野営地①   目覚めし冒険者の集い

「諸君!! 我は嘆いている!!」


「「「「「「!?」」」」」」


「ダークマターを殲滅し人々に穏やかな心が返ってきたと思いきや。

 まさか、こうも魂が汚染されている者がいるとは……」


 ダークマターはP○VRにおいて究極の悪役。

 問答無用で絶対に殲滅するべき相手、と設定ではなっている。


「ならば! 帰って来ざるを得まい!

 全ての汚染を浄化すると、先に逝った全ての同胞たちに誓ったのだから!!!」


「うわあ、アイタタタ」


「でも慣れるとこれはこれで、なんかたまらない……」


 そうだろう、そうだろう。


 人というのは慣れるイキモノなのだ。

 いたたまれなくなるような雰囲気とかでも。


 期待通り、周りの空気はピリピリしたモノから気の抜けた感じに変わっていく。


 場が煮詰まってるときはこう、バカバカしく濁してしまうに限る。

 もちろん、周りの怒りを買うときもあるけど。


 『こいつじゃあ、仕方がない』と思わせられるところも、総帥スタイルの強み。


 どうせ周りには道化と思われてるんだ。

 なら、とことん利用してやろうじゃないか。


「……で総帥どのはこの件、どう考えておるのかの?」


 そして場が十分冷めたところで、マシロがボクに問いかけてきた。


 P○VR終盤、彼女とよく絡むようになってからまま見られる流れ。

 マシロもわかってる。


「善悪とはおのれの内にあるもの。

 自分を一人で見つめる機会を与えれば、自ずと魂は帰るべきところへ帰る。

 それがどんな帰着であろうと、我の覇道を阻もうというのなら滅ぼす。

 それだけの話」


「ようするに、このまま放置してあとはなるように任せる。

 次また来てもぶん殴る。

 ということかの?」


 彼女がうまく要約してくれた。


 細身の男をちらりと見るがボクの提案を否定しているような感じは受けない。

 どうやら乗ってくれそうだ。


「まあ、それでいいんじゃない?

 しばらく動けないよう、軽く縛るなりしておいたほうがいいとは思うけどさあ」


「勝手にするがいい。

 なにをしたところで、それがその者の道。

 どうあれ、我々が歩みを止めるほどの話ではない」


「……そうですね、わかりました。

 確かに私が早く交渉を終えることで、避けられるもめごともあるでしょう。

 でも」


 彼女は、自分のストレージからいくつかのアイテムを出す。

 それを地面に置いた。


「かー、食料やモンスター避けのアイテムまで置いていくとは。

 人が良すぎるだろ」


「やはり、甘いですか?

 総帥様」


「言ったはずだ。

 なにをしようと、我の覇道から見れば些事」


「ありがとうございます」


 こうしてボクたちは彼を残骸の適当なところに縛り付けて、車に乗り込んだ。




「で、我々はどこに向かっているのだ?」


 とりあえず色々なことが一段落してマシロにたずねる。


「そういえば説明してなかったね。

 わっちたちは、今『D○VR』派閥の野営地に向かってるのじゃ」


「野営地?

 街などは存在していないのか?」


 その辺りの話を聞くに。

 一応この世界にもNPCが存在し、彼らが街や村を作っているようだ。


 だけど、どの派閥もそこに拠点は置いてない。

 様子がわかるまでNPCとはあまり関わらない方針で各派閥が一致したそうだ。


 そして今は、各派閥ごとに人里離れた場所に野営地を構築。

 そこを拠点に活動してるとのこと。

 ボクらが向かってるのはそのなかの一つ、『D○VR』の野営地。


 ちなみに彼らは、自分たちを


 『目覚めし冒険者たちの集い』


 と、称しているらしい。




 車にゆられること数時間。

 野営地と思われる、無数のテントが遠くに姿を現しはじめる。


 ここから見えるだけでも規模は相当なもので、ちょっとした都市を連想させた。

 どうやら野営地には3000人弱はいるらしい。


 ちなみに『D○VR』は2Dの時代からある国民的RPGをVR化したもの。

 『F○VR』もそう。


 それだけにどちらも圧倒的参加人数を誇り。

 両ゲームをさしてVRゲーの双璧と言う人もいる。


 『P○VR』カテゴリーのプレイヤーが集まっても多分、千人はいかない。

 うらやましい限りだ。


 それにしても、他VRゲームでは考えられない規模だ。

 ていうかそんな人数が一所に集まれるシステムを持ったゲームは他にないはず。


 運営は一体どうやってサーバー上にそれを構築してるんだろ?



 そんな大量のテント群の手前で、ボクらは車を降りた。

 アイリーン一行とは、そこで別れることになる。


「その、『道化師』なんて言って悪かったな」


 去り際、冒険者パーティーの面々が話しかけてくる。


「ずいぶんと素直じゃない?」


「うるせえ!

 『強ければそれでいい、それ以外は些細なこと』

 それが俺たち狩人のモットーだろ。コイツは強い」


「あんなものは強さではない」


 ボクは答える。


「偶々、あの技を我だけが使えたから使っただけにすぎない。

 カテゴリーが『P○VR』だったらお前にもできたことだろう」


「そりゃあ……いや、どうかな。

 モービルアームを目の前にしてオレはビビってたんだ。

 でもお前はビビらずに考えた。それはやっぱり強いってことじゃねーのか?」


「きっと普段、覇道とかなんとか、そういうなりきりをしているから。

 それにふさわしい風に考えるクセがついてるのかもよ?」


「そうかもな! だったら認めるぜ。その『総帥様』ってスタイルをさ。

 貫けよ? オレがこの世界でのファン第一号になってやるから」


「! ……」


 思わぬことを言われて、ボクは返事ができなかった。




 彼ら4人は人混みに紛れ、野営地の中央へと消えていく。


 残ったのはボクとマシロとカノの3人。 

 早速スズカのことを聞こうと思ったけど、場所を変えないかと提案され、従う。


 まるで観光案内するかのように周りを案内しながらはしゃぐマシロ。

 それについていくボクとカノ。


 それにしても……。


 どこにいても、ボクたちを見る物珍しそうな視線を複数感じる。

 こちらを見ながらひそひそ話をする人もいる。


 まあ、そうだろう。

 マシロはともかく、ボクやカノはD○風の服装とは全然違う未来風。

 あきらかによそ者であることが見て取れるわけで。


 それにしても、なに話してるんだろ。


「あれ、総帥のコスじゃね?」


「総帥って……ああ、あの道化師!?」


 ああ。まあそうだよな。

 注目されていたのはボクのほうだけだった。


 それにしても道中で会った彼らだけでなく、やっぱり皆に広まってるんだな。

 『サ終ゲームの道化師』という、アレな称号が。


「ふむ、これはあまり出歩いていると、ヘンな騒動に巻き込まれそうじゃの」


「構わない。

 覇道に、平坦な正路などあるわけないのだから」


「そのキャラ、続ける? ずっと」


「無論。

 我が我であることを望む者がこの世界にいるのならば」





 しばらく歩き、野営地でも屈指の酒場と言われてるところに3人で入る。

 まだ夕方前ということもあり、席にも随分と余裕があった。


 その片隅に陣取る。


「邪魔が入って聞けなかった。名乗るべき」


 席へ着くなり、カノが名前を聞いてきた。


「『総帥』という通称が広まっているようだが、『ウルズ』という名前がある。

 どう呼んでくれても構わない。なんなら『道化師』でも許そう」


「じゃあ変態さん」


 そっちかよ!


「それにしても、偶然にしては面白い巡り合わせだったの。

 あの場に『D○VR』を除く全てのカテゴリのプレイヤーがいたのじゃから」


「なんだと? お前たちは『D○VR』のカテゴリじゃないのか?」


「ああ、勘違いするのもムリないよね。

 確かにわっちたちはこの派閥に所属してるけど。

 カテゴリで言うなら、わっちは『F○VR』なんじゃよ。

 そしてカノはおそらく『○NVR』」


「そうなのか!?

 それが、なぜ『D○VR』の派閥にいる?」


「まあ派閥はあくまでプレイヤーが決めたお勝手ルールだからね。

 別カテゴリのプレイヤーがいても大丈夫なのじゃ。

 わっちも小娘も、スズカのお客様みたいな扱いになってるけど」


「なるほど。

 ……そうか、だからカノは車が運転できるということか」


 確か、VRゲーの中で車があるのは○NVRだけだ。

 『G○VR』も『P○VR』も、乗り物はあっても車自体は実装されてない。


 それにしても……。

 なんかカノに関して、マシロの言い回しに妙な違和感を覚える。


 大体それじゃあ、カノがP○VRの武器を使える理由の説明がつかない。


 まあ、興味はあるが。

 今はもっと重要な話があるか……。



「さて、それではそろそろ本題に入らせてもらおう。

 スズカが行方不明というのは、どういうことだ?」


「うん。順を追って説明するけど、元々はバンスキングが――」


「バンスキング!!!

 アイツが関わってるのか!!!」




 忘れもしない。


『バンスキング』


 奴はボクがギルマスをしていたギルドの幹部の1人。

 副ギルド長『グレイディアス』やもう1人と共謀して、ボクを逆追放した男。

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