新刊出すまで死に切れん 2人用台本

第1話 新刊出すまで死に切れん

男：智之…智之…

友：あれ…なんか聞こえる？…気のせいか

男：ここだよ…智之…

友：やっぱり聞こえる…どっから？何の音？

男：とーもーゆーきー

友：え？……わっ！天野！？

男：智之っっ…！やっぱりお前なら視えるんだな！？ひゃっほーう！！

友：天野…なんでここに！？お前、昨日納棺（のうかん）されて焼かれたよな！？

男：そうなんだよ～俺昨日灰になっちゃったんだよ～文字通り

友：言ってる場合かっ！

男：いや～お前が「俺、霊感あるんだよね～」とか言って女子に注目されてるの見て「ほざけ嘘つき男が」とか思っててごめんな！ホントだったんだな！

友：そんな懺悔（ざんげ）聞きたくなかったわ…墓まで持って行けよ頼むから。…というかなんで成仏してないの。お前3日前死んだんだよ？わかってる？

男：そうなんだけどさぁ～墓に入る前に閻魔（えんま）っちに言われちゃって～一瞬、出戻り…的な？

友：出戻り？つか閻魔（えんま）っちって…まさかあの閻魔（えんま）様のこと言ってる？地獄の大王的な

男：そうそう、その大王様。みんな向こうでは割とフランクに呼んでるんだ～お前は知らないだろうけど

友：そりゃそーだよ

男：で～閻魔（えんま）っちに言われたんだけど～

友：そうだよ、なんで戻ってきちゃったんだよ

男：心残りを片付けてこいって

友：心残り？…未練（みれん）ってこと？

男：そゆことー

友：未練残して死んだんか

男：そなのよ～も～バリ最悪で！

友：……色々聞きたいことはあるが、とりあえず…天野そんな感じだっけ？

男：え？

友：なんかこう、ノリがパリピになってねぇ？…いや、パリピって言うか…パリピを知らない陰キャが頑張ってそっちに全振りしてるようなパリピ感って言うか

男：…ふっ。勘のいいガキは嫌いだよ

友：俺もう29だよ

男：29か～中学で出会って15年…俺らも歳取ったな～

友：お前はもう取らないけどな

男：く～しみるぜ…

友：で？なんでお前そんなテンションなの

男：なんか～生きてる間、俺暗かったじゃーん？

友：そうだな。根暗で無口で常に目線下にして隠れるように息して時々にっそり笑ってたもんな

男：智之、俺になんか恨みあった？

友：貸してた金、返さずに死んだよな？

男：（江〇川コ〇ン風に）…あれれ～？そうだっけ～？

友：香典（こうでん）袋、カラで出しといたから

男：マジかよ

友：俺だけじゃなくて、佐野も裕太もカラにしたってさ。お前どんだけ借金してるんだよ

男：泣けてくるぜ

友：泣きたいのは貸したまま死なれたこっちの方だっつの。…んで？陰キャで地味でカビ生えたような生活送ってた天野は、残された時間だけでもパリピを楽しもうとしてる訳？

男：めちゃディスるやん

友：俺が貸してたの2万なんだけど、平均的な香典の金額知ってる？

男：好きなだけディスってくれ☆

友：はあ…もういいよ。…で。お前の心残りって何

男：気になる？気になっちゃう感じ？

友：ならん。寝ていいか

男：やーん待って待って！興味持って！…というか、俺の心残りなんて一つしかないだろ！？

友：あー…まあ、思い当たるのは一個だけしかないけど

男：じゃあそれ、声に出して言っちゃって！

友：ったく。…それじゃあ…おほん。……女抱きたい！

男：え…

友：え…違った？

男：違ぇよバカッ

友：違うの？絶対これだと思ったわ

男：女の子なんて二次元で十分だよっ

友：…本音は？

男：抱きてぇぇぇぇぇ！！

友：めちゃめちゃ心残りじゃん

男：でも死ぬ間際に望んだのはそれじゃなかったんだよぉぉ！俺のバカー！願うならそっちだろぉぉ！？

友：心残り増えたな…んじゃあ天野の心残りってなんだったの？

男：…原稿（げんこう）だよ

友：は？

男：コミケの原稿！あと印刷所持ってくだけだったのにっ…！

友：心残りがそれってどうなの

男：なんであのタイミングで階段から落ちるかなぁ！？徹夜で、ベタ塗り完成させた直後って！ギリ締め切り間に合ったのに…！せめて印刷所に届けてからだろ！？

友：知らねぇよ。徹夜なんてするから足元ふらついたんだろ

男：俺の本が、世に出るべき傑作の本がっ…

友：はいはい、そりゃご愁傷（しゅうしょう）様

男：というわけで、智之。お前の身体貸してくれ

友：は？…お前まさか、俺の身体乗っとる気か？入り込むつもりかよ！？

男：ふふふ…俺にそんな力は無い！

友：えっ

男：物にも触れない！身体も乗っとれない！役立たずとは俺のことさっ☆

友：威張（いば）んなよ、ポンコツじゃん

男：少しは言葉選べよ

友：２万

男：すまん

友：韻（いん）踏むな

男：頼むよ智之ぃ～印刷所にはもうすでに前金払ってるからさ～あとちょーっと動いてくれるだけでいいからっ

友：……その前払金返してもらったら、お前に貸した金回収できるんじゃね？

男：止めてお願いそれだけは…！な～マジで頼むよ～一生のお願い！

友：一生終わってるだろうが…ったく。製本終わったらサクッと成仏しろよ

男：もちろんっ

友：……んじゃ、今からお前ん家行くわ…

男：友よっ……！

0：1週間後

男：出来たっ……！

友：届いたか

男：見ろよ、俺の最高傑作！俺の愛がぎっしり詰まったこの御本（ごほん）を…！

友：見たよ、入稿（にゅうこう）の過程で。お前、絵だけは上手かったもんな

男：絵だけじゃない！このコマ割り、ストーリー展開、控えめに言って神だぜ

友：自分で言うなよ

男：じゃ、さっそく売るぞ

友：ええ？これが出来たら成仏するんじゃなかったのかよ

男：本は人に読まれて初めて本になるんだ

友：わけが分からん

男：いいじゃーん、最後まで付き合ってよ～

友：…つかお前、こんなに長いことこっち留まってていいの？閻魔（えんま）っち怒らねぇ？

男：あ～なんか～いつまででも行ってていいぞ～って言ってた

友：嘘やん

男：でも「遅くなり過ぎたらお前の魂ゴミ箱に捨てる」って言われてるからあんまり長居すんのは良くねぇかも？

友：魂の廃棄方法雑だな

男：コミケはもう流れちまったし…サイトかな、やっぱり

友：サイトって同人の？そんなとこで売れるもんなんか？

男：おう、俺結構人気作家だったんだぜ

友：嘘くさ

男：早く早く！俺のＳＮＳのアカウント入ってログインして！

友：え～

男：頼むよ～！

友：…わーったよ

男：で～そのトップのＵＲＬ叩いて…

友：へいへい。ったく…こうなったら最後まで付き合ってやるよ

0：2週間後

友：嘘だろ…おい…この金額…

男：まーこんなもんかなぁ

友：おま、こんなもんって…俺の口座！入金30万円入ってるんだけど！？

男：1200円の本の注文が300件、手数料やら色々しょっ引かれて…2週間にしちゃあ売れたかな

友：300！？2週間で！？そんなに注文来てたのかよ！？

男：言っただろ？俺人気作家なんだって

友：マジかよ…あんなぺらっぺらの本に1200円…頭おかしいって思ってたんだけど…

男：おい

友：「○○の遺作」って銘（めい）打ったから、お情けで3冊くらいは売れるかな？と思ってたけど…300って

男：まだまだ注文入ると思うぜ？完全受注生産取ってるし、売れた分だけ運営が勝手に刷って勝手に発送してくれるから何もしなくてもいいけど。マージン高い分、このサイト楽なんだわ

友：うそだろ…これは完成間際に死んだら化けたくもなるわ

男：だろ？

友：お前、すごい奴だったんだな

男：…生きてる間にその賛辞（さんじ）浴びてみたかったわ。でもこれで、心残り無くなったわ

友：成仏するのか？

男：ああ

友：売れ行き、まだまだ伸びるんだろ？もうちょっと観察しなくていいのか

男：いいよ、もう未練はない。……これで、お前たちに金返せるからさ

友：え？

男：長いこと借りてて悪かったな、2万円。ずっと返さなきゃって思ってたんだけど…原稿取り掛かってたせいでバイトもろくに入れてなくってさ…

友：まさか……お前の心残りって……

男：コミケ終わったら、返しに行く予定だったんた…金。お前にも佐野にも裕太にも

友：天野…

男：あーでも、どうせ心残りにするんならお前の言った通り「女抱いてみたかった」とかにしたらよかったのかな

友：…どうやって叶えるんだよ、身体も乗っ取れないポンコツのくせに

男：そりゃそうだ。…利益、もうしばらく生むと思うから利子ってことで受け取ってくれ。佐野にも裕太にも借りた金額に色付けて返しといてくれると嬉しい。…あいつらがあの世に来た時に恨まれたくねぇからな

友：わかった

男：色々ありがとな、付き合ってくれて

友：いや、こっちこそ…なんつーか、実はこの数日結構楽しかったんだわ。放課後にだべってるような懐かしさがあって…

男：俺も。中学時代思い出して楽しかったわ

友：あと…香典（こうでん）カラで渡してごめん

男：いいよ、自業自得だから。あっちに金持って行けねぇし

友：でも、「地獄の沙汰（さた）も金（かね）次第」って言うだろ？

男：あ～その表現、なんで生まれたんだろうな。…知ってっか？閻魔（えんま）っちは金よりマカロンが好きなんだぜ

友：マカロン？マジで？

男：おう。真偽はお前の目で確かめろ。…歳、3桁超えるまで来るんじゃねぇぞ？気長に待ってるからさ

友：3桁かぁ…まあ出来るだけやってみるわ

男：とりあえずお前はタバコの本数減らせよ、吸い過ぎだ

友：はは…参考にするわ

男：あと階段降りるときは慎重にな、特に寝不足の時は

友：言葉が重ぇよバカ

男：んじゃ、行くわ

友：ああ。…あ、近いうちに佐野と裕太誘って墓参り行くわ。お前の御本（ごほん）、せっかくだから墓に飾ってやるよ

男：それは恥ずかしいからやめろ！

友：ははっ、文句はあっちで聞いてやる

男：にゃろ…覚えてろよ

友：おう、覚えとくわ

男：…んじゃな

友：ああ、じゃあな

0：男消失

友：…またな、天野