7

「君は友莉ともりが死んだ日のこと、覚えてる?」

 仲が良かった四人組の中で二番目に死ぬのが早かった彼女。友莉が死ぬあの日、俺と舞美と咲香は友莉の実家にいた。最期は家族に看取られながら亡くなりたいと願っていたから。

「あの日は三人で友莉の実家に行った」

「ううん。違う。友莉が死ぬ直前のこと」

「死ぬ直前のこと?」

 確か見ていられなくなった友莉の母親が部屋を出ていき、父親がそれを追いかけた。残された俺たち三人。残り十秒。友莉は涙を流しながら、ごめんなさいと謝っていた。残り一秒。俺たちに向かってありがとうと呟いて亡くなった。

「友莉の両親は部屋を出て、俺たち三人に向かってありがとうって」

「その時、君が見ていた景色は思い出せる?」

「え?」

 咲香に聞かれて思い出そうとするもどこかぼやけていて思い出せない。この時、俺はどこにいたんだ? どんな景色を見ていたんだ?

「やっぱり、思い出せないよね」

 咲香は確証を得たようで頷いている。どういうことなのだ。何があったのかは思い出せる。友莉が何を言っていたのかも思い出せる。のに、あの時見ていた景色だけは思い出せない。そう、涙でぐちゃぐちゃになっている友莉の顔以外は。

「君が友莉を殺したんだよ。友莉だけじゃない。舞美も、他の女の人もみんな」

「は?」

「時間が0になる瞬間に君が喉を締めて殺したんだ」

 咲香のいたずらにしては酷い嘘だ。俺が友莉を、舞美を殺した? どうして? もし、本当に殺していたのするならば、殺人で捕まっているはず。友莉も舞美も何事もなく灰になったではないか。

「俺が殺した? その証拠は??」

 咲香はスマートフォンを取り出し、一本の動画を見せてきた。これは。

「舞美が死ぬ時の動画。きちんと許可は取ってるから」

 俺が舞美の上に馬乗りになり、手は舞美の喉に伸びている。きっと数字が0になったのだろう。数秒後には何事もなかったように舞美の上から降りて、咲香の隣に立っていた。

「友莉と舞美の間で、君は私達と面識のない女の人と付き合って殺している。舞美は始めからわかってたよ? 君が浮気してるの。でも、あえて気づかないふりをしてた。友莉のことはたまたまだったって信じてたから。でも、君は舞美の願いに反して首を締めて殺した。そして、舞美も私の目の前で君に殺された」

 脳の整理が追いついていない。これまで俺はたくさんの女性の最期を見てきた。あの、泣き喚く姿を、まだ生きていたいと乞う姿が見たかったから。あの姿に異常なまでの性的興奮を感じていたから。それがどうだ。俺が殺してきたと言うのか。俺は女性を殺すことに快感を覚えていたと言うのか。だから、時間が短い女性ばかり狙って付き合ってきたとでも言うのか。幼馴染が死んでから十年。俺がおかしな癖に目覚めてから十年。その十年間で俺はたくさんの女性の死を見送った。いや、見送ってきたのではなく全員殺してきたとでも言うのか。

「君が混乱するのも無理ないよね。殺す瞬間の記憶が飛んでるんだもん」

「……もし、それが本当だとして、俺がここにいる理由はなんだ。どうして殺人の罪で捕まっていないんだ」

「まだ、この数字が出てきてから十年だよ? 0になった人は死ぬことしかまだわかってない。結構【0になったから死んだ】ってことが強烈で【0になった時に何で死んだのか】はまだスルーされがちなんだよね。それに君は【二人きりの時に相手が死ぬシチュエーション】が多かったおかげもある」

 だから、俺は夢の中で舞美に馬乗りになっていたのか。

「君が女性を殺す姿を見ても、舞美は通報をしなかった。そして最期まで君に真実を伝えなかった。それは君のことが好きだったから。最後の最後まで君は人殺しをしないと信じていたかったから」

 舞美は全部わかっていた。わかっていた上で何も言わなかった。俺から向けられている感情が偽りだということも全部。だから、俺はこうしてここで生きている。

「これも全部【始めから決められていたこと】なんだよな」

「そうだね。これも全部、神様によって決められていたこと。君が責任を感じる必要はないのかも。だって、神様は0になった人は死ぬっていう辻褄を合わせるために君を使っただけなんだから」

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