第2話 狭間の監獄塔
強烈な光に飲み込まれ、幸村が再び意識を取り戻した時には、薄暗く湿っぽい牢の中にもたれかかっていた。
一体何だったんだ。。
体を起こし、鉄窓から外を見る。
見えた景色は雨が降り、曇りがかっていた。
だが人生において見た事もない壮大な大陸が広がっているであろう事は容易に理解できた。
少し視線を落とせば、チラホラと城やら市街地やらが遠くにだが目に入る。
思わず息を呑み、そして確信した。
はっきりと分かる事は既にここは今まで生きてきた場所や世界とは違うこと。
きっとあの女神様のような女性の言葉は事実。
そして想像よりも薄暗い世界なんじゃないか、と。
幸村は自分の服装が、会社帰りのスーツ姿のままであること。
生まれ変わり〜などではなく姿形そのままに転生された事に気付いた。
頭を整理させながら、鉄格子を掴む。
「っていうか、ここは何処なんだ。なんで俺は捕まってるんだ?」
細い隙間から精一杯に顔を覗かせると、
目の前も横も。
それどころかどうやらこのフロアは監獄が連なっているような場所だった。
おまけに雨漏りは酷く、暗くジメッとしている。
「騙されたのか、、?あの女に、、」
「地獄、、とかじゃないよなまさか」
幸村は強烈な不安を感じると、力を失いその場に座り込んだ。
すると、奥から小さな灯りと共にコツコツと音を鳴らし誰かが近付いてくる気配がした。
そして幸村の牢部屋の前で止まった。
見上げると、小さなランタンをぶら下げ、表情の見えないくらい深くフードを被った何者かが立っていた。
「出なさい」
その声はまるで老人のように、掠れ弱々しい。
ギィーと音を立て、鉄格子が開くと男はまた来た道をゆっくりと戻っていく。
「おい、待ってくれよ」
幸村は急ぎ立ち上がると、男の後を歩く。
「ここは何処、、ですか?」
その問いに振り返る事もなく男は答える
「慌てる事はない。君が生きた世界とは全く別の場所、だという事は分かるだろう?」
「知っているんですか、、?俺のいた世界の事を」
すると男は小さく笑い、独り言のように呟く
「何人目だろうね。。もう覚えちゃいないが、、」
しかしその声は一層強まる雨音に掻き消される
「なんていいました??」
「ああ、何でもないよ。知ってるよ、もちろん」
男は小さなランタンを眼前まで掲げ歩くが、2人が歩く視界を確保するのに精一杯な程、暗がりは続く。
「聞きたいこと、知りたい事はたくさんあるだろうが、次第に嫌でも理解する事になる。今全て話した事で無駄だってことさ」
老人は一つの部屋の前で足を止め、扉を開ける。
入るよう促されると、部屋の中には袋が置かれていた。
「開けてみなさい」
老人に言われるがまま、幸村は袋を開ける。
鞘に収まったロングソードが一本。
薄い本が一冊。
液体の入った小さな小瓶が5本。
上下に長いカイトシールドが一つ。
「これは、、!」
幸村は少しテンションを上げた。
剣に盾、、ゲームやアニメで散々見てきた代物。
そうか、やはりここは中世ヨーロッパ風味な世界なのだろう。
こんな辺鄙な格好にも驚かない男。
言語が通じ、どうやら前の世界の事も知っているようだ。
国を跨いで時代をただただタイムスリップしたとかそういう類ではない。
転生か、まさか本当に起きるとは。。
幸村は最初に薄い本を手に取った。
そしてページを開いた瞬間、脳内に電撃のような何かが共鳴し走る。
日本語でも英語でもない。
全く見ず知らずの言語や絵が連なるその本の言葉が理解できるようになった。
「え?、、なんで、、なんで分かるんだ?」
驚く幸村に男は答えた。
「誰かの思い出でしょう」
「ど、どういう事ですか?」
「後でお教えしますよ。全てではないですがね」
幸村は次に剣を手に取る
意外と重いんだな。
高揚感のまま鞘から抜いた瞬間、同じように脳内に何かが走る。
だが、本とは違い、何が変わったのか分からずにいた。そして残りの瓶に、盾。どれも手に持つと同じように衝撃が走る。
「正解でしたな。それが貴方様の最初のお供でしょう」
男はまたか細く笑うと、部屋の隅を指差す。
そこには薄汚れ少しくすんだ黄金のサーコートが特徴的な鎧や兜。手甲。足甲が飾られていた。
かつて何処か栄えた王国の騎士の鎧なのだろう、その名残が感じられる。
「おお、、」
幸村は少し笑みを溢した。これが騎士の鎧かと。
「そんな薄い羽織ものでは命を捨てにいくようなものですよ」
「そ、そうですか」
着ていたスーツを脱ぎ捨て、急ぐように鎧を着込んでいく。
だが剣も盾も本も、この鎧一式も痛み汚れている。
真新しいものを少し期待したが、味があって悪くない。
合っているのか分からないが、頭から足まで一通り通した時に、全身に衝撃が走った。
その瞬間、初めての甲冑姿に違和感を覚えていた体が非常に馴染むのを感じた。
「うむ。やはりそれも合っていたか」
男はそう言うと、幸村が床に置き去りにした道具を拾い、剣を。盾を。袋を。適切な場所に差し込んでいく。
男は脱ぎ捨てたスーツと革靴を綺麗に畳み、袋にしまった。
そんなものいいのに、そう幸村は思ったが
「これは貴方の生きた証の一つでしょう。大切にしなさいな」
「あぁ、、ありがとうございます。」
男はランタンを拾うと、再び扉の前に立つ。
「よし、そしたら来なさい」
幸村は言われるがまま、男の後を歩く。
「そういえば、後で教えてくれる、と仰っていましたが…」
「ああ、そう。ただ最後に神の覚悟を見ておきたい」
男の後を歩き、やがて少し開けた屋外の広場に出た。
兜に鎧に雨音が強く響く。
広場の向こうには身の丈の倍はあるだろう扉があり、その前には同じように騎士の姿をした何者かがジッと立ちこちらを見つめていた。
酷く全身は血や傷に汚れボロボロで黒く焼け爛れている。
しかし顔は見えずともその凜とした立ち姿に背筋が伸びた。右手に構える剣は騎士の戦いの歴史を感じさせる程痛み、強くそして鋭い。
「まずは、あれと戦い勝ちなさい」
な、、
そう言うと驚く幸村を横目に下がっていく。
男の言葉に何故と答える間もないまま、黒き騎士は剣を両手に構え駆けてきた。
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