第12話 誇り高き聖騎士であれ

カーシーの話は約束を守り、要点をつき端的に長くはなかった。


オーランド城から更に北に遺跡がある。

その遺跡の地下に広い墓地が広がっており、そこに欠片が封印されていると話を続けた。


そして遺跡はとある仕掛けで封印されており、その鍵を解くものがこの城の何処かにあるという。


「自分で探さないのですか?」


「見ての通り私に戦う術などありませんから。外を歩くだけでも必死なのですよ」


「他の人達はこの事を?」


「さぁ・・私の知る限りこの城に話し相手はおりませんな」


幸村は違和感を感じた。カーシーといいリムヒルトといい、まるでこの城にはもうまともな人間は居ない様な言い方だ。

それに城内には狂った兵士や異形が徘徊している様子からもそう簡単に会合したり、城のどこかしらに人々が隠れ続けるのは難しい。


だとすればルトーのいう仲間達や他のみんなとやらは一体誰のことを指しているのか。嘘をつきここまでわざわざ誘い込んだのか?何のために・・


だが今は深く考えてしまっても仕方ない。幸村はカーシーと話を続ける選択肢を選んだ。


「何故私には話したんですか?」


「同じリオネア様の教えを信じ、太陽の信仰者だ。ふふ。そう、これは運命なのですよ。聖騎士様が、太陽の教えが世界を救うとね」


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暖炉部屋の奥、分厚いローブを身体に羽織り眠りこけるカーシーを横目に、幸村は暖炉の火を見つめる。


「あの話は本当なのだろうか」


(信じ難い?)


エレは気付いていたのだろうか。

それを知っていて白い鳥の存在を教え、この城に向かうよう"遠回しに"導いたのだろうか。


「素直に全てを話してくれても良かっただろう」


(ごめんなさい。貴方の心を試していただけ。決して悪気はないの、私の判断は正しかったかどうか…けど貴方は強くなりつつある)


「ホイホイと都合よくこの世界に転生されてくるもんじゃないんだな。きっと何か条件があるんだろうけど」


(私も自分の名前と使命の他の記憶を忘れてしまってる。いえ、持たされないようにという方も出来るけど)


「まあ要は欠片のおおまかな場所は分かるけど明確な情報は分からなかったって事か」


それに彼女はペンダントに宿るとはいえ、常に万能に動き会話が出来るようでもないようだ。何かきっと条件や状況があるのだろう。

問いただしても仕方ない。きっと重要な事は忘れてしまっているんだろう。

初めて会った時からそのような様子であったし、そんなことも言っていた気がする。


「まあ大丈夫、気にしなくていい。結末や展開を全部知ってたらそれはそれでつまらないから」


幸村はそう小さく笑うと、エレはありがとうとだけ呟き意識の中から消えていく。皮肉じみた感情を切り替え、精一杯の気遣いの言葉を投げた。


さて、と幸村も眠りにつく準備を整え目を瞑った。


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「起きてー」


身体をゆすられ、目が覚めた。

妙に懐かしい感触と場所。見覚えのある天井。


幸村は自分の部屋に居た。

ベッド横のカーテンから朝陽が部屋に差し込む。


(あれ、なんでここに)


部屋の中を見渡す。

綺麗とは言えないが脱ぎ捨てた服は折り畳まれ、スーツは綺麗にハンガーに掛けられている。

テレビでは朝のニュース番組が流れている。


(間違いない、ここは俺の部屋だ)


幸村は確信した。

夢かどうか曖昧な感覚に戸惑いながらも暫くボーッとしていると、奥から女性が朝食を持ってきた。


「あ、やっと起きた」


女性はニコリと笑うと、机の上に料理を並べる。


「早く食べて、遅刻するよ」


言われるがまま幸村は並べられた朝食の前に座った。


「いただきます」


手を合わせ、女性は箸を持ち茶碗を持ち目玉焼きをつつく。


「食べないの?」


「ああ、ごめん」


幸村は急かされるに同じように食事を始めた。

久しぶりだ、こんな暖かい朝は。

戸惑いは次第に懐かしさへと変わっていく。

こんな日もあったんだなぁと。


「そう言えば覚えてる?今週の土曜に出掛けるって話」


「ん、あぁ勿論」


「久しぶりに水族館とか行ってみたいな。幸村ずっと休みの日も仕事してたし気分転換になると思うよ」


「良いね、行こうか」


「やった!ありがとう!」


弾けるような女性の笑顔。

無意識に答えていた幸村は笑った。


「久しぶりだなあ、、デートなんて」


そして女性は箸を置き、手を幸村へ伸ばす


「約束ね」


ニコリと笑う女性の手に幸村も繋ぐように手を伸ばそうとする。


だが途端に片隅に置いていたら違和感が押しのけてくるように明確に幸村の意識を乗っ取る。


(この子は誰だっけ)


ゾッとする。

この関係性や会話から間違いなく付き合っている女性なのは確かだ。


だが、どうも何も思い出せないでいた。

変わらず笑顔で見つめる彼女であろう目の前の女性に、幸村は何か大事なものを失う怖さを覚えた。


(この子の…この子の名前は…何だっけ…この子は一体)


その疑問に逆らうように幸村の手は伸びていく。


重なった彼女の手は一瞬の暖かさに包まれると、

血濡れた大きな手に変わった。


「ベンクナー殿!!」


景色が変わった。

激しい豪雨の中、周囲は激しい戦いを繰り広げた跡が広がり、数十人の騎士の亡骸が散らばり転がっていた。

幸村の視界は胸に穴をあけ、真っ赤に染め上げ横たわった騎士の男の手を握っていた。


夢の度に出てきてあの騎士の男だ。

彼はベンクナーという名前だったようだ。


ベンクナーは薄れゆく意識を辛うじて繋ぎ止めながら、情報の書かれた文書を渡すと、そして横になって突き刺さった剣に触れた。


「これらをお前に託す。どうか、どうか我らの使命を、願いをどうか……」


そこでベンクナーは力尽き、手はするりと幸村の手から抜け落ちた。

彼の遺剣は僅かに光り輝いて見えた。


勇敢な騎士達の弔いを終え、家に帰るとベンクナーから託された文書を開いた。


そこには近頃、周辺諸国や街を襲う正体不明の化け物の手掛かりが走り書きされた彼の日記の一部であった。


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我らは化け物の正体を知った。

奴らは人間だ、人間だったのだ。


突如咆哮し、身体は膨れ背中からまるで孵化する様に異形と化した。

破壊力は凄まじく、石碑も教会の壁も容易く砕いた。

鉤爪のような両手は鎧すら貫き切り裂いていく。


一頻り暴れた後に、彼は何処かへ消えていった。

追わねばなるまい。

今日無念に散っていた仲間の為にも


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文書は2枚重ねだった。恐らくこの1枚目の日記とはまた別の日のものだろう。


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人間が人間でなくなり異形と化す状態。


何者かの陰謀であると疑った。

他国が魔術をかけそうさせたのか。

何か薬を仕込みそうさせたのか。


だがどれも違うのではないかと思う。


化け物の行方を追う最中、トレ村で1人の巡礼者と出会った。

彼はどうやら他の国から来たと語り、その国でも人間が理性を無くし自我を無くし彷徨っては襲いかかる事件が起きているとの事だ。


そして彼曰くそれを解決するにはイムブルクに答えがあるという。


遠い北にある土地で、この世界の中心だ。

神が創った最初の大地だ、なるほど。

急ぎ城へ戻りイムブルクへの遠征隊の招集を願い出ようと思う。


それは遥か長き旅になるだろう。

2度と帰れぬ覚悟を持って


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そしてその帰りの道中に襲われ、奮闘したがベンクナーは力尽きたのだ。

翌日、王への拝謁を許された。


ベンクナーの文書を渡すと、王はすぐさまに遠征隊の編成を将軍へ命じた。


その数はおよそ50。

剣技に特化した者、光の魔法に特化した者。

バランスよく組まれた編隊の小隊の中に組み込まれた。

城下街を遠征隊が行軍し、歓声に包まれる。


雨の上がった空は、より一層太陽が輝いた。


腰に携えたベンクナーの剣柄を強く握る。


「ルレベルク聖騎士団に栄光あれ!!」


市民達は救いを欲していた。

そして目の前を威風堂々と進む騎士団に希望の視線と歓声を向ける。


「騎士様!!」


その声の方へ視線を向けた。

若い女性が手を伸ばし、こちらに優しく笑った。

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