第4話 さいかいのおと

「なんで、いってくんなかったの?」


「へ?」


たもくてきホールで、いきなり、岳がきいてきた。


「なにを?」


あぜんとするわたし。なにいわれてんのか、わからない。


「結月、モテたろ。しょうがっこうのとき。なんで、すきなやつがいるっていわなかったの?」


「…なんの…はなし?」


「え…だって、茉希が結月は、すきなひとがいるから、あきらめたほうがいいって…」


「…!?」


「…ちがうのか?」


「…茉希…そんなこといってたの?」


「ほんとうだったんだ…」


「ほんとうのわけないじゃない!!ほんとうだったら、かさ…わたしにいくわけないじゃない!!まって、なんて、いうわけないじゃない!!にゅうがくしきで、あんなに…あんなに…なみだがでるはず…ないじゃない…。どんなに、おどろいたか、わからないの!?どんなに、うれしかったか、わからないの!?どんなに…かけよりたかったか…わからないの…?」


「おれだって!茉希にそういわれたから、『まって』のいみも、『かさ』のいみも『またあえるかな』のいみも、わからなかったんだよ!!おれだって!!たちどまりたかったよ…かさ、よ、『またあえるよ』っていいたかったよ…でも、結月、モテてたし…」


「そんなこと、茉希じゃなくて、わたしにきいてよ!わたしのことばをしんじてよ!わたしのおもいをわかってよ!わたしのこうどうをたいせつにしてよ!」


「できるかよ!!しょうがくせだぞ!!おれたち、いまだって…ちゅうぼうだぞ!?そんな、かんたんに、いしんでんしんできるはずねぇだろう!!」


「だからだよ!!だから、ことばにしてよ!!わたしは、『まって』っていったじゃない!!こうどうにしてよ!!わたしは、『かさ』さしだしたじゃない!!みらいをやくそくしてなんていわない!!でも、ゆめにすることくらい、ゆるしてよ!!わたしは、『またあえるかな』っていったじゃない!!岳は!?岳は、なにをいってくれた?なにしてくれた?なにゆるしてくれた?ぜんぶ…かってに…」



なみだが、こぼれる。ことばがぼうはつする。がっこうであることを、わすれる。せいとらが、なんだなんだ、とぼつぼつあつまりだす。そのなかに…。



なみだ、ためて、てをグーにして、あし、かたはばにひらいて、たちすくむ茉希がいた。



「わたしが…こわした…。ずっと…こうかいしてた…。しょう4のとき、岳がてんこうするっていって、結月がきょうしつとびだして、はじめて、しちゃいけないこと…したんだ…って、きづいた…。ごめん。結月。岳。わたし、ふたりのこと、すきで、結月のこと、すこし…きらいで…、岳のこと…すごく…すきで…。ごめん…。ごめん…………!ごめんなさい…………!!」



「「茉希…」」



「ふたりが…さいかいするって…そんなおとがきこえてたら、あんなうそ…ぜったい、いわなかったのにな…。そこまで…ひどうになれなかったのにな…。だから、にゅうがくしきのつぎのひ、てがみかいて、結月のなまえで、岳をしょうこうぐちによびだした。それくらいしか…、わたしに、できること、なかったから。岳なら、ぜったい、くるっておもった。岳、ほんとうに結月のことすきだったから、きっと…ぜったい、いまも、すきだろうな…っておもって…。でも、このくらいじゃ、つぐないにならないよね…。ごめん…。もう、ふたりには、ちかづかないから…」




「茉希」


「まって!岳!」


スッと、とめようとしたわたしを、岳がせいしした。


「だいじょうぶだ、茉希。おまえのおかげで、さいかいのおと、きこえた。こうして。こうして、おれたち、さいかいした。おまえ、おれのせなか、おしてくれた。てがみ、結月のじじゃないってすぐわかったから。おまえからだって、すぐわかったから」


「…なんで?」


「おまえからの、てがみも、すてたりなんかしてない。じ、うまくなったな。でも、結月のきち、したのぼう、ながい。それ、なおってない。くせ、みぬけないほど、おれ、ばかじゃない。おまえのきもち、きづけないほど、おれ、どんかんじゃない。でも、結月のことになると、とたんに、わからなくなる。結月のしんゆうの茉希のはなしなら、ほんとうかな?とか、おもったり…、まよったり…、しんじれなかったり…、じしんなくなったり…、ほんとう、結月のいうとおり、おれ、なんも、してなかった。にげてた。それ、茉希のせいじゃないから」


「…茉希、茉希も岳がすきだったこと、しらなかった。つらい、おもい、させたね…。こっちこそ…ごめん…」


「…やめてよ…そんな、きれいごとで、ゆるさないで!!せめてよ!!おもいっきりせめてよ!!もうこれいじょうない!!ってくらい…せめてよ…」


「…じゃあ、いうよ?いい?」


「…」


「わたし、岳がすき。『まって』ほしかった。あのとき、たちどまって、わたしをだきしめてほしかった。『かさ』っていったとき、もっていってほしかった。おまもりにでも、おもいでにも、たんなるごみでもいいから。『またあえるかな』っていったとき、ふりかえって、『ぜったいあえるよ』っていってほしかった。…それは…いまもかわらない。あのころいじょうに、わたし、岳がすき。茉希に、きっと…まけないくらい…」


「茉希、おれ、なにもできなかった。いえなかった。やくそくも、できなかった。こどもらしく、そんなやくそくうそでいいから、すればよかったって、おもってる。でも、あのとき、結月のすきなやつが、すぐちかくにいて、おれは、もうあえなくなって、またあえるほしょうもなくて…。『まって』あげられなかった。あめでぜんぶ、ながれればいいっておもった。だから、『かさ』うけとらなかった。『またあえるよ』って、いえなかった。でも、いま、茉希のきもちがちがうなら、おれと、結月のが茉希のなかで、かた、ついてるなら、おれ、結月とつきあいたい」


茉希が、ほほえむ。


「いいよ」



『さいかいのおと、はこんできてくれて、ありがとう』

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再会の音 @m-amiya

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