エピローグ

「ティーナ様、たいよう様は勝てるんでしょうかね?」


 窓の外を見て心配そうな声を出した。


「当然でしょう? イザベルはどう思うのかしら?」


 そう言いながらもティーナも片付けの手際がいつもよりよくなかった。

城では夕食を終えていた。後片付けに追われる二人だったがどうにも勝負の行方が気になるらしい。


「うーん…、40パーセントくらいでたいよう様の勝ち…かな?」


 こめかみに人差し指をあてて答えを出した。


「あら、赤星様が聞いたらどう思うかしらね? マルリタ様が戻られなくてもいいのかしら?」


「うそうそ! 55パーセントくらい!」


 町の入り口で別れてから数時間経とうとしていた。


「勝っても負けてもたいよう様は帰っちゃうんだよね、あーあ、せっかく仲良くなって来たのに」


「そうね、でも仕方ないわ、赤星様には赤星様の世界があるんだもの」


「わかってますよそんな事は。ティーナ様はさびしくないんですか?」


「それは寂しいけど、引き留めるわけにはいかないの。赤星様には帰りを待っている方たちがいるから…」 


「そうですよね」


 外が少し騒がしくなっていた。この時間に訪問者が来ることは滅多にない。夜になると盗賊やモンスターなどの脅威がまだ少なからず存在する。

 物見の塔で監視していた兵士が騒ぎの原因のようだ。しかしそれは無理もない話だった。

 ティーナ達はまだそのことを知らずにいつもの仕事をこなしていた。


「ただいまー、ティーナいるー?」


  猫なで声をだして玄関に姿を見せたのはマルリタだった。

 ついさっき出て行ってまた帰って来たようあっさりとした振舞だった。


「マ、マルリタ様…⁉」


 久しぶりの再会であったがマルリタはティーナにすぐに駆け寄り胸元に飛び込んだ。


「マルリタ様…、泣いていらっしゃるのですか…?」


 ティーナはマルリタが鳴いている理由はわからなかったがあえて問う事はしなかった。

 マルリタが落ち着きを取り戻したときに対局の事を話し始めた。

 

「赤星様は負けてしまったのですか…?」


「そうよ。よくわかんないけどハンモク負けとか言ってた」


「そうですか…赤星様が…、ではマルリタ様がお戻りになられてるのは…」 


「だって、あの人がいないところにいてもしょうがないもん…」


 マルリタの目からまた涙が零れだした。その理由をティーナは理解した。

 

          ―――――――――――

 

「なあ太陽、お前一体どこ行ってたんだよ? みんな心配してたんだぞ?」


「ああ、わりいわりい」


 俺がこっちに帰って来てから二日経っているけど。みんなには昨日田舎から帰ってきたことにしている。みんなと集まる時には必ずこのファミレスにしている。

 スマホを見たらたくさん着信履歴があった。

 俺から電話した時はびっくりしていた。


「俺たちはお前が行方不明になったんじゃないかって捜索願まで出そうとしたんだぞ?」


「ははは…」


 ある意味行方不明になってたんだけどね。


「お前が燃え尽き症候群になって旅に出たとか神隠しに会ったとかひっそり引退したとかな」


「いろいろ言われてるね俺…」

 

 皆に心配かけたからそのお詫びに好きなのをおごるつもりで呼んだんだけど、どんな質問攻めにあう事か…。


「赤星君! ほんとに赤星君だ!」


 周りのお客さんがいるのも構わず、俺を見るなり大きな声で名前を呼んだのは来美さんと、輪音さんだ。

 それにしてもほんとに赤星君だなんてどういう事だ。

 来美さんと輪音さんもテーブルにいて全員がそろった。


「赤星君どこいってたの? 赤星君て何考えてるかわかんないところあるしさあ」


 来美さんの辛辣な物言いはなんか懐かしく感じる。それが逆にこっちに帰って来た実感を感じさせてくれる。


「ねえ赤星君、あたしと輪音さあ、赤星君がいなくなっちゃった時にね、もしかしたら異世界かどこかに行っちゃってね、モンスターとかと碁を打ってるんじゃないかって話してたんだよ。 もちろん冗談だよ? そんなわけないし」


 輪音さんと来美さんはくすくすわらっている。ああ…、なんか帰って来たような実感がわいてきた。またいつも通りの日常に戻ったんだなあ…………。

 そして俺は少しためらった後に…。


「実はそうなんだよ、何で分かったの? それはもう大変だったんだよ、ゴブリンとかいてさあ!」


 俺が乗りツッコミをしたと思ったのか、その場に笑い声が咲いた。

 

                 完

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