第27話 魔術師と呼んだ

ライブニッツは魔法とは何か、自分なりに探究し見えた世界を話してくれた。


我らが故郷ティシュタルは人々に流るる魔力を文化の発展に貢献すべきと唱え、その功績は魔術と呼ばれ讃えられた。

同じ様に形は異なれ、国を豊かに、前進させた国は魔術国と呼ばれ、やがて多くの優秀な学者や科学者、学生達が集う先へと名を馳せていく。


海を越え山を越え魔力の探究、魔法の可能性、魔術の発展を学びたいと願う留学生達により魔術国らは支えられ繁栄を成した。

優秀な成績や発見、功績を与えられた者達を「魔術師」と呼んだ。


後に世界はその名と称号が広がり、魔術国の人間で無くとも魔術師は誕生する様になった。


ティシュタルもその1つであった。しかし世界が戦火に包まれると各魔術国から戦魔術師が誕生した。戦争のためにその知識を使い魔法を振るう者達だ。


彼らは重宝され、様々な開発を進めた。

だが多くの魔術師は国が壊れようが戦火に燃えようが顧みることはなかった。

彼らが守るのは多くの記録や歴史の残る蔵書と自らの頭脳のみだ。


ティシュタルで相も変わらず勉学に励んでいたライブニッツはやがてイムブルクへ行くことを決めた。

手にした本、この国や学院で学べることは尽きた。

ならば、世界の中心地にこそワクワクする様な探究が出来るのでは無いか?と。


世界は崩壊が加速していく。

魔術諸国でもそれを防ぐ研究が進むが、理の崩れはとても追いつけないほどに刻が進んでいく。


(このまま国に留まるより...いずれ我をなくすならば知りたいことを知り見たいものを見てからじゃないと死にきれん)


周囲は反対した、あんな闘いに狂った場所なんて命が勿体ないと。

それでも彼は決めた。戦火によりすっかり減った定期便を乗り継ぎとうとうイムブルクへ上陸を果たしたのだ。


イムブルクの地は想像以上に荒れていた。しかし言葉ではうまく説明できないが眠ってしまった魔法の神秘や歴史の凄みのような雰囲気を肌で感じた時、来たのは間違いではなかったと確信した。


「ですがなかなかに落ち着いて腰を下ろせる場所が見つからなくてね・・でも最近ですがようやく見つけたのですよ」


彼曰く峡谷を挟んだ向こうに旧ロベルト大聖堂の建物を利用し、魔術師達の隠れ場所、エルンスト魔術学院があるのだとか。


「驚いたよ、学院は魔法で包まれそれは強力な結界となっていてね、狂人も化け物も侵入を許すことがないんだ」


「なるほど、でも中の人達が狂ってしまったらどうなるんですか?」


「あぁ、それがね。中にいる人たちは理性と自我を保ったままなんだ」


「ずっと、変わらず人間のままってことですか?」


「そうだな。だが少し深く言えば”時間を止めた”に近いかもな...」


生命としての時間を止め、身体はその間成長することがない。

感情の起伏も収まり、だからこそ探究に勤しみ理性を保てるのではないかと、しかし彼曰くその魔法が解かれた際、止まっていた時間が崩れることで一瞬にして狂っていくのではないかとも危惧していた。


「私もその学院に入った際に1つの霊薬を飲まされてね、どうやらそれが要因なんだろう。作り方もさっぱり私には分からないがな」


そう言いながら彼は笑った。沼地は終わりを迎え、ようやく陸地に上がった。

ライブニッツは汚れたローブを掴み、汚れ物をみるような視線で「あ〜あぁ」と呟いた。


「それでライブニッツさんは何であの沼に?」


「ん、これだよ」


そう言うと、彼は泥に塗れた袋から青緑色の草を数本取り出した。


「なかなか見つけるのは大変でね、もう次第に疲れてきて適当につっこんで探したもんだ」


「それは?」


「これがどうやら霊薬の材料の一つみたいなんだ。まぁ、魔力が沈澱し変色した沼地だからね、こういった物が生えてくるんだろう」


「そんな危ない場所に1人で?」


「私はまだ世話になったばかりだし、前線で戦うほどの勇気もない。それに認めてもらわなければ秘蔵書庫への立ち入りが出来ないんだ。だからこういった事で少しずつでも役に立たんとな」


「まぁ、お前さんが来てくれなければとっくに死んでいたかもしれないがな」


と言うと、再び高らかに笑い出す。

見た目の上品さとは引き換えに少し下品で豪快な笑い方をしている。


陸に上がり2人はとぼとぼと歩き出す。幸村は白い鳥を確認しようと空を見上げると、上空はまだ陽が光っている昼間にも関わらず、美しく深い紺青色の空が塗られた様に広がっていた。

それは所謂”自然”で出来たものとは考えにくいほどやはり神秘的だ。


「この空が気になるのかい?」


「えぇ、なぜこのあたりは...」


「魔力によるものだろうな。膨大な魔力が動いた土地の上空はそれらを吸い取ってあんな色になるんだと。この領土は特にそうだったはずだ、文献で読んだ記憶がある」


「魔力って、青色なんですね」


「理由は私は知らぬが、血が赤いように対なる色を神は考えたんじゃないだろうか?」


「なるほど...」


「まぁ、光の魔法は琥珀を示したり火の魔法は紅くなる。青色というのは私の様に魔術師を象徴する色なのかもしれんな。しかし帰ったらそれも宿題にしてみよう、面白そうだ」


太陽の加護を受ける国は黄金の空色が広がる。

オスカーの記憶で見たルレベルクは正にそんな空模様だった。

きっとこの空もそういう意味なのだろうか。


ライブニッツは腰に剣を下げていた。幸村の持つそれよりも短く、軽量で扱いやすいショートソードだ。


「剣を振うんですか?」


「あぁ、これかい?あくまでも護身用だよ。ろくに扱ったことなんてないさ」


幸村はこの世界の人間は全て戦う術を持っているものだと思っていた。

それに彼は魔術師であるが故、強力な魔法を使えるのかと思っていたが全員が全員そういうわけでもないのだろう。


流れる力を武器にするには”その人次第”というべきか。

エルンスト魔術学院。素直に興味が湧いてしまう。

それは幸村の残る自分自身の心の中にその名前の響きに高鳴りを忘れてはいなかったからだ。




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