第64話
あっという間に時間が経ち夕方になった。
更衣室で水着から私服に着替えた俺たちは、花火会場となる場所に向かっていた。
向かう場所は同じなので人の流れが凄い。
「プール気持ち良かったねー!」
「だね!それにまだ遊び足りないよ」
鬼頭さんと佐伯くんが目の前で楽しそうにプールの話をしている姿を、その後方を歩く俺と結茜さんは二人のことを眺めていた。
「ねぇ、雪翔くん」
「んっ…? どうしたの?」
俺は結茜さんの方に視線を向けて聞き返した。
「私、友達とプール来たの初めてなんだよね。 だから、今日は凄い楽しい一日になったよ」
「それなら俺も楽しかったよ。それに気になっていたウォータースライダーにも皆んなと乗れたしね」
小さい頃は身長が足りなくて乗れず、その後もタイミングが合わなくて、この歳になるまで挑戦することが出来なかった。
その間はずっとテレビで流れる芸能人たちの映像を眺めているだけだった。
「ふふふ」と結茜さんが微笑した。
「その笑みはどうゆうことかなー?」
「深い意味は無いけど、気になっていた割にはかなり震えていたように見えたなーと思って…ね」
うっ…痛いところをつくな。
「確かに震えてはいたかもしれないけど、それはあれだ。 そう、武者震いだから!!」
「そんなに緊張していたんだね。かわいい…ね」
「か…可愛いって言わないで!! あとニヤけないでほしいんだけど!!」
その場で結茜さんは立ち止まるとーーー
「どうしようかな〜?」
ニヤニヤとしながらぐいぐいと近づきて来た。
(め…目の前に大きな双丘が迫ってくる)
服を着ているため水着ほど破壊力は無いが、それでも視線をずらしてから俺は返答をする。
「何も悪いことしていないのに…」
「悪いことをしていない? 雪翔くんは『武者震い』と答えたことが有罪なんだからね」
「……っえ?! それだけで有罪になるんだったら、嘘をついた人全員が有罪になるよ!?」
「ならさーーー」
結茜さんは俺の顔を両手で挟むと、自分と視線を合わせるように俺の顔を動かしてきた。
「反論するな視線を合わせないと駄目だよね?」
「それは…結茜さんの……が迫って来てるから…」
「おやおや〜 雪翔くんは何かいやらしいことを想像しているようですなぁ〜」
くっ…何度目だよ。結茜さんに主導権を握られるのは。そもそも俺は結茜さんに勝てるのか?
相手は幻の妹の二つ名を持つ羽衣結茜だぞ。
「逆に聞くけど、結茜さんは俺や知らない人にそんな風に見られて嫌じゃないの?」
「知らない人は嫌だけど、雪翔くんは知っている人だから嫌じゃないよ? 時々、恥ずかしい気持ちになる時はあるけどね」
結茜さんは優しく微笑み、そして「でも」と言葉を続けた。
「これは私個人の意見だから、他のモデルの人は一緒の考えだと思わないでね?」
「結茜さん以外のモデルの人と仲良くなることはないと思うけど…」
この場合は七蒼さんは除外だ。
それを踏まえた上で考えると、やはり俺が結茜さん以外のモデルの人と仲良くなることはないな。
「まあ雪翔くんは私だけを見てればいいのよ」
「見てればって…それって、つまりーーー」
と聞き返そうとした時。
「二人とも何してるのかなー?」
先に歩いていたはずの鬼頭さんが目の前にいた。
何か面白そうな現場を見たような表情をして。
「き、鬼頭さん?! 貴方、いつからそこに?!」
「それ聞いちゃうのか〜」
鬼頭さんは咳払いをすると、俺の方に視線を向けて口を開いた。
「ちょうど『雪翔くんは知っている人だから嫌じゃないよ』の場面だったね」
「そ…それは全部聞いているってことだよね?!」
「いや〜委員長の愛のある言葉を聞けて嬉しいよ」
「あ…愛って?! そこまで深い意味はーー」
「否定しなくても私は分かっているから」
「分かっていないよ!!」
これは鬼頭さんが流れを持っていったな。
結茜さんも主導権を握ることは上手いけど、鬼頭さん相手になるとリズムを崩されるらしい。
隣で眺めていた佐伯くんが「ふふふ」と漏らす。
「委員長は静香を相手にすると、普段のクールなイメージが崩されるね」
「鬼頭さんの押しの強さには誰も勝てないよ」
鬼頭さんの押しの強さがなければ、俺は結茜さん以外の人と仲良くなれなかっただろう。
「それは同感だね」
「そこは彼氏だからこそ彼女が暴走しないようにブレーキの役目をするところでは?」
「確かにブレーキの役目だけど…」
佐伯くんは一度鬼頭さんの方へと視線を向ける。
つられて俺も視線を向けると、いまだに二人が仲良く話している姿があった。いや、鬼頭さんの方が優勢なのは変わらないな。
「あれを止められる自信はないかな」
佐伯くんは苦笑しながら答えた。
(佐伯くんなら余裕で止められると思うよ。これまでにも数々の実績を残しているんだから)
とは言えず。
「佐伯くんなら大丈夫だよ」
俺は佐伯くんの肩に手を置きながら返答した。
それから佐伯くんの「そろそろ行くよ」の一言で二人の話は中断され、改めて俺たちは花火会場の場所へと向かった。
雑誌で幻の妹と言われている不良美少女を助けたら、その正体は真面目な同級生でした。 夕霧蒼 @TTasuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。雑誌で幻の妹と言われている不良美少女を助けたら、その正体は真面目な同級生でした。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます