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十二月二十四日。十八時三十分。咲香は満天の星々の下で死んだ。彼女は俺があげた〈七二〇時間〉を全て使い切ったのだ。
咲香の最期は正直に言ってしまえは、面白くなかった。星に負けないくらい、まるで星をかき消す太陽のような笑顔で死んでいった。もう全部やり切った顔をしていた。死に怯えることなく、死に嘆くことなく、後悔を口にすることなく、俺の手によってその命は終わりを告げた。俺はすぐに連絡をして死体は家まで運ばれた。そして今、目の前に笑っている咲香の大きな写真が飾られている線香の香りがする場所にいる。
「……」
棺桶の中に眠る咲香は、俺の手で殺された時と何も変わらない。笑みを浮かべるためには筋肉を使うため死ぬ時には真顔に戻るはずなのだが、死んだ時に笑顔だったせいか、よく笑っていたせいか、彼女は笑ったまま。こんな言い方をすると怒られるかもしれないが、棺桶の中でまで笑っている姿は気味悪い以外の感情を持つことができなかった。舞美も友莉も真顔だったぞ。まぁ、咲香らしいといえば咲香らしい。
「最後の最後まで咲香の近くにいてくれてありがとうございました」
咲香の家族にあった時、開口一番でお礼を言われた。
「こちらこそ、彼女のおかげで楽しい日々を過ごすことができました」
俺の口からは嘘で塗り固められた言葉しか出てこなかった。俺が殺したのだ。感謝されるなんておかしいではないか。でも、俺が殺しましたなんて言ったところでこの家族は信じてくれないのだろう。数字が見えるこの世界で重要なのは【どうやって死んだのか】より【数字が0になって死んだ】ことなのだから。
家に帰れば、咲香の荷物が転がっている。家族に返そうと思ったが、葬式やら色々あって片付けるのが億劫だった。明日にでも荷物をまとめなくては。俺はベッドへ倒れ込む。たった一ヶ月であったが咲香のうるささで一人暮らしの寂しさが紛れていたのかもしれない。言葉にはうまくできない寂しさを感じる。が、いつまでも引きずっているわけにもいかない。彼女たちは亡くなったが俺にはまだまだ時間があるのだ。これからどうやって生きていくのかはわからない。これから何が起きるのかもわからない。でも、レールはすでに敷かれている。ならば、レールの上で精一杯楽しんでやろうではないか。
「よし!」
俺は起き上がって、明日にやろうと持っていた片付けを始めた。
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