第3話 おれが愛した女は!?

まあいい。次に腕だ。


ムシャ………

腕の動作確認を最後に持ってきたのにも大きな理由があった。

通常なら、真っ先に腕が自由かを確認するのだが、俺はあえて最後にまわした。

その理由とは、麻痺した五体の神経の中で、腕の感覚だけが、他にもまして麻痺しているからだ。


先ほどの現状調査の時にも、腕からの情報は一切伝達されてこなかった。

俺は手のひらを握るように指令を出した。が、………無理だった。

手からの動作完了報告が返ってこない。

俺の手のひらは開いているのか、握っているのか、皆目見当がつかない。

それどころか両腕の肘から先の感覚がまったくないのだ。


ど、どういうことだ!?………俺の背筋に悪寒が走った。

まさか両腕切断………。いや、恐らく局部麻酔のようなものだろう。

俺は、自分に両腕がない姿などは、想像したくもなかった。


ムシャ………

不思議なことに、つい先ほどから頭の片隅に僅かだが、記憶の断片がよみがえりつつあった。

ただそれが自分のものなのか、別の誰かのものなのか。はたまた前世の記憶なのか。

それが曖昧で漠然としていて、画用紙の上に絵の具を垂らして、二つ折りにして開いた時の模様のように、はっきりとした記憶の形にはなっていなかった。


そしてもう一つ、不思議なことがある。

それは、全身に力をいれて暴れれば、この体勢から逃れられる可能性があるのだが、自分のどこかで、それを拒否しているようにも感じる。

………いったい、この気持ちは何なんだ?


「全力で暴れろ!」という命令が、キーボードの入力エラーのように、脳に弾き返されて受け付けてはもらえないのだ。


………おかしい!?


ムシャ………

突然、何かが頭の中でひらめいた。

それは銀色の閃光のように、左耳下から、一直線に右こめかみの上を貫いた。

その瞬間、かすかな記憶が蘇った。


俺には、たしか愛した女が一人いたはずだ。

そして、俺はその女に会うために、ここへ来たのだ。

そうだ、俺は、会いに来たのだ。


待てよ、俺は会えたのか?その最愛の女に、………俺は会えたのか。

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