第10話 強襲
往きは村を朝方に出て4日目の夕方遅くに交易都市に着いた。
還りはアナンナさんの恩恵もあり開拓村での宿泊は中日の1日だけで、後は野営で済ませた。
そのお陰で日中の移動距離が稼げたからか、4日目の昼過ぎには村へと帰り着いた。
まずは村長に報告を行い、後は解散をして俺とカレンはそれぞれの自宅に戻った。
「ただいま。」
「お帰り。無事に成人を迎えられて何よりだ。道中は何も無かったか?」
「ジークとアリスが一緒だし、帰りはアナンナさんも一緒だったからね。行きはゴブリンに一度遭遇したけど、帰りは平穏そのものだったよ。」
「そうか、そいつは良かった。アルマール様の思し召しよの。」
そう言って、親父は大地母神アルマール様に祈りを捧げる。日々の生活の中で神々へ感謝を忘れない。村ではほぼほぼアルマール様がその対象だったが、今度からはそこにテルミナー様が加わる事だろう。
「これから、どうすんだ?」
「うん、一息着いたら交易都市に戻って魔物狩りになろうと思う。」
「わざわざ戻らんでも良かったろうに。」
「まぁね、そのままギルドにとも思ってたんだけど、残念ながら天恵を授からなかったからさ。皆にまずは報告をと思って。」
そう言いながら旅装を解き、荷物をおろす。親父の後ろでは弟妹達がそわそわとしている。
「まぁ、積もる話もあるけど、まずは皆にお土産を買ってきたからさ。」
そう言って荷物の口を開けると、弟妹達が一斉に飛びかかってきた。
「にいちゃん、お帰り。」
「にいちゃん、どうだった。交易都市は人一杯だった?」
「おにいちゃんお帰りなさい。」
「お土産!何!」
弟妹達が一斉にそうまくし立てる。
開拓村は、子供が多い。うちだと俺が長男で弟と妹が4人。今年もう1人産まれる予定だ。
カレンも下に5人居る。
うちの村はまだまだ歴史が浅く一期の入植者が親父達の世代だ。昨年の4人が村で初めての成人で、今年は2人。来年以降は一気に人数が増える。
俺とカレンはそれぞれ長男長女だが、村の中でも上から数えた方が早い。それもあってか、幼少の頃から色んな事を学ぶ機会を多く与えて貰ってきた。
自警団の副団長に師事出来たのも競争相手が少なかった事が要因としては大きい。
だからこそ、弟妹達の手本になりたいと思う。皆がそれぞれ成人になった時に魔物狩りを選ぶのも良いが、こうして村に戻って来ても良いのだと、そう思える様に。
昨年成人した4人は皆そのまま魔物狩りになった。
そう言えばギルドに寄った時にでも会えるかと思ったが見かけなかったな。皆元気にしているんだろうか。
その後は皆にお土産を配り大いに喜ばれた。村を離れたのは10日ちょっとだったけれど、村を離れた事は初めてだったので親父もお袋も何だか懐かしく思えた。
そして急かされるままに旅の話をする。
行きの道中でゴブリンに襲われた事。ジークが格好良かった事。交易都市が人で溢れていた事。ギルドの様子。厳しかった成人の儀、そして俺は天恵を得られなかったけれど、目にした天恵の光。
皆目を輝かせて聞いていた。もしかしたら、この中から将来天恵を得て、新たな英雄が産まれるかも知れない。
そう思えば何だか嬉しくなった。また明日から頑張ろうと、そう思える。
一段落すると、親父にカレンと結婚した事を報告した。
平民では神殿で正式に儀式を行う事は夢のまた夢だから、成人して両者の合意があれば後はアルマール様に2人揃って宣誓すれば結婚は成立する。結婚の儀式を行うなら宣誓相手はテルミナー様だが。
実は出発の朝に日も明けやらぬうちに神殿に行って、2人で宣誓を済ませて来た。
夕方からは宴席を設けて祝ってくれるそうで、その席でも村の皆に報告をする。まぁ、俺とカレンの仲は周知の間柄だったから今更だとは思うのだけれども。
「それじゃ、これからどうする?」
「今からカレンの家に挨拶に行くけど、村では別々かな。今日明日はゆっくり休んで、明後日には出発しようと思う。」
「そうか。改めて居なくなると思うと寂しくなるな。まぁ何にせよ無事で何よりだ。村にこのまま残ってもいいんだぞ。お前とカレンを慕うものも多い。」
勿論、それも考えた。だけども、せめて職業を得るまではやっぱり頑張って見たかった。
「考えてはみたけどさ。やっぱり魔物狩りとして頑張るよ。職業を得られれば村の助けにもなるだろうしさ。」
「そうか。まぁお前が決めた道だ、好きにやりなさい。でも、何時でも帰ってきていいからな。死ぬんじゃ無いぞ。」
「解ってるよ。ありがとうな、親父。」
その後はカレンの家に行って義父と義母に報告をした。改めて義父さん、義母さんと呼ぶと無性に恥ずかしかった。
夜は集会所で、宴会が催された。俺とカレンの成人と結婚の報告、赴任してきた行政官の紹介と歓迎を兼ねてだ。待望の行政官に、皆大いに喜んだ。勿論、俺とカレンの結婚も大いに祝福してくれた。
1刻もすれば、子供達は家に帰り就寝する。残るのは自警団の面々と行政官、そして俺とカレン。子供が皆寝てしまえば戻ってきて飲み直しもするだろうから、もしかすると飲み明かす事になるかも知れない。
村の皆にも無事報告を終え、大地母神に祈りも捧げた。二人はもう夫婦だから、今まで以上に二人寄り添って酒を酌み交わす。皆からからかわれたりもしたが、何だか幸せだった。
そんな最中に、俺達の平穏は突然終わりを告げた。
最初は魔物の襲撃を告げる鐘の音だった。
「大変だ、魔物の襲撃だ!」
殆ど間を空けずに、哨戒担当の自警団員が集会所に飛び込んでくる。
「敵は?」
「解らんが、今までに見た事のない数だ。」
「アナンナさん、結界は?」
「この集会所だけは、大丈夫です。」
来て早々では流石に大規模な結界は施せない。それでも到着して直ぐに集会所を囲う様に境界杭を設置して結界を施してくれていた。
集会所に残っていた自警団員が、皆それぞれ武器を取ると飛び出していく。
「ジークさん、俺達は?」
「ここはアナンナさんのお陰で村で一番守りが固い。まずは、子供達を誘導しろ。アナンナさん、万が一の時はお願いします。」
「解りました。今日はこの結界に力を費やしたので余り役には立てないかも知れませんが、この結界なら早々は抜かれません。危険だと感じたらここで立て直しを。」
「お願いします!」
ジークも、皆の後を追って飛び出していく。
村の周囲には土を盛って築いた防塁もあるし柵もある。ジーク達も迎撃にあたるので、早々に門は抜かれない筈だ。けれども、嫌が応にも不安が膨れ上がる。
それからはカレンと二人、手分けして村の中を駆け回り子供達を集会所に誘導した。
戦いが不得手な人やお袋の様に身重の人、子供達が集会所に集まる。鐘はしばらく前に止んだが、遠くから戦いの喧噪が聞こえてくる。
皆肩を寄せ合い、子供達は口々に祈りを捧げる。
しばらくするとジークが戻ってきた。
「アイク、カレン、こっちへ。」
ジークがアナンナさんの元に俺たちを呼び付ける。
何時でも戦いに参加できる様、剣は既に腰にある。
「ジークさん、戦況は?」
「正直芳しいとは言えません。先遣隊と思しきゴブリン共は片付けましたが、今は二陣の対処に当たっている所です。中に下級が混じっているし、様子を見る限りじゃどうやら後ろに本命が控えている。もしかすると中級も混じっているかも知れません。」
「私も戦いに加わりましょう。」
「いや、アナンナさんには結界を施して貰っている。厳しそうでしたらここまで引きますのでそれまでは回復に努めて頂ければ。」
「でも。。」
「露払いや情報収集は俺達の仕事です。昨日まででしたら絶望的でしたが、今日は幸いあなたが居る。」
「解りました。でも無理はしないでください。」
「俺達も戦います!」
ジークとアナンナさんの話が一旦終わったタイミングで、そう声を掛ける。
「いや、お前とカレンにはやって貰いたい事がある。今から直ぐに隣村まで走ってくれ。」
「でも、俺達も戦えます!」
「そうじゃない。奴らの動きを見るに、伏兵の可能性もある。万が一を考えれば救援の要請は必要だが、誰にでも任せられる訳じゃない。むしろここにアナンナさんが居る以上、外にやるお前らの方が危険だ。それでも、戦力はこれ以上は減らせん。」
「. . .」
「お前なら解るはずだ。」
「解りました。カレン、直ぐに出よう。」
壁に掛かったままの手頃な外套を適当に着込み、腰の剣を確かめる。集会所に予め用意されている非常用の背負い袋を持つ。
「大丈夫だ。直ぐに応援を呼んで戻ってくる。」
不安そうに見守る子供達に、そう笑いながら声を掛けると、カレンと二人集会所を飛び出し村を後にした。
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