第2話

「お兄さんは神主さんなの?」

「ちがうよ。でも、神主なってみようか?なり方わからないけれど。大変だろうなあ」

栞の言葉に、栞より多くの言葉を返してくれる。

腕をそっと組み、それぞれ両袖のなかへ手をしまってくつろいでいるような。軽い印象。しかし軽薄ではない。

「栞ちゃん。きょうもいたずらにあったね」

「はやく家に帰って着替えなくちゃ、それでは、しつれいします」

一礼し、ランドセルのなかで教科書が鳴る。

「さようなら、栞ちゃん」

栞という少女はリコーダーの入った布袋を誇らしげに持って帰路に着く。

神社の神職の装いをしたお兄さんは、どこからかメガネを、取り出して少女を見る。

いつか気づいてしまうかも。自分が少女の父親で。とある寿命が自分にはあるのだと。それはいい。ただ、娘の母にあたる女にはお腹の子と自分の寿命は同じものだからべつの世界でなんとかしたい。異なった世界でこの世界の天啓を受けた一家は神も仏も無い世界から意識と体、周囲への欺きを家宝の仙薬を使って成した。やり方は3人でその薬を飲むだけ。しかし、仙薬で都合よく時を渡った父には神力が宿り。それをこの渡った世界の者に見込まれて神社へ身を寄せることになった。母はその近くのみすぼらしい集合アパートで少女と安全性の甘さに常に防御仙術を展開しながら自身たちを守っていた。母の場合は世界から世界を仙薬の力で渡ったがゆえに獲得された術で、自分達の近くにいる者の目的を察知したり、触れずにわずか、跳ね除けたりできる。小さい頃の栞がつかまり立ちで机の角に頭やあごをぶつけそうになった時は軽く発生させてこちら側に倒し、衝突を回避してキャッチしていた。全力でもこの程度なので、目眩しみたいなものだ。

さて。この時代ではなんでもどこでも男の子は蛇をびたんびたん叩きつけて振り回し、なんとも露骨なみそっかすの子がおり仲間に入れてもらえない、もう少しすると教科書も靴も机も被害に遭う時代が来るのか。

夜。

電話で父と母は話し合う。この世界ではないゆったりとしたパ行の多いような、全然違う和歌をゆったり読むような。妨害仙術でふたりはアジアのどこか、あるいは沖縄からきた家族ということにしていた。

「見ていられないよ。ぼくにはわかる。僕なら監督する人間に言うけれどあの子は静かすぎて言わないんだ」

「服がびしょ濡れの時があるのはそういうことね。月に1度あるか無いかだけど。洗濯する前に服が全部濡れてておかしいと思うことが2回あったわ。この世界から帰りたい」

「僕だけ残ろう。でも、ノロイといやつかな。身体中に蛇のうろこの痣がとぐろを巻くように現れたよ。締め殺されそうだ。痛みはないけれど」

「あの子にもよ。ねえ。医者はなんて言ったとおもう?原因は分かりません、ですって」

不思議な言語のように感じる言語仙術。直接会って話したいが。

「これは遺伝なのかな、かなしい、かなしいのは本来嬉しいものであって欲しかったのに、まったく別になってしまっていることだ」

父が受話器を片手に頭を抱える。

母が言う。

「あの仙薬はこちらでは激毒だから、使えないのよね。どうして異なる世界で役目や体質や性質が変わってしまうの?」

同じく受話器を片手に母は己の片手の手のひらを見る。彼女は凄腕のハンターだったのだ。防御仙術は新しく獲得されたが、この世界で念噴射、狙撃は使えない。異世界では念の力で獲物を射抜き、夫はそれを解体して丸薬を作っていた。魔法界自慢の夫婦だったが、多くのものを倒して平和になった後。『反動』がきた。一斉に隠れていた獲物、魔物と呼ばれるゴブリンや狼男、魔女の使い魔が襲ってきた。

「ゲームだとポップだとか言うのかな。リポップかな。前(さき)のことは見えづらい」

と父。

一家は逃げられず。ヒトの身体まで使ったとされる丸薬を夫婦は飲み込み、娘のシオリにはすり潰して母乳やヤギのミルク、簡易ミルクでなんとか嫌がるのをスプーン一杯ほど飲ました。そんな世界だった。あとは死を覚悟した錬金術師が気休めに異世界へと渡るための古くも覚えやすい呪文で支援してくれ、やっと3人はトベタ。

「この世界で生きるしかないけれど、神通力とか千里眼とか、シオリは違う。元の世界か、この世界の未来か過去、異なる世界へ渡れる。そういう姿があの子に重なるんだ」

「何歳で、旅立たせましょう。12はどう?寂しいけれど、早いほうがいい気もするの。次に対応して本来のよく笑う赤ん坊だったあの子が、私には本物な気がするの」

「本来も本当も、なにもわからないけれど、今日はもう時間だ。土日こっそり会って話しても、何も進展はないけれど、そういえば、きょうはうっかりメガネなしで会ってしまったよ」

「まあ、親子だとわかったら大騒ぎよ。夫は早くに亡くしたからと今の住処にたどり着いたし、貴方も僧侶のようなものじゃない?違うのかしら?」

「どうだろう、神に仕える者でも結婚しているようだよ、多分」なんせ、こっちには仏像、なんてものもあるらしい。ああ。それなら学校の校外学習で。


なんて言う具合にシオリの両親と運命はどこへ行くのやら。

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