第78話 権謀
「大口を叩いていた割に、随分と攻め込まれているようだが?」
機嫌が悪そうな顔でそう言ったのは、天枷家先代当主の
「あちらとこちらでは、そもそもの勝利条件が違いますからねぇ」
そう言ってヘラヘラと笑ってみせる
「あちらの目的は貴方の殺害、或いは捕縛。表向きは捜索といった体ですが……ま、既に色々とバレてますからね。で、それに対する我々の勝利条件ですが───」
広間の中、芝居がかった大袈裟な身振りでそう講釈を垂れる
「ま、心配せずともちゃんと手は打ってありますよ。あと数日もすれば、天枷の内部で面白いことが起こります。我々はそれを待つだけでいい」
「ここに敵を留めておけば勝てる、と?」
「そういうことです。予想通り、天枷神楽もここに来ているようですしね。我々はそれまで貴方を守るだけ。バレていようと何だろうと、天枷家の先代当主は『ここに居ない』。それで全ての片がつきます」
桂華
「唯一の懸念は『例の彼女』ですが……監視の話では、彼女はまだ本邸から動いていないご様子で。こちらも戦力は温存していますし、やって来たとしても数日は持ち堪えられます。むしろ、さっさと本邸から離れて欲しいくらいですよ」
そう言って再びヘラヘラと笑って見せる
むしろ彼にとっては、本邸に居座られている方が都合が悪い。正面では敵を翻弄しつつ、その隙に別の手段で本命を取る。それが
だが、その本命にいつまでも化け物が張り付いていたのでは動くに動けない。故に自分と、天枷榊という餌をつかってここまで誘き出す。『七色』といっても所詮人の子、桂華の全戦力を相手に戦える訳では無い。相応の戦力を割かねばならないのは事実だか、しかしどうにか止められないこともない。
あとは事前に要しておいた策が成れば、それでこの戦いは終わる。
「儂の手勢も使って、その上でそこまで自信満々に言ったのだ。万が一にも負けは許されんぞ」
「ええ、お任せあれ」
(こんな小物のジジイを、一時とは謂え匿わなければならないのは業腹ですが……それで天枷を潰せるのなら安いものでしょう)
この戦いに勝利し、天枷の残党を余さず取り込むことが出来たなら。それを成した桂華家こそが、『五家』の中で最も大きな発言力を持つことになる。既に目と鼻まで来ているそんな未来を想像し、
彼はまだ、自らの認識が誤っていることに気づいていなかった。
彼はまだ、『災禍』という称号が持つ意味を理解出来ていなかった。
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