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さざめく羽音が風に乗る。
まるで甲冑武者のような外見とそれに見合わない虫の脚を束ねたような奇形の鞭。
黒色の蟲が浅草の地へと舞い降りる。
「貴様は」
甲冑の中から低い声が響く。
腹の内から何かが蠢くのが分かるぐらいの気味の悪い声が。
「『俺は太陽神イグニス・イフリトゥス・エン・カラミティ』」
少女の中の太陽神は即答する。
「イグニス……知らぬ神の名である」
蟲神の反応に、太陽神は肩を落とす。
「『まぁ、いい。一星からも言われたように俺の名前はとっくのとうに忘れ去られてるからな』」
そう言って、太陽神は【蟲神】の方に視線を向ける。
「我は【蟲神】ベルセファブル。神の名を騙る雌畜生が神である我に対して不遜な態度をとるか」
蟲神は分かりやすく声に苛立ちを混ぜている。
それでも、イグニスは変わらぬ態度を取った。
「『して、蟲神よ。お前はこの地で何を
自称太陽神は、問う。
その視線は、鋭く冷たい。
「我は蟲神の称をもって、この星を征服する。それ以外に野望があると思うか」
蟲神の返答に、イグニスは大きく天を仰ぐ。
「『なるほど……星の頂点に立ち、人を扱き下ろすが野望か』」
一瞬だけ。
何かを考えて、再び蟲神を睨め付ける。
「『ならば、お前は此処で灰と散れ』」
炎が、飛ぶ。
蟲神の黒い鎧に袈裟状に炎が奔る。
周囲に飛び散る黒い粒子。
「ぐ……う!?」
突然の攻撃に仰反る蟲神。
「『なるほど、虫一体一体が寄り集まっているだけか。所詮は見栄の為の巨体。全くもって醜いなぁ!!』」
反撃を繰り出そうと、蟲神は手に持った鞭を振り下ろす。
「『制限解除、
蟲神の胴体が焼け、穴が開く。
その様相を見て、カカカと嘲笑うイグニス。
「きっさまぁ……!!もしや我の眷属を屠った……!!?」
「『アレは俺とは違う存在だ。形も力も何もかもが違う』」
「ならば……お前は一体……?!」
「『言っただろう。太陽神だと』」
両手を合わせて、蟲神を見つめるイグニス。
「『
詠唱の直後、九つの炎が少女の背後に浮かぶ。
以前、雷狼と戦った時に発動した九つの炎技。
イグニスの展開した
「『
背後に浮かぶ九つの炎が一斉に駆け抜ける。
蟲神は襲いくる九つの火球を迎撃する。
「制限解除、
詠唱により蟲神から飛び出した巨大な蟲の大群が炎を喰らう。
九つの炎は蟲の大群が圧縮していた。
しかし、
「『クカカカカ……飛んで火に入る夏の虫……ってか!!面白いなお前!!』」
イグニスは腕を前に差し出し、拳を握る。
圧縮された炎が膨らみ、炎が爆ぜる。
花火のように、蟲の焼け骸が青空に散っていく。
「くぅ……!!神たる我を凌駕するとは……貴様!!」
「『だから言ったろ。俺は太陽の神だと』」
「ぐぅ……!!舐めるなァ!!」
苦悶を示す蟲神ベルセファブル。
対して、余裕綽々の表情であるイグニス。
「『どれだけ古くあろうと、太陽を冠する神がお前に負ける訳がないんだよ』」
そう言って、イグニスは掌印を結ぶ。
「『
現在、イグニスには自身の蓄積している魔力を底上げする聖域、
つまり——これからイグニスが発動する技には余分すぎると言えるほどの火力が積まれている。
ただでさえ太陽神に圧倒されている蟲神に120……いや、200パーセントの威力をぶつける。
あまりにも
傲慢極まりない愚神を罰する為に、太陽神は放つ。
「『
空気が弾ける。火花が青空の中で咲き誇る。
爆炎が絶えず連鎖しながら、蟲神を喰らう。
それはさながら炎で出来た大蛇。
燃え盛る紅蓮の顎が蟲神の黒い鎧を噛み砕く。
ただの蟲の大群でしかない黒い神は、燃え移ったところから灰となって空に散っていく。
「そんな……!!我は……蟲神ベルゼファブルぞ!!」
「『誰もお前のことなんか知ったこっちゃねえんだよ。俺もだけどな。名前なんてのはただの記号だ。どんなに偉大であろうと覚えてくれる人間がいなけりゃ、俺達は永遠に弱いまま……それが神だからな』」
「ああ、ああ……!!イグ、ニ……ス…………」
蟲神は隅々まで燃え尽き、やがて空の中に消えた。
「『俺達は、そういう世界にいるんだよ』」
イグニスはそう呟いて、隅田川を後にした。
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真夏のラグナロク 恥目司 @hajimetsukasa
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