すべては,合同慰霊祭で,この禁断のネックレスを女王につけさせることさえ出来れば,あとの細かなことはどうにでもなります。その点が一番苦慮したことです。


 そして,,,合同慰霊祭の映像でも分かったかと思いますが,魔法士隊長テーブロの霊魂にも協力を要請しました。霊魂になった彼も,こころよく引き受けてくれました」


 カルリーナ「ところで,メリー女帝は,どうして結界の中で気絶してしまったのですか?」

 

 副隊長マルベロ「正直言いまして,わたしが関与したのは,禁断のネックレスを女王につけさせることです。後の子細は,部下,もしくは協力者のアイデアでお願いしました。

 

 後で,公然わいせつ罪で捕まった霊媒師レイジラに確認したのですが,特殊な呪詛を教えられて,その呪詛をネックレスに植え付けたどうです。どうやらその呪詛でメリー女帝は気絶したのだと思います」


 カルリーナ「そうでしたか,,,その後,女王は回復されたのですか?」

 副隊長マルベロ「はい。あの呪詛は,どうも特殊な呪詛らしく,呪詛をかけられたことさえ分からないものらしいです。当然,回復魔法では効果ありません。そこで,国王秘書は,全国に御布令を出して,女王が救えそうな能力者を集めました。


 51番目だったと思いますが,メリー女王のかかっている呪詛をまるまる他人に移せるという異能力者が現れました。彼の異能によって,メリー女帝の呪詛は,ゴルージオに移されて,ゴルージオは女王の身代わりになって死亡しました。


 女王は,その後,回復魔法が効く状態になって,快方にむかいました」


 カルリーナ「メリー女帝が助かったのは喜ばしいことですが,ゴルージオさんは亡くなったのですね,,,」


 カルリーナは,なぜか,目から再び涙が流れた。亡き夫のことを再度,強烈に思い出したのかもしれない。


 ひとしきり涙を流した後,カルリーナは,別の疑問を投げかけた。


 カルリーナ「その,,,どうして,あのような公然でわいせつな行為が行われたのですか?」

 副隊長マルベロ「公然わいせつ罪で捕まった霊媒師と,亡くなった魔法士隊長テーブロの弟であるテガーラに確認しました。その結果,テガーラが自分の判断で,あのネックレスに隠蔽魔法の透明結界と転移防止結界を構築したそうです。さらに,自分の服に催淫粉を降りかけたそうです。


 テガーラは,ネックレスを女王に手渡す役目です。その時,女王に催淫の臭気を女王に吸わせるのが狙いでした。その後,テガーラは,ネックレスから3メートルほど離れる予定でした。透明結界は,指輪から半径3メートルの範囲で構築されるからです。結界の中では,女王とゴルージオしかいないことになります。2人の卑猥なシーンを期待したそうです。


 ですが,結界が展開するその時,テガーラは,たまたまつまずいた霊媒師の手を取りました。その結果,結界の中に組み込まれてしまいました。


 そして,,,女王やゴルージオは,まったく無反応だったのに対して,霊媒師とテガーラは,催淫粉の臭気による効果で,あのような結果になったと白状しました。なんとも,お粗末な話です」


 その話を聞いて,涙顔のカルリーナが,クスクスと笑った。その笑い声が,その場の雰囲気を少し明るいものに変えた。


 カルリーナ「よくわかりました。いろいろな方が,今回の作戦に関与してくれたのですね?」

 

 副隊長マルベロ「はい,他には,護衛部隊とメリー女帝の側近である,マリア,アイラ,リブレたちを,メリー女帝から切り離す作戦も功を奏しました。その作戦では,闇社会を牛耳ているゲルゲ組長が指揮していました」

 カルリーナ「まぁ,,,そんな大物まで巻き込んでいたのですか」

 副隊長マルベロ「はい,,,いろいろな方が,今回の作戦に協力させていただきました。わたくし自身も,そして,わが部隊の連中もそうでしょうが,やっと,これで気持ちの整理が少しついたような気がします」


 カルリーナ「ここでは,『ありがとうございます』と言うべきなんでしょうね。例え,それが亡くなった夫の希望ではなかったにしても,,,」

 副隊長マルベロ「・・・」

 部下ガリッタ「・・・」


 しばらくしてから,カルリーナは,再度,姿勢を正して,副隊長マルベロと部下ガリッタに深々と頭を下げた。


 カルリーナ「副隊長マルベロ様,ガリッタ様,今回の作戦に関与した皆様に,もし会うことがありましたら,わたくしが心から感謝していたと申し上げてください。夫の意思はどうであれ,わたしカルリーナ個人として,今回の作戦での大きな成果は,不謹慎かもしれませんが,大変,喜ばしく,溜飲が下がる思いでした。ほんとうに,ほんとうにありがとうございました」


 カルリーナは,再度深々と頭を下げてお礼を述べた。


 副隊長マルベロと部下ガリッタは,大変恐縮してしまい,どうやって返事をしたらいいか窮してしまった。


 その後,その他の事件の顛末,例えば,公然わいせつ罪で捕まった霊媒師と,亡くなった魔法士隊長テーブロの弟であるテガーラは,公開による鞭打ちの刑を執行してから,開放される予定であること,ネックレスは,そのまま女王が身につけていること,今回の事件の真相は,たぶん,うやむやになってしまうだろうことも報告した。


 その後,副隊長マルベロと部下ガリッタは,カルリーナの家を辞した後,裏社会を牛耳るゲルゲ組長,その他の協力者たちへの挨拶回りに向かった。

 


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第4節 千雪が行く ー 魔装帆船編 ー @anyun55

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