第6話 魔法とは

魔法とは一体何なのだろうか。

魔力とは何処から出てくる力なのか。


魔法とは生命エネルギーを源に、知識と祈りを重ね生み出される力。

この世界に生まれた生物ならば誰もが等しく持ちその身体に芽吹き流れている。

魔術、それは無限の夜空のように果てしない探究。

魔術、それは生命に与えられた可能性の息吹。


だが扱うには有限だ。流れる血液だって限りがあるように。

大事にすることだ。生命の恵みを。


夢から覚め、朝になっていた。

幸村は最初にもらった本を読んでいた。


火の焦げるような匂い...

外を見るとエレが昨夜、幸村が斬り倒した人間の”成れ果て”達の亡骸を燃やしていた。


視線を外すことなく、彼女はジッと燃える炎を見つめていた。


なかなか見慣れない文字の羅列は疲れた。数ページ読み理解するだけに少し疲れた。


ガイドブックか説明書のようなものかと思えば魔法とは、というか歴史書のような教科書のようなものだ。


だが俺みたいに全く別次元の世界から来たような人間には当然そんな力は無いのだろうか。


折角”こういう世界”なのだから俺にももしや...


ページをめくると、そこには1ページ丸々に魔法陣のような絵と、文字が書かれていた。


「お!これは」


だが幸村はふと我に帰った。知識と祈り・・なんて書いてあるが果たしてどうやってそれを実行すれば良いのだろう?


「私が教えてあげる」


いつの間に隣に立っていたエレの声に思わず声を上げて驚いた。


「び、びっくりした」


頬を赤ながら情けない声で言う。


「私は魔術の理をある程度知っているつもり。それに貴方に共鳴し宿った記憶にはその僅かな一端を感じているから」


そう言うとエレはその見開いたページを指差す。


「魔法陣は決まった法則から成り立つ。複雑で難解に見えても基本は変わりない」


まるで数学や物理みたいだ、だとすれば苦手なことこの上ない。


「それにこれは唯の調節弁の役割。重要なのはこの魔術の一端に触れて祈る力」


「貴方は夢を見たはず。既に貴方の中には遠い昔、生きた誰かの記憶と力が流れ始めている。まぁそれは運命としか言いようがないけど貴方には魔法を使用できる力がある」


「ほ、本当?」


「要は外の世界から来た貴方たちには本来流れない生命エネルギーでも、記憶や思い出と共鳴させることで”擬似エネルギー”を生み起こすことができるの。でもさっきも言った通りこれは運命。全く可能性を持たない人だって居たし、逆に魔法の力に大いに恵まれた人もいた」


エレの言葉に幸村は驚いた。


「居たって・・俺以外にも転生した人がいるってことですか??」


「そうね、時代や時間は異なれど、数は定かではないけど居たわ。だから貴方もこうして転生することが出来たのだから」


「その人達は今どうして...?」


「ごめんなさい、今の私にはそこまでは」


だが幸村は少し安堵した。なんだ俺だけじゃないのか。

他にも同じようにあの世界から来た人間がいるのか!

独りじゃなかった...その気付きは幸村の心を回復させるのに充分だった。


それにどうやらランダムのようや運命に個性があるとは。脳筋なやつやら賢者みたいなやつもいるのかもしれない...


だとすれば何処かでもし出会ったら仲間になれるかもしれないよな。

転生されたということは託された運命や目的はきっと同じはずだ。


まるでゲームみたいだ。

けど俺の知っているRPGファンタジーよりもどうやら澱んで暗い世界みたいだけどさ。


一つの小さな真実から、幸村は次々と都合の良い解釈を紡いでいく。


「続けて良い?」


ニヤリとしていた幸村の顔を覗き込みエレは言う。


「あ、ああ!ごめんごめん」


「本の一番最後のページを見て欲しい」


言われるがまま、パラパラと本をめくる。

最後のページには指輪が一つ貼り付けられていた。


「これか?」


「魔法を宿す生命エネルギーを持たない貴方は、これを触媒として魔法を発生させるの。私たちこの世界の生物には不要なものだけど貴方がこれから旅をしていくには必要不可欠なはず」


鉄甲を外し、とりあえず薬指にはめてみた。理由はないけど指輪といえば、ね。


ふと何故か別れた彼女の由佳の顔が思い浮かんだ。

由佳はずっと待っていてくれたのだろうか...俺がプロポーズする瞬間を。


(あぁ、だめだだめだ。思い出すと辛くなるだけだ。それに覚悟したはずじゃないか)


指輪をはめる。特に共鳴も違和感も力がみなぎる感覚とかも起きないようだ。

何変哲もない指輪だが、これが生命エネルギーの代わりとなり触媒となるのか。


「魔法とは知識の探究なの」


魔術は1人の神が生命にもたらした奇跡であり力。

そして記された、そして歴史と共に残された魔法を知り学び祈りを捧げる。

この世界の人間はそうしてエネルギーを血肉とし力にするのだ。


幸村はそうして当初のページへと戻る。

魔法陣と共に文字が書かれていた。


「生物は生きていれば必ず傷を負う。

その涙に神は答えた。

傷を癒やし心を癒やし、そして再び勇気を持つ。治癒は折れぬ心に黄金のような恵みを与え、長い生命を祝福するように」


すると幸村のペンダントと指輪が呼応し、小さく一瞬の光を放つ。


「これは...!」


「これが魔法の力よ」


「回復魔法みたいなものか...おぉ」


(貴方に宿った思い出は、どうやらこの神の魔法の流派の加護を受けているのね)


幸村は少し興奮した。


「けど本にも書いてる通り無限ではない。太陽が沈み夜が来るように。生命エネルギーは同じように循環する。1日に多大な量は禁物よ」


「よく分からないけど...要は回数制限があるってことか。なるほど」


すると幸村はあっと思い出し、袋をまさぐると小瓶を数本取り出した。

黒い騎士との戦いの際に1本砕き、残りはどうやら4本しか残っていない。


「そういえばこれも、この色付きの水も浴びた時に傷が治ったんだけどこれと魔法は違うのか??」


エレはどうやら初めて見るようにその小瓶を覗き込みジッと見つめたあと


「少し違うけど...同じような類ね。この水は魔法と祝福を受けているものみたい。どうやって使ったの?」


「確か...頭上で瓶を砕いて、飛沫を浴びたんだったかな。鎧を着ていたのに身体の傷が塞がって血も止まったんだったな」


「そう、だとすれば魔法よりも強い力があるものね、だとすれば慎重に使わないと」


そう言い終わると、エレは立ち上がり、光の粒子となりペンダントへと入っていく。


(さぁ、行きましょう。充分に休めたはずだし知りたいことは知れたでしょう)


途端に冷たい言葉を放ったエレに戸惑いながらも、幸村は立ち上がる。


「よし、行こうか」


(あぁ、それと...瓶は砕かないようにね。身体に撒くように、もしく飲むだけで大丈夫なはずだから)


どうやら幸村は使用方法を誤っていたようだ。









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