第79話 離れにて
窓から差し込む月明かり。薄暗い部屋の中、ベッドの上で力なく項垂れた少年が一人。桂華本家の長男である桂華
「痛ッ……」
視界が霞む。右目は正常だが、しかし左目はもう殆ど見えていない。視力に極端な差がある所為か、じっとしているだけで気分が悪い。いっそこれが生来のものであったなら、或いは慣れていたかもしれないのに。
彼の左目が使い物にならなくなったのは、つい最近の事だった。原因など分かりきっている。
稀有といっても、強力な
人間には視認できず、未だ誰も真実に辿り着いてはいない現象。
境界が歪む。つまりそれは『境界振』が生まれるということに他ならない。『境界針』の開発で漸く人類が観測出来るようになったそれを、
彼が自らの
そうしていつものように訓練を終えた時、桂華家の敷地内で境界振が発生した。
簡単に言えば、討ち洩らしがあったのだ。そしてその洩れた一体は、訓練を終えたばかりの
相手はただのE
しかし終わりはこなかった。彼の眼前にはもう一体の
その後も似たような出来事が何度か起きた。それも決まって、
何故こんな
そのまま隠し通していられたなら、どれだけ良かっただろうか。当時のことを思い出す度、
「クソっ……痛ったいなぁ……」
左目の奥底から、まるで脳内を殴りつけるかのような鈍痛に苛まれる。
そんな痛みに耐える
「
「はは、ありがとう
「お労しい。この家に仕える身で、こんな事を言うべきではないと分かっておりますが……現当主様は歪んでいます」
「おっと、それは聞かれたらクビじゃ済まないなぁ」
「どっちにしろ……次はもう従うつもりはないから」
湊の言葉がなくとも、
鬱屈した環境の中にあって、しかし
しかしそれもこれまでだ。これ以上、我が身可愛さで他人を傷つけることが許容できない。これまでに犯した罪は消えないが、だからといって開き直ることは出来ない。
「というよりも、俺に出来ることなんて他にないんだけどね」
もしも自分に、戦闘系の
「もういっそ、誰かこの家をぶっ壊してくれないかな」
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