第三勢力

 突如、吉崎大の前に現れた男女の2人。

その背後には明らかに過剰とも思われる迷彩服の武装兵たちが立っている。

 

 20式小銃を抱えた自衛隊員、おそらく連隊規模の勢力が、たった一体の化け物を制圧する為だけに集まっている。


 その前に立つ男女は別に自衛隊の人間ではない。

 国家権力ではあるが、国を守る為に立っているのではない。


 鋼姫の名を冠する今日葉きょうばナナ。

 方舟の名を冠する作並さくなみヘイゾウ。


 それぞれのコードネームを有するURES'sユーリスから派遣された二人。


 神を殺す為に、彼らはいる。


『urrrrrrrrrrrrr……』

 警戒する獣の王。

 王には、目の前の2体の人間が【蟲神】の眷属達よりも、遥かに強く見えていた。


 先制を仕掛けたのは《鋼姫》、今日葉ナナ。

召集コール、鎧核兵」

 その言葉と共に飛来してくる物体。


『“ランチャーD4”……出陣』

 遥か上空から落ちてくる黒い流星。


 ドゴン!!

 地面を抉り抜いて着地してきたのは厳めしいフォルムをした人型装甲機。


 ランチャーD4。


 隙を与えまいと、獣の王は素早く前傾姿勢をとって駆け出す。


起動セット黒の帝王シュバルツ・カイゼル】」

 詠唱と共にランチャーD4は16個のパーツに分離し、彼女の周囲に浮かび上がる。


 おそらく、装備して戦うのだろう。

 勘づいた獣の王は両の腕から凶々しい尖爪を生やし、襲いかかる。


 だが、

匣船アイギス、帆」

 男の呪文によって、王の攻撃が阻まれる。

『aaaaaaaaa………???』

 あり得ない状況に獣の王は困惑の色を見せる。


合装アーマードシーケンス開始」 

 静かに呟きながら、纏われていく黒い装甲が獣の王の攻撃を受け止める。


 【黒の帝王シュバルツ・カイゼル】の召喚及び合着は、通常の装置内で実施するよりも雑になり、肉体にダメージが与えられる事になるのだが、


 だがナナは同時にを発動している為、その痛みを打ち消している。


 兜状の頭部の装着を最後に、黒鉄を纏う帝王が獣の王の前に顕現した。

「速攻でお前を潰す!!」


 黒の帝王シュバルツ・カイゼルの胸部から近未来的なデザインの大砲が現れ、赤色の魔法陣が展開される。


「擬似魔法陣展開。選択属性・“炎”」

 赤光が胸部の砲塔に最大限まで溜め込まれていく。


「エネルギー装填150……200%。照準修正終了」

 砲身の中でに赫く輝く閃光は夜の森を照らす。

高出力焼夷光線Hi-oir“灼厄”、展開」

 その前に幾多にも展開される赤色の魔法陣が重なっていく。


 まずい。

 獣の王はそう思いながらも、回避できないままでいた。


 王の足に鎖が巻きついていたのだ。

 その布を視線で辿ると男が魔法陣から展開していた。

匣船アイギス、鎖錨」

 解けない。壊さない。

 足元に気を取られているうちに


「【焼却術式・帝王砲カイゼル・カノン】、撃ち方、始め!!!!」


 空気が焼ける。

 同時に砲身内の光が膨張し、赤い閃光が北千住の街に奔った。


「アレが、ユーリス……」

「昨日今日で出来たばっかの新鋭部隊が即実戦投入だとは聞いてるが……」

「とんでもないヤツらだ」

「でも、あの獣の王ってのも一筋縄の敵じゃないんだろ?」

「新宿で暴れてた怪物……」

「悍ましい靄だ」

 背後の自衛隊員は口々に見たままの状況を伝え合っている。


 それが幻想だと思う者、現実だという事を拒もうとする者、現実だと受け入れる者と様々だった。

 

 壁を形成してはいるものの目の前のあり得ない状況に統率は今でも崩れそうなほど。

 しかし、ユーリスの2人が大隊規模の人数を従えて現れたのは、別に最悪の想定を考えているからという訳ではない。


 その理由は、獣の王の動きにあった。

 

 瓦礫から飛び出す獣の王。

 しかし黒い靄は弱まっており、吉崎の肌がところどころ露出している。

「aa……aaaa……」

 

「【帝王砲】を使っても尚、立っていられるとは、さすが原初の獣というべきか」

 鎧姿のナナは警戒心を強めている。

「観測はたったの二回。それも一度は調査資料でしか分からないモノをここまでいける方が凄いさ」

 鎖を腕に掴んだままのヘイゾウが横に並ぶ。


「アイツは、敵対する存在に対して強い殺害衝動を持って身体能力を上昇させる。だが、器である吉崎大はそれに追いついていない。今のアイツはオーバーフローしている」

「中の高校生は、もう肉体がボロボロって事か」

「出来れば、そうなる前に助けたかったが……」

 2人は獣の王のいる方向を見て、身構える。

 

「urrrrrrrrrrrrrrrrrr…………」

 獣の王が瓦礫の上で最大限まで脚を縮めていた。

 瓦礫を掴んで、身体を屈ませている。


 靄の再生があまりにも遅い。

 獣の王は、焦りを覚えていた。

 自分のダメージだけでなく器の吉崎との癒着が剥がれ始め、明らかに力が弱くなっている。

 終末世界外典は当然使えない。

 獣の力も、微力。


 ならば、自滅してでも人間の群れを喰らえばいい。


 その上でのクラウチングスタートだった。

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