第3話
みなさん。こんにちは。15歳女子。シオリです。
あれからわたしは「親戚」の家に母と引っ越して、転校もし、いたずらにあわずに済むようになりました。
といっても中学3年生。ただ、教室の隅で本でも読めればと思ったのですが、席は教壇の前、ど真ん中。おまけに学級委員長で眼鏡をかけていて黒髪おさげ。というよりポニーテールは禁止されています。なぜなら卑猥だかららしいです。いや、おさげはなに、じゃあ、上品なの?下品とか上品とか。とにかく品で今回の学校は表されている。ちなみに女子しかいません。恋愛も女子同士でエスの関係とやらであるそうです。まあ。赤ん坊の頃からの異世界の記憶のある私には分かりませんけどね。何がいいたいか。
ひとつ。
わたしは異世界で生まれました。
ふたつ。
12歳で異世界へ旅立ちます。しかも、いつも話す神社のメガネのお兄さん、その正体は実父と共に。
みっつ。
15歳で帰ってきましたが、すでに向こうで勉強はさわりだけ済ませたので、習ったところを再復習。まあまあの成績。しかし、父はこちらへ来ることは叶いませんでした。
「おまえはいっしょうもどれない」
実は、わたしの一族の誰かが過去に旧異世界で蛇の魔物を知恵を持って、すこし卑劣に倒したそうなのです。仕方ない。
そして、わたしたち親子も蛇と対峙することとなります。女の姿をした上半身と、蛇腹の下半身で両手に大剣を持ち、その異世界で極悪非道をしていたのですが。
父は言いました。
「蛇には蛇を。供養なら任せて。ここは帰りなさい。さようなら。シオリ」
そういって、頭から飲み込まれようとしている父を見てわたしは叫びました。
ちがう!!
これは試練だ。なら、打倒しなくてはいけない!
しかし、大剣2本を振り回すメデューサじみた、エキドナという紅色の悪を倒すには。母を召喚することにしました。
なんと、その世界では任意の場所に任意の人間を相手の受諾さえあれば召喚可能、というなんの時に役立つんだかわからない魔法があったのです。
ひさびさの魔法の感触を得た母。
行方不明になっていたわたしと父を見て涙ぐみ。
エキドナを指差して
「本来なら最後の言葉を聞いてきたけれど、全力で砕くわ。目を瞑ってなさい。頭、腕、腹、尾に至るまで全力で射貫くわ。数年分!」
わたしは、蛇の尾っぽあたりから隠れて見ていたのですが凄まじいものでした。爆散はなかなかのアクション映画の見どころだと、心に留めました。
そして。
蛇女の尾から、美しいサーベルを発見し、両親が悲しい顔で言います。
そのサーベルで、父を刺しなさい。
「なんですって」
わたしは親殺しを命じられました。ノロイ。呪いというものが消えないと言うのです。かつて争った蛇とは別種であり、呪いも古のもので、どこかで誰かが蛇に由来したものでその路を断たねば呪いは永遠に続くと。
続けば身体中を蛇の痣が覆い、いつしか命を締め上げる。
ならば、と。わたしは。旧異世界でのわたしの今まで披露する機会があまりなかった『反転』を起動する、と両親に告げました。魔法に溢れたこの世界なら、『反転』は有効のはず。どこでそれに気づいたか。
生まれた異世界から、ニホンの異世界、そして、3度目の魔力の濃い異世界では父には体質、性質変化で届かなくなった、神々の天啓が私にもあったのです。
〈なんじ、反転の能力あり〉
赤ん坊の頃からの記憶をおぼろげにちゃっかり持っていた私は。それを黙っていました。
反転、といっても。鳥が卵に帰るとか、紙が繊維の草に巻き戻るとかではないのです。魂やそれこそ呪いの本質が反転する。
つまり、父とわたしの呪いは早くに治せたし、回数制限は3回。ただし、失敗も視野に入れなくてはいけません。まずは、父は私自身の呪いを反転させよ、と父親らしく命じました。能力の使用により、逆に蛇の力は内から外へ向き、蛇の加護へ転じる。
やってみせました。ふたりとも魂から心配していました。次に、私は黙って父に『反転』をします。父も蛇の加護を受けます。最後の1回。
〈それは次の世界で取っておきなさい〉
純白の衣装に、邪悪な化粧の、妖しいモノが、エキドナの住処。洞窟に不釣り合いにも現れます。父と母が私を庇います。
「どうして貴女がここにいらっしゃるの?魔女」
「何度倒しても蘇生するよ、そういう加護と制約をもう結んでる」
両親が訳のわからないことを言います。
赤ん坊のころの記憶があるわたしにもわかりました。
「わたしをころそうとした女神のような、魔女」
〈いい子ね、ちゃあんと、教えた通りに覚えてた。でもちがう、あんまり、小さいから、愛そうとしたら、そのふたり、不老不死に近づいてまで、貴女を守るのよ?拷問よね、だから一家ごと滅ぼそうとしたのに。錬金術師もやるものね。抵抗するのに火水風土空、さらには金まで使ってくるんだもの〉
(?)
〈お腹にいる時から、貴女のお母さんとお父さんと仲良くして、狙っていたの。魔物たちが暴れ出した時には真っ先に〝取りに〟行ったのに。まさか異なる世界へ、それも魔の力のない場所へ行くなんて、思っていたけれど、向こうも物騒ね、呪いやウラミ、ネタミ、ソネミがあるんだって知って。引き寄せやすい場所で貴女とお父さんを呼んでたわ〉
助けてあげる、と魔女は言う。
〈私の娘になったら、両親、元の世界に返してあげる〉
両親が聞くな、という。
〈でも、そのサーベルでちょっとでも私を傷つけようなんて考えるなら、何か一つを永遠に失う〉
何を言うのだろう。
〈それをされたらたまったもんじゃないわ、反転はともかく、私が嫌うのは反抗。反転されても私は良い女神に戻るだけ。でも、この世界、召喚の世界では一度でも魔法を完結させれば次はない。化け物退治。呪いの解除。さあ、まだ魔法を使っていないのは?〉
話を聞く気はない。ただ。先ほどから母が動揺している。力の一矢が、打てないのだ。父は、戦慄していた。なぜかわからない。
〈ねえ、ぱぱ〉
女神のような魔女が敵意も殺意もなしに近づいて言う。
〈そうよ、あなたは、ふたりを異世界へ渡す役目。見届けないとね〉
するりと、滑車でもついているような動きでわたしたちから離れる魔女。
〈丸薬は持ってきた?それも使えるわ。でもね。それに使われているモノ、私、大嫌い!〉
そうして、わたしたちは。
3年を共にその世界で過ごし、そこは魔法も存在するけれど、数々の異世界を学べる異世界図書館のような大学や転移門、窓が乱立していて。異世界から強引に連れてこられたわたしたちはレントゲンやバリウムやら、なんだか医療に沿ってもいながら、好奇心から色々なことを聞かれ。最適な時代と身分を用意できるけれど。どんなにカードを配っても、お父さんのチケットだけ消えるみたいな、コードを入力してバックアップとっても、次にはべつの機器に変えられたり、記録媒体ごとどこかに絶対的に展示されてしまったみたいになってしまう。
と、訳のわからないことをいわれた。
一緒に帰れなかった。
預言者が言う。その魔法を使ったが最後。おまえはもう、もどれない。永遠に家族の元へは帰れない。
ずっとその世界にはいられなかった。なぜなら、生身だからだ。そして人間だからだ。その異世界のものたちは宇宙人に近く、わたしたちには毒のような空気が当たるので宇宙服のような装備が必須だった。エキドナの住処は、また別の神秘の濃さで体に害がなかったらしい。
おとうさん、父。神社のメガネのお兄さんは、さようなら、シオリ。好きな世界に行っておいで。母さんをよろしくね。と、まだ、父親という人に対しての気持ちも湧かぬまま、お別れとなった。隣で母は諦観めいた瞳で、哀しそうに夫を目に焼き付ける。
15歳。女子。
読神栞は、そうして、また、2番目にいた世界に戻ってきた。そのほうが、向こうのお父さんが異世界を移す鏡でわたしたちを見やすいと思ったから。
いつの日か、わたしは父に会いに行く。
残りの1回。『反転』を使って。父と私を入れ替えて、そこですれ違うのだ。
そうすれば父も母も、夫婦での再会が叶う。
そして、わたしは魔女の子になる。
そういうことも、できるのだ。
そんなことを考えている時点で。
私はもう戻れない。
いつの時代でも 明鏡止水 @miuraharuma30
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
「天国」はわからない/明鏡止水
★6 エッセイ・ノンフィクション 連載中 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます