第21話 黄金の守護騎士

幸村は既に回復を2度使用していた。

弓矢の罠と、石像の剣士との戦闘で傷を負っていた。


「歩けそうか?」

「もう大丈夫です。痛みは引いたとは言えませんが」


外傷は消え骨は形を取り戻したが、気持ち良く歩くことや腕を振る事が出来ずにいた。

苦笑いを浮かべながら心配はかけまいと歩いていたが見抜かれたようだ。


しかし幸村は彼女が居てくれて助かったと心底感じた。冒険や戦いの蓄は勿論、仕掛けへの気付きや対応。1人で乗り込んでいたら3人目の亡骸としてその辺りに転がっていたかもしれない。


遺跡内の試練を辛うじて乗り越え、2人は最奥部まで辿り着いた。


この先に何が待っているか不安もあるが、何より魔法の光による松明が並ぶだけの暗く湿っぽい地下遺跡も終わりかと安堵した。

兜越しとはいえ酷い土埃や暗さは心にも堪える。


両端に女神像が並び、魔法が脈のように広がる大きく重厚な石扉は2人が目の前に立つと光は消え、低く太い音を鳴らしゆっくりと開いた。


そこは聖堂のような空間が広がり、天井はより高く、石像や大きな壁画が両壁内に並び連なる。

石像は遺跡の入り口で戦った"石の剣士"そのものである。


左右5つずつ並んだ台座の上に立ち、だがその内3つは台座のみで石像は無かった。


祭壇の周りには強力な魔力を帯びた燭台が囲み、その奥には1人の女神が描かれた大きな祭壇画が飾られている。


思わず息を呑んだ、そして確信した。

あの女神こそが太陽の神であると。


「太陽の神。。光の女神リオネア」


リムヒルトがポツリと呟いた。

2人は辺りを見渡しながらゆっくりゆっくり中へと進んでいく。


入り口は扉を開けたまま淡い光に覆われていく。魔法の力だろう、何者を通さない貴い力。


同じ紋章の描かれた聖職衣が規則正しく通路の左右一列ずつに均等に置かれている。

まるで人が突如消えたかのように不自然と並べられたその先に、祭壇の上に小さく横たわる人間が居た。


視認できる程近付くにつれ、その人間は既に亡くなっており、身体は既に乾き崩れかけ性別は分からない。

ただその小さな亡骸を包み守るように、燭台は傷一つ無く強力な魔法で囲っていた。


「まさか…こんな小さな亡骸が?」


幸村は祭壇の前で立ち尽くすリムヒルトを横目に前に歩み出た。

何故かは分からない、だがペンダントが強く熱を放ち無意識な引き寄せられるような感覚に近い。


床に展開される魔法陣から上がる光に触れたその時。一人の亡骸を守り包んでいた光が聖堂内に散らばる。


リムヒルトは剣を抜き振り返る。


「おい、来るぞ」


その一言に幸村は目が覚めたように気が付くと、剣を抜き振りむく。


聖堂内の壁画に描かれた鳥達が光を浴びると、壁から飛び出し聖堂内を激しく飛び交い、同じく壁画に描かれた人間達の目が赤く光る。


すると一体の石像に鳥達が一斉に吸い込まれていき、石は剥がれ琥珀が埋め込まれた鎧を顕にする。

全身が石から鉄へと剥がれていき、両手に掲げていた剣が最後に光を帯びると、石像は動き出し台座を飛び降りた。


その姿はまるで"強き黄金の騎士“の様だ。


騎士は剣を構えると、強く脚を蹴り上げ向かってくる。鈍重さに揺れていた無機物の剣士とは偉く違い、まるで生きているかの様に身体を動かす。


騎士は咄嗟にどちらを先に仕留めるべきか判断できた、振り上げた剣は迷わず幸村めがけて振り下ろす。

案の定反応に遅れた幸村は左手を背に回すが盾を掴み損ねた。


咄嗟に目を瞑った幸村の目の前で激しい剣劇音が響く。


間一髪の所でリムヒルトの剣が騎士の一撃を防いだ様だ。


「何をしている」


叫ぶリムヒルトは力強く剣を振り払う。

幸村は盾を持ち直し、体勢を整えたが2人は構う事なく激しく打ち合い始める。


リムヒルトは確かに力強かった。

重心の取り方や勢いの付け方。剣の振るう角度に緊張感。

決して目の前の自分よりも大きい騎士に見劣りしないほどよく訓練し経験を重ねた打ち合いだった。

だが騎士の一太刀一太刀はより洗礼されておりまた凌ぐ程の力があった。

そして騎士の剣は光を帯び、残光は舞の様に美しくすら見えてしまう。


騎士は後隙を消し、彼女はなかなか一撃を与えられずにいた。

唯一狙い所を見つけ踏み込むが、繰り出した彼女の突きを騎士は弾くと、彼女の剣を踏み付け動きを封じた。


剣を離して避けないと・・だがその判断が身体に伝達する間もなく騎士の横薙が彼女の首元に迫る。


だが騎士の剣は彼女の首を刎ねる事に失敗する。

軌道を弾かれた騎士は剣に雷撃が走り少し焦げた匂いがする事に気付くと、幸村へ狙いを変える。


彼女は微かに緩んだ隙を狙い剣を抜くと、再びその勢いを利用して胸元目掛けるが、騎士が力強く払った攻撃に彼女は宙を舞い、石壁に叩きつけられた。


「くっ、くそ…」


立ち上がろうとするが身体が上手に言う事を聞いてくれない。

それでも彼女は剣を離すことはなく、背中に抱えた盾をせめてもと震える左手を無理やり動かし抵抗を試みる。

騎士は留めをさそうとするが、今度は背中に燃える様な痛みを覚えた。


「流石に硬いか…」


魔物や人の肌を焼き切る程の魔法はやつの身体を焼くには届かない。

幸村が2度放った雷の矢は騎士の苛立ちを募らせた。

騎士は彼女に背を向けると幸村目掛けて駆け出す。一撃目を盾で防ぐと、剣に雷を走らせカウンターを狙う。攻撃は見事に騎士に直撃し胴部には電撃が走るが

騎士は怯む事なく二撃目を繰り出した。


同じ様に盾で防ぐが、左腕の痺れと共に大きく身体ごと後退する。

僅かに出来た間合いで胴部に受けた攻撃を恥じる様に騎士は落ち着き冷静さを取り戻した。


間合いを詰め騎士は連撃を繰り出す。

だがそれは型もなく乱撃に近い振りであった。


防ぐ事が精一杯の幸村は次第に腕の力も抜けていく。

何度か雷の剣を振い攻撃を試みたが、騎士の振り回す剣戟に弾かれ手甲にすら当たらない。

大きく後ろへ下がり盾を捨て一か八か、幸村は騎士の胸元に目掛け雷の矢を放つ。


展開された光り輝く魔法陣に血飛沫が振り掛かると、幸村の視線が霞んでいく。

彼の放った雷撃は胸元で大きく走り、確実な一撃を与えていた。だがそれと同時に騎士の剣は幸村の腹を貫いた。

雷撃を覚悟しながら騎士は力強く大きく踏み込んでいたのだ。


「くっ…」


薄れていく意識の中、リムヒルトが遠くで叫んでいた。しかしその声はやがて聞こえなくなり彼は暗闇に溶けていく。

幸村は激しい痛みと、遠のく意識の中恐れた。

死が迫った恐怖ではない、きっとまた想い出が薄れ記憶が消えていく事の恐怖だ。

だが受け入れねば・・こいつに勝つことは出来ない。

そして大きく何かが割れた。


騎士はリムヒルトに目標を変えるが、違和感に気付き仕留めたはずの幸村に視線を移す。


琥珀の貴い光が全身を包み、ゆっくり白い光が傷跡を包み修復していく。

血を流しながらも立ち上がった目の前の男は、誇り高く高位なルレベルクの聖騎士の姿であった。




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