野営地②   派閥会議へ総帥流で参加する

 バンスキングはもう1人の幹部と共謀して、ボクを逆追放した男。


 アイツが関わってるなんて!!


「落ち着くの。らしくないのじゃ。

 まあ、気持ちはわからなくもないけど」


「……すまない。

 続けてくれ」



 マシロの話を聴く。


 スズカの連絡が途絶える直前。

 彼女はF○VRの派閥との交渉に向かっていたらしい。


 その途中で突然ログアウト状態になったそうだ。

 戦闘不能による転移や消失ではなく。


 それが起きたのがリアル時間で2週間前。

 以降、彼女はこのゲームにログインしてきていない。


 と、ここまではすでにメールで語られていた内容と大体同じ。

 目新しい情報は特にない。



「ふむ。だがそれは、ヘッドセットが作動中に壊れたのではないか?

 そしていまだ修理中だからログインできない。

 そう考えるのに、なんの不都合がある?」


「うん、それはそうなんだけど。

 リアルでも連絡が取れなくなっているんじゃよ」


「リアル!?

 マシロはリアルでも知り合いなのか!?」


「んと、メールでやりとりしてる程度だけど。

 総帥もそうじゃろ?」


「まあ、そうだな。確かに」


 そんなマシロも、さすがに彼女のリアル住所などは知らないらしく。

 ゲーム内からなんとかスズカの状況を探れないかと活動をしているようだ。



 一度ログインをすると、時間がくるまでゲーム内ではログアウトできない。

 それが、ネオ・イグドラシル独特の基本ルールの1つだ。


 そして現時点で、例外は見られないらしく。

 各方面で色々な手段を試されたがダメだったという情報が出回ってた。


 やはりあらかじめマシンの電源をタイマーで落とすようにするとか。

 多分、それくらいしないとダメなんだろうな。


 そういえば、そういう報告も見当たらなかったような気がする。

 実際どうなんだろう?



「しかし他派閥と交渉とは、彼女はD○VR派閥の幹部でもやっているのか?」


「幹部もなにも、実質彼女がD○VR派閥のリーダーじゃよ。

 本人はそれを否定して、副総帥を自称しているようじゃがの」


「そうなのか!?

 それにしても、副総帥とは」


「全部、変態さんをD○VR派閥の総帥にするため」


 カノがそんなことを言う。


「そうじゃな。

 派閥をある程度落ち着かせたら、総帥を迎え入れようと考えていたようじゃ」


 そうか……スズカはそんなことを考えていたのか。


「だから、変態さんの責任でもある。

 即刻、スズカを見つけ出すべき」


「うっ」


 全て彼女が勝手にやったこと、なんだろうけどそんな風に言い捨てられない。


 スズカの作った流れに乗っかるかどうかはともかく、ボクと彼女とマシロ。

 それにカノも加えてこの面々でギルドをここに立ち上げられれば。

 どんなに楽しいことだろうな。


 まあとにかく、


「責任など関係ないな。

 彼女を助けると決めたから助ける。これはそういう、いたってシンプルな話だ」



 マシロの話は続く。


 そんなスズカがF○VR派閥との交渉におもむく切っかけとなったもの。

 それが、バンスキングのもたらした情報らしい。


 奴もネオ・イグドラシル入りをしていて、現在はソロで活動しているようだ。

 だが、F○VR派閥ともコミュニケーションを取っているらしい。


 そうか、連中はあれからF○VRに鞍替えしたんだな。


 ……どうしても、奴らの仕業に思えてしまう。

 バンスキングだけでなく、グレイの影もちらついているとなおさら。


 こうなったらいっそ、F○VR派閥の野営地に乗り込んで――。


 いや、決めつけるのは早いか。

 ボクがヒドい目にあったからそう感じるだけなのかもしれない。

 だいたいそんな単純な話なら、マシロだってそういう前提で話をするはずだし。


 ていうか強制ログアウトとか、彼らにシステムを覆すようなことができるのか?

 あるいはそういうバグなり裏技でもみつけたんだろうか?



「それで、原因、または首謀者について、お前の見解はどうだ?」


「まあ、バンスキングやグレイディアスが無関係とは思えないの。

 ログインできていないのは偶然の事故かなにかじゃろうが……。

 裏が取れてないのはなんとも悔しいけど……」


「まあ、そうだな。妥当な見方だろう。

 動機はどう見る?」


 単にスズカへの恨みを晴らすとか嫌がらせとかにしては手が込んでる。

 ましてやスズカがD○QR派閥の幹部となれば尚のこと。


「F○VR派閥の中にも穏健派と強行派がおっての。

 その強行派が和平を嫌って反抗におよんだ、と言ったところじゃろうか」


「……それで、この先どうするのが最良か、マシロの見解を聞いてもいいか?」


「そうじゃな、なんにしてもスズカの足取りを追うのがいいと思うの。

 それに、バンスキングとも一度会ってみるべきなんじゃないかな」


「カノは、どうだ?」


「グレイディアス、怪しい」


「ほう。どうしてそう思う」


「なんか、そういう顔つき。

 あれ、鉄分足りてない」


「……まあいい。

 ならばどうする?」


「ライフルで1発。

 わたしなら3回はいける」


 あー、そうか。やっぱり彼女はそういう系か。

 ていうか、3回ってなんのカウントなんだろう。


「カノや……。まあ、ワシも怪しいと思うんじゃが、暗殺は最後の手段かの。

 して、総帥はどう考えるのじゃ?」


「足取りを追うべき、というお前の見解は正しい。

 ただ、その前にやることがある」




 野営地中央の大テント。

 そこでは幹部会議がおこなわれていた。


 普段はスズカが主導しているらしいけど、今は不在。

 ということで、今回は彼女抜きで開かれている。


 強制ではないらしいけど今日は特別に全員が揃っていた。

 アイリーンの持ち込んだ、G○VR派閥との不可侵協定を検討するためだ。


 D○VR派閥は他の派閥とは違い、穏健派がほとんどを占めている。


 そもそもD○VRのプレイヤーの多数が、マイペースでゲームを進めたい派。

 また戦いをしたい人は別の派閥に鞍替えしているというのもある。


 そんなわけで、幹部会議は落ち着いた雰囲気の中で和やかに進んでいた。



 だが、会議も終盤に差しかかるころ、そんな状況は瞬く間に崩される。




「諸君!!! 会議は順調かな?」


 この、ボクの介入によって。




「おい! 警備はどうなってる!?」


「あなたは一体!?」


「仮にもギルド、いや派閥だったか? その幹部ともあろう者が、狼狽えるな。

 わたしは『ウルド』という。

 『総帥』のほうが、通りがいいか?」


「なんで、道化師がこんなところに……」


 会議室のテーブル、上座近くに座っている男が呟いた。


「ほう、お前か。P○VRでは世話になったな。

 幹部No33、『幻影のファントム』よ」


 声をかけると、ハッとした表情をする。


「『なんでアバターを変えているのに、自分がわかるのか?』

 という顔をしているな。わかるとも。

 私と袂を別ったあの場の幹部全員のことも、行動も、全て心に刻んでいるし、

 『全てわかっている』」


 ウソだ。


 マシロにあらかじめ、一部の幹部メンバーの素性を聞いているにすぎない。


 彼らは、現時点でボクと彼女に繋がりがあることを知らない。

 仮に知っていたとしても他人に自分の素性を握られてるとは思ってないだろう。


「今は、スズカが世話になっているようだな。

 彼女に代わり礼を言わせてもらおう。

 この場で、彼女の足を引っ張っている若干数名を除いてな」


「足を引っ張る!? 失礼な!

 我々がどんな苦労をしてこの派閥を支えていると思ってる!

 わかっているのか!?」


「ああ、それもわかっている。

 そいつらが、どのような形で彼女の足を引っ張っているのかも。

 そして、彼女をどのようにしたいのかも。全てだ」


「なんだコイツ! 出ていけよ!

 ここにお前の居場所なんてねえんだよ!」


 座席の下手に座っている男が立ち上がる。


 マシロから聞いた話だと、相当な強者だ。

 少なくとも、クラスLv1のボクではまともな戦いにならないだろう。


 そいつが拳を振り上げて、殴りかからんと突進しながら襲ってきた。


 とっさに回避ステップを踏む。

 男は『遅い!』と言わんばかりにニヤリと笑みを浮かべ。


 直後、そいつの握りこぶしがボクの顔面に入ってしまった。



 ――けど、彼の拳ごと全身がそのままボクの身体をすり抜け、床を転げる。


「お前は、この回避モーションを知ってるはずだ。

 幹部No39『Brack Cat』よ。

 英語の勉強ははかどってるか?」



 P○VRの魔術師系アバターの回避モーション『ミラージュステップ』。


 これは2~3秒間一定距離宙を自由にホバー。

 その間は敵の全ての攻撃や体当たり判定を無効化できる。


 連続使用だけで、ボス敵の数十秒近くの集中砲火を全部かわせるときもある。

 強力な回避モーションだ。


 ただしその間は自分も攻撃できない。移動速度も歩きと同じ位。

 発動終了後からの再発動に若干のリキャストタイムが発生する隙がある。

 過信・多用は禁物。



 ちなみに彼はスペルミスを、命名してからしばらく気付かなかったらしい。

 ボクらの前では、わざとこういう名前にしたって言い張っていたけど。

 『Brack』の日本語訳は『乾燥フルーツパン』らしいので、意味不明だ。


 彼を見ると、立ち上がることもできずに床を転げながら悶絶している。

 打ちどころがわるかったわけではないよな。気の毒なことをした。


「私はここに居場所を作りたいわけではない。

 ただ、彼女が新天地で楽しく過ごせることを願うだけだ。

 それを妨げることは、我が覇道に立ち塞がることと同義。容赦はしない」


「容赦はしないって、潰すってことか?」


「さて、どうだろうな。お前たちが我が覇道を阻むというのなら問答無用だが。

 この場の罪人を裁くかどうかは、彼女がここに戻ってきてから決めること。

 ただ、それすらできない状況にあるのを看過はしない。決してだ」


 そう言って、ボクはその場を立ち去った。



 こんなことをしたのは、連中に揺さぶりをかけるためだ。


 怖いほど情報を持つマシロも、今回の件では犯人のしっぽを掴めていない。

 何者かが相当慎重にやってるからだろう。


 だけど、その手の策はえてして想像もしない暴挙に弱い。

 だから鎌をかけてみた。


 連中からしたら、ボクは『サ終ゲームの道化師』にすぎない。

 あの場でなにを言ったところで、嘲笑を浴びせかけられるだけだろう。

 本来なら。 


 それがああも、動揺と怒りを露わにしたわけだ。

 連中が個人的に隠したいどうでもいいネタをこっちがちらつかせただけで。


 これを陰謀の証拠というつもりはない。

 だが、なにかうしろめたいことがあるのは間違いないだろう。


 これで警戒して邪魔をしてこないのなら幸い。

 焦ってボクらに余計なちょっかいを出してくれるとなお面白い。

 

 なんにしても、とりあえずタネはまいた。

 芽を出す時期は多分、それほどあとにはならないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

イグドラシル/サバイバー ~VR世界の追放者~ Gart @Gart

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ