いつの時代でも

明鏡止水

第1話

そおーれ!!!


読神栞(よみがみしおり)は気づいていなかった。

なぜなら他の者が使うよりずっと離れた、職員室に近い、校庭からも近い、掘建小屋のような便所を選んだからだ。惨事はまた起こる。


便所の個室でパンツを下ろして用を足していたら、割と高いはずの個室のドアと天井の隙間から汚いバケツに汲まれた、なみなみといれられた清潔なはずの。

しかし、そのバケツに汲まれた時点で汚く感じるような水道水がざばあっと。わたしという汚物を洗うように、あるいは汚物とともに汚物を固めて作品を作り、作り直すように。流し溶いて汚いパレットを洗うように。和式の個室便所で。ただ。わたしだけが汚物。汚物。

誰も見てはいけない。見てはいない。しかし、和式便所の便器のなか。汲み取り式のそこに。誰かが放り込んだドッヂボールだけが、怪談の一つとして、和式便所で。

おまえのすがたをみているぞ、とさんざんこのトイレを使う子供を見てきたはずだ。

わたしは、仲は悪くないが、しかしそれゆえに接点のない数人からいたずらを受けていた。

今日も身体中びしょぬれで帰るが、家は5分で着いてしまうため、ただただ、いたずらはあまり露見せず洗濯機に濡れた児童服が放り込まれるだけ。わたしは小学生にして漢字検定でそこそこの実力を示している。他にも数学検定というものがあるらしい。英語の検定は中学生になったらやろう。武器を増やしているわけじゃない、ただ、学ぶ時間が多いから好きなものから学んでいるだけだ。露見の露の字が書ける小学4年生。10歳を、果たして世間は褒めてくれるだろうか?帰り道の神社で泣いたり、泣かなかったり、イチャイチャしているアベックというのがいたら逃げて、今日もなにも考えず帰ろう。

幸い、和式のまたがる形の便所なので、パンツはぬれなかった。さて。帰ろう。渋い牛革の赤いランドセルがじぶんはかわいてますよ、とはげましてくれる。うわばきはすこし無事だった。そして、教室から、一階下駄箱へ。そこで、いちばんゆるせないことがあったのだ。

靴がなかった。くつ、革が化けると書いて靴。

どんなにこの世のことをいっしょうけんめい、いっしょうけんめいな気持ちで学んでも、静かでみんなに何もしゃべらないわたしは、くつをさがす。そんな帰りの会の後の用足しの。こんなじかんとすべて。すべてひらがなになったら、一年生になってしまう。でも、もうこころは一年生だ。まさかと思ったけれど、砂だらけのべったりぬれた靴下で学校内を周り、なぜか習慣でうわばきは下駄箱へ収納して歩き回ったのだ。なんの気持ちもわかずにさがし、焼却炉のふたの上に、くつはきれいに並べてあった。わたしはさびた煙突と焼却炉を見て。なにか感じようとしてなにも感じなかった。はやく帰って中学校で習う漢字を練習しよう。xやyはローマ字なのはわかるし、単語も覚えられるけれど、その先に数学が待っている。いまは算数を習う、びしょびしょの。小学生4年。神社の前を通って、5分で家へ帰る、そんな子供でいるんだ。子どもって書く時と子供って書く時。なにがちがうの?接点、汚物、という漢字は、本と、神社のメガネのお兄さんに教えてもらった。

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