サバイバー③ 巨体の追跡者

 突然、走っている車の周囲になにかの影が差した。


 ていうか影!?


 こんな周りになにもない荒れ地のど真ん中。

 一体なんの影が差すっていうんだ?


「あれ!」


 女戦士の声で、影の差してきたほうをみる。

 そこにいたのは、天を覆い尽くすような巨大な翼を広げたドラゴン――



 ではなく、巨人と見まごうばかりの巨大なロボット。

 そんなものが、ホバーリングしながら車に併走してきていた。


「ロボット!!!?」


 それは、モービルアーム。

 VRゲーム『G○VR』でプレイヤーが操作する機体だ。


「改めて歓迎するのじゃ、闇の総帥! ようこそ! ネオ・イグドラシルへ!」


 マシロが、芝居がかった言い回しで歓迎の言葉を放つ。




 『ネオ・イグドラシル』


 そこは、剣と魔法と、銃とロボットの世界だった。




「モービルアームとは、こんなモノまで実装されているのだな……」


 一応P○VRにも似たようなモノは実装されていた。


 だけどそっちは2階建ての一軒家くらいの高さ。

 今迫っているロボは、その2倍以上の大きさがある。


 ここまで大きいと圧巻だ。


「だが、なぜあんなモノに追い回されているのだ?」


「すみません!

 私を追ってきたのです! 事情を話せば長くなりますが……」


 ボクの問いに、アイリーンが済まなそうに答える。

 事情に興味はあるが、今それを聞いてる状況ではないよな。やっぱり。


「ちぃ、上手く撒けた、思ったのに」


 カノが呟きながら速度をあげた。

 すると、モービルアームが徐々に引き離されていく。


 どうやら、アレの最高速度はこの車よりも遅いようだ。


「よし! このままいければ――」


「ムリ。こんなところをこの速度なんて、いずれ車が壊れる」


「だから、多少速度を落としても湿地帯をすすめと言ったのじゃ」


「でも、それじゃあ、この変態、回収するの、遅れた」


「あれは機械なのだろう?

 電撃系の魔法でどうとでもなるのではないか?」


 なんとなく思ったので聞いてみる。


「残念じゃが、電流を地面に拡散する仕組みが装甲に備わっていてね。

 多少の電撃じゃどうにもならないよ。

 サンダデスやミナゲインの使い手でもいれば話は別かもしれないけど……」


 他の4人の顔を見渡すが、一様に同意の色濃い表情をしていた。

 うーん、そう簡単にはいかないか。


 サンダデス、ミナゲインは、それぞれF○VR、D○VRの雷系最大呪文。

 どちらも、地形を一時的に変化させるくらいの威力があると聞いている。


 確かに、それくらいの魔法じゃないと相手にならない予感はする。 


 ……装甲? 


「マシロ。

 今、『装甲で防ぐ』と言ったか?」


「ああ、言ったが、それがどうしたのじゃ」


「ならば、なんとかなるかもしれない」




 ステータス画面を確認する。


 ボクがプレイしていたP○VRはSF系のゲーム。

 それでも魔法に近い概念の『フォース』と呼ばれる超能力が使える。


 そしてその中には電撃系もある。

 今回使えるフォースは……あった!



 ラッシュでは『刀』や『ライフル』を使って戦った。

 けど、それは本来のスタイルじゃない。


 ボクのメイン職は『テクニシャン』。

 本来、フォースと武器を駆使して戦う魔法戦士なんだ。



 所持しているフォースを確認するかぎり、そのLvはすべて1。

 初期Lvにリセットされるのは武器と変わらないようだ。


 もっとも最高Lvだったとしても意味はないだろう。


 フォースの威力を別ゲームで例えると初級~中級程度のモノがほとんど。

 ましてやサンダデスやミナゲインの代わりなどにはなりようがない。


 まあP○VRはARPGだし、ボス敵を一撃必殺なんて無粋だよねって話。

 それでも、今回に限っては通用するかもしれない。


 問題は武器。


 フォースは武器と連動するため、専用武器がなければ使うことができない。

 テクニシャンの武器『ウォンド(短杖)』で今、使用できるものはなかった。


「だれかP○VRのウォンドを持っている者はいないか?

 べつに強力でなくてもいい」


 ボクの問いに、冒険者の3人がハッとした顔をする。


「おい、アンタのゲームカテゴリって、まさか『P○VR』なのか!?」


「ゲームカテゴリ?

 そういえば、ステータス欄にはそういう記載があったが」


「ああ、そうだよね。総帥は知らないよね。

 状況が状況だから詳しい説明はあとにするけど」


 そう言ってカノが軽く話してくれる。



 つまるところ。

 『ゲームカテゴリ』というのは、このゲームのプレイヤーに与えられる属性。


 そしてそれは、初ログイン直前にプレイしていたゲームが設定される。

 プレイヤーはその属性で指定されたゲームの武具や魔法や技しか使えない。


 つまりボクがネオ・イグドラシル内で使える武具や技はP○VRのモノだけ。

 そういうことになる。



「それにしても、どういうことなのじゃ?

 さっきも聞こうとしたけど総帥、なんのゲームからこの世界に入ってきたの?」


「いや、ゲームをするもなにも。

 ヘッドセットの電源を入れたらいきなりこの世界に飛ばされたのだ。

 ストアも出てこなかった」


「なるほどね。

 P○VRがサ終したあとそれ以外のVRゲーをしてなかったから……なのかな?

 だからゲームカテゴリも『P○VR』ってこと?

 そのあたり、検証の必要がありそう」



 確かに、興味深い話だと思う。


『P○VRがサ終してから今まで他のゲームをプレイしてない』


 それだけが条件なら、同じ境遇の人が他にもいておかしくない。

 落ち着いたら探してみるかな。



 ……なんて、考えてる場合じゃない。


「それで、どうだ?

 だれか持ってないか」


 とりあえず3人に声をかけるが、彼らからは色よい返事が返ってこない。


 当然だろう。

 使ってもいない武器を持ってるわけもない。


 アイリーンとカノの2人にも聞いてみる。

 もっとも、状況は似たり寄ったりだと思うが……。


「持ってる」


「え!?

 持っているのか!? カノ」


 カノはうなずくと、ストレージを開きごそごそと片手で探り始める。

 ずいぶんと器用だ。


「なるほど、確かにこの娘なら装備できるかもじゃ。

 持ってても不思議じゃないね」


「! ということは彼女も我のように元P○VRプレイヤーか!?」


「どうかの。そうかもしれないし、違うかもしれないのじゃ。

 カノはカノで、お主とは別の意味で特殊なプレイヤーでな」


 どういうことだろう。

 その真意を聞く前に、カノが無造作にウォンドを投げてきた。


 Lv1のボクでも装備できる中で一番攻撃力のある、絶妙な武器だ。

 ますます運がいい。


「では、車の速度をモービルアームと併走できるくらいまで落としてくれ」


 彼女は返事をせず、行動で示す。

 徐々に追いついてくるモービルアーム。確か機体名はドズとか言ったか。


 だが、ほぼ横並びになっても、煽るように接近と後退を繰り返すだけ。

 接触や攻撃を仕掛けようとはしない。


 おそらくターゲットを生け捕りにするため、手荒なことができないのだろう。

 あるいは、仲間が集まるのを待っているのかも知れない。



 とりあえず、『デゾン』を発動させてみる。

 P○VRの雷系のなかでも標準的なフォースだ。

 細い雷状の電撃がドズの頭上10m辺りから、その身体に向かって降り注ぐ。


 だけど、それだけだった。


 ダメージどころか、なにかか影響を及ぼしたような感じもない。

 予想通り。


「よし、P○VRのフォースは使えるようだ」


「おいおい、全然効いてねえじゃねえか! 大丈夫なのかよ!?

 なんか策はあるのかよ!」


 細身の男が不安げな声を上げる。


「『策』などというモノはない。

 あるのは『覇道』という名の結論と『常勝』という名の結果だけだ」


 不安を和らげるために総帥流の答えをかえす。

 ていうかあいかわらず、自分でもなに言ってるんだかよくわからない。


 まあ、とにかく。


「車の天窓を開いてくれ」


 カノがうなずくのを確認すると。

 ボクは助手席で立ち上がり、上半身を車の天窓から出した。


 そしてドズに向けて中指を立てるハンドサイン。

 乗り手を挑発した。


 するとドズは、まるで体当たりでも仕掛けてくるかのように急接近。


 『攻撃をしてこないから舐めた態度をとっている』と乗り手は思ったんだろう。

 『ぶつかっても構わない』位には考えてるかも知れない。


 好都合。


 ボクは天窓から出て車の上部へ立つとそこからジャンプ。

 さらに空中をもう一度蹴り、そこから真上に2段階目のジャンプをする。


 二段ジャンプはP○VR独特の動作モーションだ。

 久しぶりで少し高さが出なかったが、それはこの際どうでもいい。


 そして、フォースを発動させた。

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