第25話 高位なる騎士となった - 第1章終 -

「火の神の分け身・・?」


火の神ヴェスタは4人の神の1人であり、彼が生み出した火は全ての生命の誕生の火種となった。彼が生み出した火を元に各々の神の力を注ぎ生まれたのだ。


光も闇も写し照らし出す火は他の信仰者から危険視されていた。光を与え闇を作る。即ち生と死の境目に有り、命の庇護者のような物だと。


だがその信者や魔力の源は平和的で閉鎖的だった。


火の神ヴェスタは実態を失ったが、欠片に残る微かな魔力から霊体が生まれた。

エレはその内の1人だった。何人目の霊体化は彼女自身すらも分からない。


その意思はヴェスタの意思そのもの、世界の崩壊を止める事。

争いを繰り返し自らを崇められながらも愚かな世界を愛した。

互いに傷つけ合いながらも互いをそれでも愛し、世界に生きる生命は自らの火により誕生した愛すべき存在たちだからなのだ。


ヴェスタは声を持たなかった。


故に火の信仰を望まず、教徒達の拝謁に答えることはない。信じるものは神ではないと、救いを差し伸ばせば力を知ってしまうから。


しかし彼の秘めた願いは届くことはなかった。


火の魔力は力を強め戦いを求めた。信者達の秘め望んだ力に身体が応えた。心を許さず閉鎖的な性格は安寧の平和を諦めた時、自らの手で鎮め平和を求めるかの様に


「そう、私は彼の意思を継ぎ転生者を導く存在」


「だけど何故...?俺に宿っている力は光だ。火とは違う」


「そうね、でもこの世界の生命は火種より生まれた、異教徒であれ全ては彼無くしては生まれなかった。そして火は境目。命を無くした者、そして生まれる者の庇護者のような存在だから」


「だから貴方が導き手として...」


「私の使命は世界の崩壊を止めること。神の欠片を集め神の力を一つに戻す。そうすれば刻は動き狂った因果は治り世界はもう一度行きを取り戻し正しい姿へ動いていくはずだから」


幸村は肉を平らげると、布の服でナイフの血汚れを拭き取る。


「それを成し得るには、俺みたいに別世界の人間が必要だった」


「そう、この世界の理とは外れているからこそ意志を継ぐことができる。貴方達の記憶を代償に命を紡ぎ、使命を宿す」


目の前の聖女が神の欠片の一部とは思わなかったが、どこかその可能性を感じてはいた。人間離れした透き通った容姿、霊体となり姿を消し、物に隠れる力。

時折つぶやく優しい言葉とは裏腹にただ使命や運命のまま動く傀儡の様な冷たい瞳。


「今話した話が思い出した全ての出来事...」


「この世界を正すために、別世界の人間を利用するなんて乱暴な話にも聞こえるな」


「この世界の月は欠けたまま...太陽は遠くに在るただの光として...人間は夢を見ることもなくなり彷徨い続ける・・私の中に流れる使命はこの世界を愛している」


「だから、どうかお願い...」


冷たい瞳が寂しそうに潤む。1人の女性が一瞬だけ思い出した無くした感情。

幸村は何も言えなかった。言葉が出なかった、だがあの日に決めた覚悟は不思議と緩むことはなかった。


「まぁ、精一杯やってみるよ」


彼は笑った。久しぶりに笑ってみせた。

こんな世界でも、こんな運命だろうと笑顔は出せる様だ。


「ありがとう」


暖炉の火は暖かく、長い夜は一瞬の様に過ぎ去っていく。


翌朝、幸村は城を出た。彼女は昨晩次の手がかりを残した。

峡谷を越え北東を目指すことにした。次の欠片を感じるのだろうだ。


上空は白い鳥が北東へ向かい飛び交う、導きは失われていない。


迷い戸惑い上杖の覚悟は消え去った。彼はようやく騎士となった。




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