第18話 合同慰霊祭
親衛隊長は,メリー女帝に出発時間を伝えた。眠らされている隊員,マリア,そして赤ちゃん以外のメンバー,すなわち,メリー女帝,ゴルージオ,親衛隊長,親衛副隊長,国王秘書の5名のメンバーは,1台の馬車に乗って,合同慰霊祭の会場に向かった。
その会場までは2時間の道のりだ。その間,まったく敵からの攻撃はなかった。あたかも早く会場に来てくださいと言わんばかりだ。
ー合同慰霊祭の会場ー
会場にはすでに遺族が集まっていた。彼らは,メリー女帝の仲間が彼らの愛しい家族を殺したことを知っている。だから,決して,メリー女帝を心から歓迎していなかった。
だが,霊媒師という,死者の霊体を呼び寄せることができる人がいるという奇跡のような話を聞いて,半信半疑で集まった遺族がほとんどだ。
合同慰霊祭では,亡くなれた霊体を慰安させることが目的だ。霊能力者の霊媒師を媒介にして,亡くなれた霊体に,再度,その遺族との面会の機会を与えることで,その霊体を本来帰るべきところに帰ってもらう。
この会場には,カメラ魔法陣が何ヵ所も設置されており,その音声付きの動画は,この国の市町村単位で,一辺が5mにもなる四角形のモニター魔法陣に映し出される。
新国王の就任式と同じくらい,重要なセレモニーだ。新国王としての,始めての公式な業務なのだ。
式典の開会の宣言は,メリー女帝が行った。
メリー女帝「では,ただいまから,この国のために亡くなられた,栄光ある戦士のための合同慰霊祭を行います。100名あまりの,栄光ある戦士の霊体を,一度にお呼びすることはできません。そこで,代表として,魔法士リーダーであったテーブロ様の霊体をお呼びして,遺族との面会をしていただきます。
その後,テーブロ様に,本来帰るべきところに帰っていただき,早期の転生の機会を与えたいと心から願っております。では,式典の進行を国王秘書にお願いします」
メリー女帝の宣誓を受けて,国王秘書が式典の進行を行った。
国王秘書「メリー女帝,了解しました。ここで,霊体と交信することのできる霊能力者,レイジラ様を紹介します。彼女は,霊体をお呼びして,その霊体に自分の体に憑依させることができます。つまり,霊体に一時的に自分の体を貸すことができるのです。その後,彼の遺族と面会していただきます。
すでに,この席上に魔法士リーダーであるテーブロ様の奥様とそのお子様,そして,テーブロ様の弟君がいらしております。
では,霊能力者レイジラ様に,魔法士リーダーであるテーブロ様の霊体をお呼びしていただきます。では,レイジラ様,よろしくお願いします」
レイジラ「国王秘書,御了解しまいた。非力な私ですが,真心を込めて,魔法士隊長テーブロ様に呼びかけてます。ご霊体が,応じていただければ,私の体に入っていただきます」
レイジラは,自分の体に霊体を憑依させた経験はあるが,その霊体を浄化した経験はない。でも,霊体といえど,『人』である以上,真摯にその人のために祈るのであれば,その気持ちは通じるはずだと彼女は考えた。
レイジラは,なんらメリー女帝に恨みはない。今回の仕事は,霊媒師としての素養があったのと,かつ霊体の慰霊のためと思って引き受けた。
レイジラ「魔法士隊長テーブロ様,魔法士隊長テーブロ様,どうか,わたくしのところにいらしてください。どうぞ,私の体をお使いください。そして,テーブロ様の家族とお話ください。お願いします」
霊媒師であるレイジラは,両手を合わせて,一心不乱に祈りを捧げた。遺族の皆が霊媒師の一挙手一投足に注目した。
しばらくすると,レイジラの合わさった手が振るえ出し,全身がブルブルと振るえた出した。
憑依現象を人為的に実現させるなど,誰も信じていない。絶対にインチキだと大部分の人たちは思った。だが,この場では,それを言うことはできない。仮に,演技だとしても,ヤラセだとしても,それは合同慰霊祭の式典の1つということで,別に非難するにはあたらない。
会場のだれかが,小声で声を出した。
「ふふふ,いい演技をしている。ほんとうに霊体が乗りうつったようだ。演技賞ものだな」
「霊魂がわざわざここに来て,しかも,あのような老婆の体に憑依する訳ないじゃん。私のような可憐な乙女の体なら,すぐに憑依されてしまうかもしれないどね,ふふふ」
会場の皆は,ほんとうに憑依できると信じているものは誰もいない。その意味では,わざわざ,真の霊能力者を探さなくても,美人の役者に演技をさせることで用が足りた。
だが,第1王子の衛兵副隊長らは,仲間の霊体を慰霊したいという真摯な気持ちがあり,その熱意が本物の霊能力者を見つけだした。
レイジラの震えが止んだ。そして,彼女の目がゆっくりと開いた。それは,あたかも,ほんとうに霊媒師の体に乗り移ったテーブロの霊体が,そこにいるようだった。そして,久しぶりに蘇生したかのようにつぶやいた。
テーブロの霊魂「え,私は死んだのではないのか?ユミーレ,私はいったい,どうしたのだ?それに,セリカがそこにいるのか?また,会えるとは思わなかった」
ユミーレ「あなた!あなたなのですか?覚えていますか?セリカがいつ生まれたか,覚えていますか?」
テーブロの霊体「ああ,覚えているさ。忘れる訳がない。あれは,嵐の夜だった。お前が急に産気づいたので,俺は慌てて,産婆さんを呼びに出かけた。そう,2年前の4月だ。桜が散りかけていたな」
ユミーレ「そうです!そうです!あなたなのですね!ほんとうに,また会えるなんて思ってもみませんでした。あなた!!あなた!!あなた!!」
ユミーレは,眼から大粒の涙がボロボロと流れて出した。そして,幼子のセリカを抱いたまま,霊媒師に抱き着いた。
それは,誰が見ても,演技でできるものではないようだった。会場の誰もが,『迫真の演技だ。ほんとうにもらい泣きしてしまう』と思った。事実,演技とわかっていても,もらい泣きするものが,跡を絶たなかった。メリー女帝も涙した。国王秘書は,凛として,泣くことはなかった。
霊魂のみの存在を経験したことのあるゴルージオは,もらい泣きすることはなかった。彼はもちろん霊魂を認識することができる。霊媒師の体に,テーブロの霊魂が侵入するところも視覚していた。それは,紛れもなく,本物のテーブロの霊魂だ。
ゴルージオは,メリー女帝に小声でつぶやいた。
ゴルージオ「あのテーブロの霊魂は,かなり弱っている。霊媒師の体を憑依できる時間は,あと数分くらいだ。早く,式典を進めたほうがいい」
メリー女帝は,コクッと頷き,国王秘書に式典を先に進めるよう促した。
国王秘書「テーブロ様の霊魂が疲れてきているようですので,式典を先に進めます」
国王秘書は,そう言って,霊媒師に向かって言った。
国王秘書「魔法士隊長のテーブロ様,あなたの霊魂は,かなり疲労しているようです。最後に,何か,遺族の方に,もしくは,われわれに言い残すことはないですか?」
テーブロの霊体「国王秘書さんか? われわれ霊魂になったもののために,合同慰霊祭を開催してくれたこと,感謝申し上げる。この体を提供してくれたレイジラさんは,本物の霊能力者だ。こうして,私が,また家族と会うことができたのも,すべて,レイジラさんのおかげだ。レイジラさんには,申し訳ないことだが,この式典が終わった後も,他の仲間の霊魂のために,この体を使わせてほしいと依頼してくれると嬉しい」
国王秘書「わかりました。その件は,レイジラさんにお願いしてみます。ところで,ご家族の方から,テーブロ様,もしくは,他の方へ,何か一言ありますか?」
この国王秘書の言葉に,テーブロの弟が口を開いた。
テーブロの弟「はい,実は,兄の遺品を整理していて,薔薇の紋章のあるネックレスを見つけました。特別な箱に収められていたものです。どうも,個人の所有物ではなく,仕事関係で一時的に預かったもののようですけど,これは,どうしたらいいのか,一度,王宮に尋ねようと思っていました。でも,兄が今,話せる状態なら,兄の意見を聞きたかったのですが」
国王秘書「わかりました。テーブロ様,弟君の持っているネックレスについては,見覚えがありますか?」
テーブロの霊魂「そのネックレスについては,覚えている。先代の国王が,自分の新しい妃,もしくは,女性の次期国王のために前々から用意したネックレスだ。私たち,魔法士が,ここ一年の間に,そのネックレスに魔力を注入してきたものだ。私が,こんなことにならなければ,第1王子から国王に返却してもらう予定だった」
国王秘書「では,このネックレスは,メリー女帝に渡るものだったのですか?」
テーブロの霊魂「メリー女帝? そうか。今は新しく女帝が擁立しているのだな」
テーブロの霊魂は感慨深そうにしてから,言葉を繋げた。
テーブロの霊魂「では,これはその女帝に送られるべきものと思う」
国王秘書「そうですか。では,メリー女帝に預かっていただきましょう。王宮に帰ってから,このネックレスを前国王に返却するかどうか,相談してもらいましょう」
テーブロの霊魂「そうしていただけるとありがたい。私の肩の荷も降りるというものだ」
テーブロの弟「では,お兄様,いま,このネックレスをメリー女帝の首につけていただいて,よろしいのですね?」
テーブロの霊体「ああ,大丈夫だ。そのネックレスには,体力を回復させる回復魔法が,毎日,一定時間,起動するようになっている。益はあっても害になることはない」
テーブロの弟「わかりました。では,国王秘書,どうぞ,このネックレスをメリー女帝に預かっていただけますでしょうか?」
国王秘書「わかりました。テーブロ様の言葉を疑う訳では,ありませんが,メリー女帝への贈り物は,すべて,一度,詳しく検閲してからになります。1時間もすれば検閲できるでしょう。問題なけれな,この会場で,皆の前でメリー女帝につけていただきます」
国王秘書は,テーブロの弟からネックレスを受け取り,親衛隊長に渡して検閲するように命じた。親衛隊長は,魔法士である副隊長に,このネックレスに仕込まれているかもしれない魔法陣や呪詛の解析を依頼した。
テーブロの霊魂「ふう,私は,そろそろ限界です。ユミーレ,すまないがセリカを頼む。弟よ,ユミーレとセルカを陰ながら支えてくれ。では,私は,これで去ることにする。元気で暮らしてくれ」
ユミーレ「セリカのことはまかしてください。安心してください。後のことは任してください。あなた,もし,来世があれば,また,私と一緒になってくださいね。その時まで,待っています」
テーブロの霊魂「ユミーレ。わかった。約束しよう,,,,」
霊媒師のレイジラは,また,体がブルブルと震えだした。そして,ゆっくりと動きが止まった。
レイジラ「テーブロ様は,帰るべきところに帰っていただきました。テーブロ様の意向では,仲間の方々にも,同様のことをしてほしいとの依頼がありました。国王秘書様,このまま続けてよろしいでしょうか?」
国王秘書「そうですね。ネックレスの検閲で,1時間ほど時間がかかりますので,このまま続けてください。ここに慰霊者のリストがあります。上から順番にしていただけると助かります」
霊媒師のレイジラは,慰霊者のリストを受け取り,順番に霊体を自分の体に憑依させて,その霊体の家族との再会をさせた。
そして,1時間が経過した。
親衛隊長は,ネックレスをもって,国王秘書のものに来た。
親衛隊長「国王秘書,ネックレスの検閲が終わりました。ネックレスには,時限式の回復魔法が組み込まれていました。また,注入されている魔力は,優に5年ほど稼働できるほどの膨大な魔力が込められています。メリー女帝につけていただいても問題ございません」
国王秘書「テーブロ様の言っていた通りね。では,ネックレスの授与式をして,この式典を終えることにしましょう」
国王秘書は,霊魂の憑依が終わるのを待った。霊媒師のレイジラは,流石に疲れたので,30分ほど休息したいと国王秘書に申し出た。国王秘書としても,かなり緊張の連続だったので,しばらく休息を取りたかった。そこで,慰霊者への対応が遅れてして,予定よりも30分ほどズレ込むことをメリー女帝や関係者に伝えて,自分も霊媒師のレイジラが休息するテントの中に入って,ちょっと休むことにした。
国王秘書は,知らず知らずのうちに仮眠してしまった。さすがにちょっと疲れたのだろう。彼女の手には,メリー女帝に渡すネックレスの箱を持っていた。
霊媒師のレイジラは,『もしかして,これってチャンス?! ネックレスの箱,このまま開けることができるかもしれない』と思った。国王秘書は,ネックレスの箱をただ,手のひらに置いているだけだった。彼女は,仮眠した国王秘書に,上級レベルの睡眠魔法をかけた。そうすることで,ちょっとやそっとでは,目覚めることはない。そして,ネックレスの箱を開けて,ネックレスに何度も練習した高等呪詛魔法を施した。
レイジラ「あれ?呪詛魔法陣が植え付けれないわ。どうして?」
レイジラは,ネックレスにぶら下がっている大きな宝石に植え付けようとしたができなかった。それは,すでに他の魔法陣が植え付けられていたことを意味する。彼女は,やむなく,大きな宝石の隣に配置されている小さな宝石に植え付けることを試みた。すると,そこへの植え付けはなんとか成功した。その作業に10分以上もかかった。そして,ネックレスの箱の蓋をもとに戻した。
その後,国王秘書にかけた催眠魔法の解除を行った。
レイジラ「国王秘書様?起きてください。もうここに来て30分が経過しましたよ」
この言葉に,国王秘書は,自分がいつの間にか仮眠していたことに気がついた。
国王秘書「あらら,いつの間にか寝てしまったみたいね。すいません,起こしてくれて」
レイジラ「いいえ,実は,わたしもちょっと仮眠していたのでお互い様です」
国王秘書「ふふふ。このことは内緒にしておきましょう」
レイジラ「はい,国王秘書様」
テントから出てきた国王秘書と霊媒師のレイジラは,セレモニー会場の壇上に上り,テーブロの弟を壇上に招き入れた。それと同時に,メリー女帝とゴルージオも,女王専用のテントから出て来て壇上に上がった。
セレモニーが再開した。
国王秘書「この映像を見ている全国の皆さま。霊媒師のレイジラ様のご尽力により,慰霊者のテーブロ様始め,これまで4名の慰霊者が,ご家族,友人と再会を果たしていただきました。そのほかの慰霊者につきましては,明日以降,霊媒師のレイジラ様のご厚意により,引き続きご家族,友人との再会を果たしていただきます。
ただいまから,テーブロ様の弟君より,テーブロ様の遺品であるネックレスをメリー女帝にご提供していただきます。
メリー女帝の政務の関係上,この授与式をもって,合同慰霊祭の式典を終了いたします。
では,テーブロ様の弟君,このネックレスをメリー女帝にご提供ください」
テーブロの弟君,名をテガーラというが,テーブロ一家は,この獣人国でも有数の名門魔法士の家系だ。テーブロは,SS級魔法士には到達しなかったが,それでも,S級魔法士の中でも,SS級魔法士にあと一歩のレベルだった。あと数年もすれば,SS級魔法士になれる人材だった。
また,彼は暗黒魔法の対策チームのリーダーでもある。弟のテガーラは,政府のスタッフではないが,この対策チームのメンバーだ。
暗黒魔法は,この地域に根ざして発達した独特の魔法だ。といっても,特別なものではない。『隠密』,『透明』というイメージの魔法だ。時限式爆裂魔法陣を構築するときでも,その魔法陣を隠密化して,発見されにくくする。魔法国では,尊師が得意とする分野だ。
暗黒魔法に対抗するには,暗黒魔法に精通しなければならない。弟のテガーラは,上級魔法士だが,魔法陣の造形に深く,かつ隠匿魔法陣を構築することができる。
例のネックレスには,表面的には回復魔法の魔法陣を構築しているのだが,隠密裏に,転移防止結界と透明バリア結界を施していた。一度,起動すると,1時間は持続するほどの魔力がネックレスの中に十分に込められている。
暗黒魔法については,アイラが得意なのだが,今,ここにはアイラはいない。今の親衛隊長や副親衛隊長たちの魔法レベルでは,この隠密化された転移防止魔法陣と透明バリア魔法陣を見つけ出すのは,無理なことだった。
今回の,メリー女帝とゴルージオに一泡吹かせてやる作戦は,このネックレスを確実に,メリー女帝につけさせることにある。かつ,結界内には,メリー女帝とゴルージオだけにする必要がある。
弟のテガーラが,ネックレスをメリー女帝に手渡すときに,ネックレスに密かに施した結界魔法陣に魔力を流せばいい。発動まで1分後だ。さらに,高活性の揮発性媚薬剤は,すでにテガーラの服から揮散し始めている。
あとは,結界内で閉じ込められた2名が,どのような行動に出るかを,カメラ魔法陣を通して,モニター魔法陣に,メリー女帝とゴルージオの淫らな姿を映し出させて,全国の市民に彼らを辱めるのだ。
そうなれば,メリー女帝は,もう威厳もなにもなくなり,退位せざるをえなくなるという目論見だ。
完璧な計画だ。これまでのところ,完璧に計画通りに進行していた。
弟のテガーラは,検閲の済んだネックレスを国王秘書から受け取り,それをそのままメリー女帝に手渡した。
その行動には,何も不自然なところはまったくなかった。メリー女帝とゴルージオ以外の連中は,その場から退いた。というのも,ネックレスを着飾ったメリー女帝は,聴衆に,そして,カメラ魔法陣に向かって,その美しい姿をしばらく見せる必要がある。邪魔な連中は映らないほうがいい。
それから,1分が経過した。すると,ネックレスに隠匿された2つの結界が起動した。ネックレスの場所を中心点として,半径3mの範囲に構築された。
その範囲内には,メリー女帝とゴルージオだけがいるはずだった。
しかし,その結界内には,メリー女帝とゴルージオのほかに,霊媒師とテガーラも閉じ込められてしまった。テガーラは,隠し結界のスイッチを入れて,1分後に結界が発動するとの認識だった。それはそれで正解だ。
だから,テガーラは,確実にネックレスから3m以上離れていた。魔力を流して55秒までは,,,
ただ,彼のすぐ後ろからついてきた霊媒師が足をつまずいて転びそうになったのに気が付いて,霊媒師を支えてしまった。
霊媒師のところで,2メートル90cmほど離れた距離だったが,手がテガーラと繋がったことで,テガーラも結界内に閉じ込められてしまった。
アー--!
テガーラは思わず叫んでしまった。だが,もう後の祭りだった。自らの仕掛けたトラップに,自らがかかるなんて,なんと愚かなことか!
これから1時間は,転移で逃げることもできない。 透明バリアのため,カメラ魔法陣で,鮮明に結界の様子を映し出されてしまう。
まず,異変を感じたのは,初老の霊媒師だった。テガーラの服から揮発する高活性の揮発性媚薬は,瞬時にして,この結界内を媚薬の活性成分で充満した。霊媒師の顔が赤くほってきた。霊媒師にとって,こんなに体がほてるのは,もう何十年ぶりだ。
霊媒師の体を支えているのは,年若い,年齢にして20歳にも満たない好青年,テガーラだ。霊媒師は,自分がすでに閉経して数年以上にもなろうとしているにもかかわらず,老婆であることを忘れた。彼女は,性欲旺盛な20代の頃に戻り,服を脱いで全裸となった。
彼女の胸は,その年齢に見合わず,やや垂れ下がってはいるが,54歳にしては,Eカップの大きな胸を,全国のモニター魔法陣上に鮮明に映し出した。
カメラ魔法陣は4台あり,望遠機能も大変優れており,そのEカップの大きな胸を余すことなく鮮明に映し出した。その年令に見合わず,十分に鑑賞に耐えるエロチックな体をしていた。
テガーラは,万一のために,自分に対して媚薬に抵抗できる薬を飲んでいた。しかし,それは10分程度しか効果がない。それまでに,薬のついた服を着替えるつもりだ。すでに5分以上が経っていた。テガーラは徐々に性的興奮を覚えて来るのを感じた。媚薬抵抗薬の効果が切れ始めた証拠だ。
全裸となった霊媒師の行動は単純だ。眼の前にいる若い男に襲いかかればいい。
彼女からの攻撃を回避することなど,彼にとって容易なことだ。だが,彼はそれを回避しなかった。彼の目には,54歳とはいえど,きれいに化粧をした面立ちのため,老婆と呼ぶには可愛そうで,見ようによっては20代の女性にも見えた。Eカップのやや垂れた胸は,極上のピチピチの胸に見え始めた。
まだ女性経験のないテガーラにとって,彼女のエロチックな裸体は,彼の理性を無くすには十分だった。
薬の効果はどうであれ,カメラ魔法陣に写し出されているのもお構いなく,テガーラは自我を忘れ,自らの性欲に身を任せた。
テガーラは,霊媒師によって服を脱がされ,ズボン,パンツも脱がされた。テガーラの下半身はすでに緊張状態だった。
そこからは,この獣人国始まって以来の,全国放映によるAV鑑賞の時間が始まった。そして,その時間は,60分間もある贅沢な時間だった。
ゴルージオは,生身の肉体をもっていないので,媚薬には無反応だ。また,メリー女帝は,千雪の禁呪によって性欲を抑えられており,どんな高活性の媚薬であっても,効果などあるはずもない。
テガーラにとって,媚薬でメリー女帝とゴルージオを公衆の面前で辱めようというアイデアは良かったのだが,使うべき相手が悪かった。もともと媚薬は彼らには,まったく効果はなかったのだ。
結界の外で,しばくらく呆然としていた国王秘書は我に返った。すぐに親衛隊長に命じた。
国王秘書「親衛隊長,何をのんびり鑑賞しているのですか!はしたない!早く,あのエッチな行為を止めさせなさい!」
国王秘書は,彼らの周りに結界が構築されていることを認識していなかった。透明結界なので,肉眼ではわからなかった。
親衛隊長「あ,あ,はい!わかりました!」
親衛隊長も訳がわからなかった。なんで眼の前で霊媒師とテガーラが絡み合っているのか? それも霊媒師はテガーラを地に倒して馬乗りになり,Eカップの2つの乳房を上下に力強く揺らしていた。
会場の全員が,なんで眼の前で愛の行為に及んでいるのかまったく意味不明だった。モニター越しで見ている全国民にとっても同様だった。
モニター魔法陣で映し出されたのは,そのEカップが上下に揺れるところを,大々的にアップで映し出した。カメラ魔法陣は,『動くもの』を特にアップにする機能がある。また,4台のカメラ魔法陣があるため,ときどき,全体像を映してくれるので,その迫力は,まさに生配信のAV映像以上だ。
全国の年若い一部の青年は,鼻血を出してその場で卒倒した。国民は,このような映像を見るのは始めてなので,どう対応していいのか分からない。
国王秘書も,すぐにカメラ魔法陣の向きを変えればよかったものを,カメラ魔法陣の存在さえ忘れていた。
親衛隊長は,メリー女帝を中心として,半径3mの範囲に透明バリアの結界があることに気づいた。彼は剣技と攻撃魔法で,この結界の解除を試みた。
ダーーン,ダーーーン,ダーーン!
しかし,この結界はびくともしなかった。それもそのはずだ。これまで蓄えた膨大な魔力を使って,1時間だけの強固なバリアが構築されているのだ。SS級レベルの攻撃魔法1,2発程度であってもびくともしない。
親衛隊長は焦った。これでは親衛隊員の面目丸つぶれだ。眼の前の卑猥な行為さえも止めることができない! この神聖であるべき合同慰霊碑の前でこのようなことが行われるとは,新国王のメリー女帝にとっても,致命的になる可能性がある。
この意味では,テガーラの行為は,結果的に成功したと言っていいもいいのかもしれない。
親衛隊長「国王秘書,すいません。全力で透明バリアを破壊しようとしましたがが,まったく歯が立ちません」
国王秘書「いったい何なのよ,このざまは!それでも親衛隊長なの!!」
それから,10分が経過したものの,相変わらず,霊媒師とテガーラは,むさぼりあうのに夢中だ。テガーラは果てた後も,霊媒師の口技によって,また元気になり,その行為を繰り返した。
メリー女帝「霊媒師さん,正気に戻ってください!テガーラさん,あなたもなんですか!すぐにエッチな行動を中止してください!」
しかし,テガーラや霊媒師はまったく聞く耳を持たなかった。メリー女帝は,已む無く,ゴルージオに命じてテガーラと霊媒師を気絶させるように命じた。
ゴルージオは,性欲に支配されている彼らの後頭部を強打して気絶させた。その後,周囲に脱ぎ捨てられた服で彼らの裸体を覆った。これ以上,彼らに醜態を晒すのは避けなければならない。
この時,メリー女帝は,ちょっと目眩がしてきて。その場に横になった。だが,とうとう我慢ができず,その場で意識を失って倒れた。
ゴルージオは慌てて,メリー女帝のところに駆け寄った。
ゴルージオ「メリー様,どうしたのですか?メリー様!!」
メリーは意識を回復しなかった。
意識を失った女王を見て,国王秘書も焦った。
国王秘書「親衛隊長!!何事なの??メリー女帝は大丈夫なの??」
親衛隊長「わかりません。ともかく,一点でもいいから,穴を開けるようにします!!」
親衛隊長らは,全力で,透明バリア結界の1点のみを集中的に攻撃した。それに合わせるかのように,ゴルージオも,結界の内側から同じ地点を宝剣で攻撃した。
バヒューーン!バヒューン!ダン!ダン!ダン!
内側と外側の両面攻撃によって,やっと,結界にヒビが入り,宝剣が貫通できるほどの穴が開いた。結界は,一箇所,崩れたらもう有効に機能しない。その後,10分程度で,透明バリア結界は,完全に破壊された。
テガーラと霊媒師は,すぐに霊媒師のテントの中に運ばれた。メリー女帝も彼女の専用テントの中に運ばれて,すぐに魔法士たちによって,治療にあたった。
このようなハプニングがあっても,まずは,この合同慰霊祭を有終の美に終わらせなければならない。
国王秘書は,再び壇上に立って,聴衆とカメラ魔法陣に向かって,少々,ハプニングがあったものの,合同慰霊祭の式典を無事に終了したことを宣言した。
また,女王が倒れたものの,命に別状はないことも伝えた。この場で,女王が意識を失ったことは,かえって,女王に対して好印象を与える結果になった。
ーーー
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