第57話 舞台の裏側

 会場は歓声に包まれていた。

 割れんばかりの歓喜の声と、あと一歩で優勝というところで鬼札に阻まれた、悔しさと悲嘆の声。

 しかし最も大きかったのは、やはり彼女についての声だった。


「HAHAHA!!なんデスかアレは!意味がわかりまセーン!!」


「お前、自分の国が負けたんだぞ?少しは悔しくないのか?」


 すっかり禊の指定席と化した関係者用の観客席、その最後列に忍び込んだソフィアとエリカが、先程の試合の感想を述べていた。

 社はパラソルの設営を終えた後、バズーカのようなカメラを携えて最前列へと繰り出している。


「そんなことどうでもいいデス!それよりも、ソフィアは今のがわかりましたか?私はさっぱりデース!」


「いや、私にも理解らないが・・・」


「それに最初に見せたあの攻撃。あれが彼女の感応力リアクトデスね!威力は抑えていたようですが・・・どっちにしても意味が分かりまセーン!」


「楽しそうだな・・・お前は一応、彼女を調べに来たのではなかったか?どう報告する気だ?」


「分かりまセーン!と答えておきマス!ありのままを伝えるしかないデス!」


 ついにエリカの念願叶い、禊の戦う姿を見る事が出来た。

 学生同士の競技会ということもあり、実力などまるで発揮してはいないだろう。それでも、その片鱗を垣間見ることくらいは出来た。エリカの無駄に高くなったテンションは、それが原因だ。アメリカの敗北などまるで気にした風でもない彼女の様子に、殆ど保護者となったソフィアは呆れる他なかった。


「しかし・・・あのモニカが赤子どころか、まるで歯牙にもかけてもらえていなかったぞ。最後のほうなど、戦いにすらなっていなかった。何をしたのかは、聞けば答えてもらえるだろうか」


「どうでショウ。それよりも、結局感応力リアクトを使ったのは初撃だけでしたネ。まぁ味方を巻き込まないように、なのでしょうガ・・・もう少し見たかったデース」


「そこはお前も見習うべきだな」


「HAHAHA!!」


 もはや声を抑えるつもりもなさそうなエリカであったが、二人の声は狂喜乱舞する観客たちの歓声にかき消され、彼女達の存在に気づく者は居なかった。

 この後は、一日の休養日をおいて明後日に閉会式となる。一般の観客達が敷地内に入場出来るのは今日までであり、明日以降は選手達のみが滞在することになる。

 その間に禊を捕まえるチャンスもあるだろう。その時に直接問い質してみよう。そう考えたソフィアは、一先ずは試合中の謎の現象のことを忘れることにした。




 * * *




 時を同じくして、VIP用観戦ルーム。

 そこでは天枷神楽と、メイドの天枷久奈妓あまかせくなぎが神妙な面持ちで言葉を交していた。


「神楽様」


「・・・動いたかしら?」


「はい」


「・・・そう。それなら予定通りに動いて頂戴。念の為『闇御津羽くらみつは』の手配を。それからアメリカにも、一応忠告だけはしておきましょうか。もしかすると『玩具箱パンドラ』が必要になるかもしれないわ」


「・・・神楽様、本当にあり得るのでしょうか」


「どちらとも言えないわね。私もそんな感応力リアクトは聞いたことがないし、現時点では備えておくことしか出来ないわ。禊さんもいることだし、何とでもなるとは思うけれど・・・」


 神楽の言葉に、久奈妓くなぎが眉根を寄せる。


「保険、ということですね。畏まりました」


 そういって部屋を後にする久奈妓くなぎ

 部屋に一人残された神楽が、誰に言うでもなく言葉を漏らした。


「ふふ。想定よりも随分動くのが早かったけれど、もしかすると焦っているのかしら?浅はかなこと・・・お望み通り、尻尾を掴んで差し上げましょう」


 普段は目尻を下げ、どちらかといえばおっとりとした印象を受ける神楽だが、この時の彼女は、まるで獲物を狙う猛禽のような鋭い眼をしていた。


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