さつまいも隼人

 僕は、家の中に住む小人です。

 小さなベッドに小さな毛布。僕はもう大きくなってしまったので、少し足の先っぽが出て冬は寒いです。朝起きた時に風邪をひいてしまったこともあります。

 それでも、ぎゅっと足先とお腹を近づけて体全体を布団の中に入ります。そうしたら、ママが僕のことを触ってくれます。その手は少し温かくて、僕の心臓も温かくなります。今日は暖かくなって眠れそうです。

 目をつむると、頭の中がぐちゃぐちゃってなっちゃいます。ママにどうしてって聞いても、分かりません。暗くなったところに白い毛糸が絡まって、ほどけなくなっちゃいます。それでも、目をつむってると何かが聞こえてきます。ママの声とパパの声。夢の中でも二人の声が聞こえてきます。

 僕は、すーって息を吸い込んですーって吐きます。吸って、吐いて。吸って、吐いて。

 吸って、吸って、吸って、吸って、吸って、吸って……吐いて。

 朝起きたら、目の周りをこすります。これはいつもの習慣です。でも、ママに見つかったら怒られちゃいます。目が赤くなっちゃうかららしいです。でも、今日はやめられません。今日はずっとこすっちゃいます。

 かゆい。かゆい、かゆい、かゆい、かゆい、かゆい……痒い。

 いつも起こしに来てくれるママが今日は来ません。ふと、扉が開きます。

 キィ……って音を立てて。そこにはパパが立っています。


「……」


 声が出ません。パパは僕にまっすぐ近づいてきます。ママに触ってもらった心臓がぎゅって温かくなります。今起きたばかりなのに、もう眠くなっちゃいます。

 パパが僕のほうに手のひらを向けてきます。

 ふと、目の端っこの部分に赤色が映ります。パパのズボンに赤い汚れがついてます。


「ねえ、パパ。ママは?」


 僕は、この家の小人です。

 吸って、吸って、吸って。空気を吸って。

 かゆい、かゆい、かゆい。瘡蓋を搔いて。

 温かい、温かい、温かい。心臓の音を聞いて。

 僕は、この家の小人です。

 吸って、吸って、吸って。淀んだ煙を吸って。

 かゆい、かゆい、かゆい。心の傷は治らなくて。

 温かい、温かい、温かい。握った拳はパパのもので。


 僕は今日も、この家の小人です。


「ねえ、ママ。パパ。僕、お腹すいたよ?」

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さつまいも隼人 @karashi__wasabi

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