第22話 光の女神リオネア


幸村は立ち上がると盾を拾い騎士に向かい剣を構えた。

騎士は再び斬りかかるが、何かがしっくりこない。同じように一撃一撃を盾で受けながらも先程とは違い体勢を崩せず押し通す事が出来ない。


それどころか攻撃を受けながらも重心を動かし絶妙に冷静に受け流す。


幸村の全身を包む光の影響か、それもある。

だが先程剣を交えた男とはまるで違う。

騎士は後ろへ下がり力強く構え直すが、今度は幸村から仕掛けにいく。


剣には再び雷が走り騎士は剣でそれを防ぐも一撃一撃が重く、身体には微弱ながらもダメージが積もっていく。


残光が互いに交わる異様で美しい剣戟はなかなか決着が付かない。身体の力も抜けずとも次第に幸村は呼吸が荒くなっていく。


盾を持たない騎士の身体には何度も攻撃を与える事が出来た。

しかし疲れを知らない無機物の騎士は攻撃の手を緩める事はなく、少しずつ幸村が追い詰められていく。


そして目一杯に振り下ろした騎士の一撃に幸村は盾で防ぐが、よろけてしまい隙を見せてしまう。


騎士は二撃目を叩き込む為、右足を引いた。


「後ろがガラ空きだ」


途端騎士が右足から崩れる。

何とか動けるまで回復したリムヒルトが騎士の右膝裏を剣で突き、その衝撃でバランスを無くしたようだ。


更に彼女は全身に赤い光の粒子を纏わせ燃え上がる様に染まる剣の二撃目は騎士の右腕を斬り落とした。


「やれ!」


彼女の声に答えるように幸村は勢いよく駆け寄り振るった剣は雷撃を走らせ騎士の頭を斬り落とした。

斬り離された首と右肩から青い魔法の光が蒸気の漏れ、やがてそれが全身を包むと騎士は霧散した。


彼女はそれを見届けると剣を納め幸村へ歩み寄る。


「貴公…誰だ?」


黄金の名残を残すサーコート。

無骨であるがどこか上品さの残る鎧兜。

全身を包む光は消え、傷は塞がり血の流れは止まった。剣を納め盾を背負い直し、彼女に振り向き答えた。


「ルレベルク聖騎士が1人、オスカーだ」


「それが貴公の本当の名か?」


「いや、俺は…幸村だ。だけど…」


言葉を終えるとふと気が抜けたように幸村は全身の力が抜け倒れかける。その時ペンダントが光り、小さく暖かな手が彼を支え、優しい声が聞こえた。


(お疲れ様…)


ゆっくりと膝をつくと、再びリムヒルトの方へ向き直す。

紛れもなく自分の意識はあったが、まるで自分ではない矛盾。それを彼女に説明するには言葉を選び時間が必要だ。彼女は暫く様子を伺うが何かを察したように息を付くと、幸村の肩を叩いた。


「まあ良い、良くやったな」


その一言は幸村の気持ちを落ち着かせるのに充分だった。つべこべ説明しても仕方ないだろう。


「いえ、こちらこそ助かりました」


「恐らく他の空の台座は同じように試練を超えた証なのだろうな」


「けど遥き長い歴史の中で成し得たのは2回のみ…て事ですね」


「未熟だったか、相性が悪かったか仲間を持たずまたは軽んじていたか…ともあれ我々は打ち勝てた」


聖堂内に舞う青い粒子達は壁画へと帰ると鳥達へと姿を変え元通りの画と戻る。

そして取り囲む燭台は封印を解くと、横たわる小さな亡骸が光る。


光から2つの小さな光の玉が浮き出ると、ユラユラと揺れながら2人に吸い込まれていく。


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世界が生まれ、火が生まれ、魔力が生まれた。


1つの神は光を産んだ。


何も見えずただ真っ暗な世界を照らす為に。


光は加護を齎した。そしてやがて誕生する生命を祝福した。

生命は空に浮かぶ光を太陽と謳った。

光の神は2番目に心を宿した神である。


彼女はリオネアと名乗った。


光を愛し太陽を信仰する生命の願いに応え神は1人の幼い少女に姿を変える。

それは人間などと大差ない、1つの生命として生きる事となる。


今生きる全ての命には”魔力”という形で全ての神の力が分け与えられている。

少女は生命を愛した。動物も人間も全てを愛した。

何処にいようと必ず光は届くから。


時代と共に進む文明は争いを生む。

争う形は異なれ行き着く源は信仰争いだ。

誰しもが必ず死地へ赴く際に心の奥に信じる神に祈りを捧げる。


彼女が最初に降り立った小さな村は、やがて最も太陽の加護を受け愛した国となる。今は無き高位な亡国だ。


彼女は太陽を強く愛する信仰者に光の祝福を与えた。

黄金のような輝きは自らを癒し守る力だ。


だが世界は混沌に呑まれ光の信仰者達は武器を持つことになる。

祈りだけでは変わらない。自らを守るだけでは救えない。

信者達に宿る光の魔力はやがて他者を拒絶する様な、抵抗する力は怒りに似て、心を鳴らし雷光へと姿を変えた。


他国が彼女が居る国の国境へ差し掛かった頃、

彼女は10人の宮廷騎士団の援助を得て国を逃げた。


最初は争いすら拒み人々からどうかして手段を奪おうとまで考えていた。

だが情勢が止まらないことに心を痛め、国に最後まで留まることを決意したが

信者達の必死な説得に動かされた。


「貴方が居なくなっては、世界に2度と光は降りてこない」


遥か長く感じるほどの旅だった。

海を超え山を越え彼女はイムブルクに辿り着いた。

かつて心を持たぬ頃、初めて生まれた大地だ。


彼女はイムブルクに降り立った時に心に決めた。


私はここで己を封印すると。


心持つ神など世界の進化には枷になる。

感情を持つことで信者を愛してしまう、それは他の国を恨み怒りを知ってしまう。全て1つ違わない生命だったはずなのに。


彼女と宮廷騎士団は太陽の信仰が集う聖堂街へ辿り着いた。

彼らは強力な魔術で結界を張り、何者の侵入をも拒んだ。

しかしそれは自分たちも外に出ることすら出来ない程の力だった。


我らの命が全て尽きた頃、きっとこの結界は弱まるだろう。

どうかそれまで世界が、リオネア様の願いが届く日が来る様に・・


聖堂で彼女は眠りについた。

共にあった10人の宮廷騎士団は聖堂内で彼女と共にあることを望んだ。


遥か長い時代を超えて、世界は崩壊を始め聖堂街は地下に沈んだ。

街に残る儚い魔力はリオネアを守るべく姿を変え地下に沈んだ遺跡を変えた。


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2人に見えた景色はあまりに大雑把で断片的で、解決していない出来事や理由はたくさんある。

だがそれでも分かったことがある。


この地下遺跡はかつて太陽の神の信仰者の聖堂街であり、光の加護を受けていたが地下に沈んだこと。

遺跡の仕掛けや試練はリオネアを守護する魔力が宿ったということ。

そしておそらく先ほどの騎士も台座に並べられた石像の騎士は彼女と共のこの聖堂で眠りについた宮廷騎士団の意志が時間と共に形を変えて今尚試練として守護していること。


そして今目の前に居る小さな亡骸こそが

この世界と理の1つであった光の女神「リオネア」であるということ。























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