サバイバー④ 元ギルマスは伊達じゃない

 ボクはフォースを発動させた。


 とたんに身体は電子状のエーテル体に変換され、重力の束縛から解放される。

 そして文字通り電光石火のスピードで前方へと突き進んだ。


 その身体は、目の前にいるドズのボディーの側面に接触――

 したかと思うと、まるで幽霊のように装甲をすりぬける。


 身体はドズの逆側面まで抜け、ここでエーテル体から元の肉体へ戻った。


 その直後、敵機体は大きくバランスを崩しその場で前のめりに倒れ。

 手足がもがれながら転げ回る。


 ボクが着地するころには、はるか前方でドズは無残な金属の残骸と化していた。



 確かに雷系のフォースでは、ドズの装甲は貫けない。

 ただ一つの技を除いて。


 それが今使った、『E・デゾン』だ。


 これは、


『自分の身体を雷属性のエーテルに幽体変換。

 電光石火の速さで前進しながら周囲の敵に電撃を与えるフォース』


 という設定になっている。


 簡単に言えば、身体を電気状にして相手に体当たりしてダメージを与える。

 そういうフォースだ。


 ただ、電撃自体の威力はP○VRの中でも最弱の部類。

 攻撃より、主に高速移動したり短距離空中移動したりするために使われていた。


 ちなみに、エーテルは他作ファンタジーで言うところのマナなどにあたる。

 まあこの辺はフレーバー設定なのでどうでもいい。


 今回重要なのはE・デゾンのダメージよりゲーム的な特性、


『技の使用中は敵への『体当たり判定のみ』が無効になる』


 というところにある。


 つまり使用中、敵の装甲に移動を妨げられることがない。

 相手の身体はすり抜けつつ、ダメージは入るわけだ。


 もっとも体当たり判定のみ無効なので、自分も敵の攻撃は喰らう。

 それでも、特性を知らずに初見で対応はできないはず。


 そしてボクがE・デゾンで敵をすり抜けたときに敵内部に直に電撃が加わり。

 それで内部の精密回路が狂わされ、その挙動が乱れバランスを崩した。

 そんなところ。


 ゲームロジックがどこまで想定通りに動作するか、正直自信がなかったけど。

 まあ、うまくいって良かった。




 とりあえずE・デゾンで残骸の近くまで高速移動。

 マシロたちとの合流を急ぐ。


 既にみんなの乗った車は残骸の側まで戻ってきていた。


「P○VRのときから、スゴいと思っていたけど……。

 まさか、モービルアームをこうまでしてしまうなんて。

 わっちはてっきり、パイロットを引きずりだすのかと思ってたのじゃ」


「これが、『総帥』の実力……。

 ウワサと全然違うじゃねーかよ……」


「サ終したゲームとはいえ、ギルマスまで務めたのは伊達じゃなかったのね……」


「ていうか、P○VRって一体どんなゲームだったんだ……?」


「ふっ、大したことではない。

 絶縁体が電気を通さないのは自然の理。だがしかし、覇道とは必然の理。

 自然より強力な、例外なき運命の力なのだよ」


「それより、パイロットを出すのを手伝って」


 みんなが口々に感想を挙げるなか。

 1人カノだけは残骸の上で金属の塊と格闘していた。

 マイペースだ。


 それにしてもあんなことになって、中の奴は大丈夫なのかな?

 攻撃による身体の損傷の有無はゲームによって違うけど……。


 数人がかりで装甲の一部が剥がされる。

 中の人物は気を失っていたものの、特に外傷もない感じだった。


 マシロがアイリーンに問いかける。


「それでどうするのじゃ、隊長さん。

 そちらの派閥でのもめ事なのじゃし、お主が決めるのがいいと思う」


「派閥?」


 ボクが問いを口にすると、彼らが答えてくれた。



 現時点でこの世界にギルドのシステムは実装されてない。

 代わりに、プレイヤー間での取り決めで派閥というものが組まれてるようだ。


 ちなみに確認されている限り、その数は5つ。

 今のところ、ゲームカテゴリが基本同じプレイヤー同士で集まってるらしい。



 そしてアイリーンは『G○VR』の派閥に所属している。


 『G○VR』は人気ロボットアニメをVRMMO化した作品。

 ゲーム内ではアニメ作品設定そのままのロボット『モービルアーム』を操作。

 プレイヤー間でバトルを楽しむ、VRゲームの中でも豪快な作品となっている。


 そして『G○VR』の派閥内は今、さらに2つに分かれているらしい。

 『穏健グループ』と『過激グループ』に。それらが派閥内でもめているようだ。


 ちなみに。

 穏健グループは、他の派閥とお互い非干渉を貫き楽しくやっていきたいと考え。

 過激グループは、モービルアームでこの世界を制覇しようと思っているらしい。


 まあ派閥外の周りにとって幸運なのは、穏健グループのほうが多数であること。

 もし少数だったとしたら、この世界はもっと血なまぐさいことになってるはず。


 アイリーンはそんな中、派閥の幹部を務めてるそうだ。

 自分は穏健グループに属するとも語る。


 そして他の派閥と不可侵協定を結ぶ交渉のため移動中、何者かの襲撃を受けた。

 ということらしい。


 まあ、間違いなく同派閥の過激グループの誰かだろう。


 ちなみに彼女のボディーガードを務める冒険者風の3人は別の派閥に属する。

 穏健グループが独自に雇った護衛とのことだ。


 『G○VR』の場合、操縦者の肉体ステータスはとてつもなく低い。

 生身の護衛は、他のVRゲームのプレイヤーに依頼することになるわけだ。


 アイリーンもモービルアーム乗りなんだろうから、乗ってくれば楽だろうに。

 と思わなくもないけど、交渉先に威圧と取られたくないのかもしれない。

 よくわからないけど。


 ちなみにカノとマシロは、道中アイリーン一行が襲われていたのを偶然見かけ。

 見捨てるわけにもいかず彼女らを拾って逃走。


 さらにボクを拾って、今にいたる。

 そんな流れのようだ。




「協定、ねえ。

 まあオレは平和主義だけど、正直バトルしたい連中を止める気はしねえなあ。

 もしうちの派閥を攻めてきたら、皆で返り討ちにしてやるつもりだけど」


 細身の男が、派閥内抗争の感想を口にする。


「それにしてはアンタ、さっきなんにもできなかったじゃない?」


「うっせえっ、皆でって言ってるだろ?」


「戦国ゲームみたいなものなら、そういうのもありでしょう。

 でも、わたしたちはモービルアームを乗りこなすことを楽しみたいのです。

 戦闘はマシン同士で行うべきと考えています。

 白兵戦をしたいわけではありませんし、ましてやマンハントをしたいわけでも」


「で、結局コイツはどうするのよ?」


「そうですね……。

 送ってあげようにも、わたしたちはしばらく本拠地には戻れませんし……」


「おい! ちょっと待ってくれ!

 コイツを送り返すって、野放しにする気かい!? お嬢さん!

 どんなヒドい目にあわされたか、忘れたわけじゃないだろ?」


 細身の男が彼女に問い詰める。


「といっても、所詮ゲームの中の話でしょう?

 あまり荒事にはしたくないのですが……」


「だからって、放っておいたらまたいつ攻撃を仕掛けてくるか!

 わかってるのか!?

 ここで戦闘不能になったら、二度とこの世界にログインできなくなるんだぜ?

 それに、リアルじゃあオレたちの身体もどうなることか!」


「でも、リアルの身体に影響がおよぶというのは単なる憶測でしょう?」


「じゃあ、殺す? 殺す?」


 そこに、カノが拳銃を取り出しながら話に割って入る。

 二人は押し黙ってしまった。

 ていうか、カノ、怖い。


 それにしても、なかなか難しい話である。

 ていうか、二人の言葉はお互いに矛盾しているわけで。


 アイリーンのようにゲームと割り切るなら。

 敵対するパイロットをこの世界から排除するのは当然の選択。

 自分達がやられて困ることを他人に平気でやるような奴に躊躇する必要もない。


 細身の男が言うようにリアルに実害がおよぶなら。

 やはりどうあれ、安易に彼に手をくだすのは問題だろう。

 正当防衛だとしても、相手を無力化したあと追撃を行うのが妥当なのかどうか。


 ちょっとわからない。


 とにかく、ここでグズグズしていれば援軍がくるかも。

 早々に結論をだしてもらったほうがいいよね。


 だったらここは、総帥スタイルゴリ押しでいかせてもらおうかな。

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