第26話 島流し ⑦


 まるで宙に浮いているのではないかと疑う程の空中戦を繰り広げているなか、政岡の後ろから声が聞こえる。


「政岡! 大丈夫かい?」


 サキヨミが政岡に向かって走っている。戦いの現場とは逆方向から向かって安否を確かめに来た彼女に、政岡は内心喜んだ。

 

「見てくれ! 腕輪が完成したんだ! 丁度そこに大きな的があるから付けてみてほしい!」


「……」


 目の下に隈が出来ているツクヨミ。徹夜明けのハイテンションで正気を失っているようだ。


 政岡に了承を得ることなく、腕輪を着けるツクヨミ。後は石を嵌めたら起動する段階で無理やり政岡の腕を真っ直ぐドラゴンに向けさせた。


「え? 待って? 本当に言ってる?」


「これ程のタイミングなんてそうそう無いんだ! 善は急げ、石を嵌めたら3秒後に起動する!」

 

 嵌まった。何の心の準備もしていない政岡は今から何が起こるか、何をすればいいかなんて露ほども考えていない。


 ダムが決壊した。そう思うくらいの水量、人どころか建物も水没出来る程の水が政岡の腕周りから放出される。勢いよく出された水はドラゴンの体を飲み込んでいく。辺りを川にしながら。


「これが1000倍の力! 凄い勢いだ! ドラゴンが身動きできなくなっている! なぁ、政岡……政岡?」


 反動という言葉がある。仮に4秒につき1トンの水が放出されるホースがあったとして、それを1人で支えれるものなのか、答えは出来ない。政岡は起動すると同時に後ろに飛ばされ、現在壁にめり込んでいた。身動きなんて出来るわけもない。


 そんな犠牲の甲斐もあり、ドラゴンに奇跡的に命中している。だが、必死の抵抗をみせたドラゴンは水をかいくぐり、空を飛んで逃げようとする。


「させるか、吹っ飛ぇぇぇ!」


 竹内は腕を全力でドラゴンに向けて振りかざし、岩を出してドラゴンにぶつけようとする、勢いよく出されたそれは、照準が甘く、ドラゴンの横をかすめてはるか彼方へ飛んでいった。


 流石竹内、そういう所は詰めが甘い。なんか安心した。声が出せない政岡は壁に埋もれながらすこし安堵する。


 水をドラゴンに向けたい政岡だが、あまりの勢いで腕を固定してしまい何も動けないまま。


「そこの君、どうにかしてドラゴンをあの水の所で叩き落とせないかい?」


「え? はい、解りました」


 女子に話しかけられて少しキョドリながらも返事する竹内は足に力を入れ、空高く飛んだ。狙いはドラゴンの頭上。両腕を天に向けると同時に岩が姿を表し、みるみるうちに大きくなる。


「落ちろぉ!」


 腕を振り下ろし岩は落下、そのままドラゴンの頭に直撃して諸共地面に落ちる。


 凄まじい衝撃で地面がへこみ、痛みで口を大きく開けるドラゴン。座標がズレたがダメージは与えることは出来た。その時、ドラゴンの口目掛けて大量の水が襲う。サキヨミが政岡の腕を強引に引っ張り向きを変えていた。


「痛い痛い痛いいたいイタイイタイ! 人を砲台みたいにしないで!」


「これでドラゴンを倒せたら兵器として使えるかもしれない!」


 人の痛みに眼中が無いサキヨミ。溺れるドラゴン、顔が歪む政岡。


 両者その場で留まる。一瞬その状況にたじろいだ竹内も今がチャンスだと気付き、もう一度ドラゴンの頭上めがけて高く飛び再び巨大な岩をドラゴンに落とす。


 トドメの一撃。直撃した瞬間今まで暴れていたドラゴンは体を大きくのけぞりパタリと口を地面につけた。


「やった……?」


 竹内、ドラゴンを凝視。現在も大量の水を打ち付けられているが静止している。


「凄まじい魔力量と出力だな……私より大きい岩を単独で出すなんて」


 独り言を呟くサキヨミ。魔法使い10人は居ないと出来ない芸当を目の当たりにしたことにより、関心が竹内に向けられている。


「君、凄いね。もし良かったら連絡先でも」


 所詮は魔力量目当ての関係。サキヨミの眼中は現在政岡から外れている。


「え? いや、あの、僕、なんかやっちゃいました?」


 鼻をポリポリとかきながら照れる竹内。


「どうだい? この後お茶でも」


「え? はい、よろこんで……あの、政岡大丈夫です?」


「政岡? あ……」


 3分経過。竹内とサキヨミのやり取りの最中、政岡は水を出し続けていた。壁にめり込みすぎて腕は動かせない。助けを呼ぼうにも声も出ない状況で時間切れ。政岡は泡を吹いて気絶していた。


 すぐさまサキヨミは政岡の腕輪を強引に剥がし医務室に運ばれた。


「……ん」


「やっと起きたね政岡。大丈夫かい?」


 丸1日寝ていた政岡。ことの顛末をベッドで横になりながら聞く政岡。どうやらドラゴンは倒せたらしい。その後すぐに政岡は気絶。その後施設の復旧作業を行っていたらしい。


「竹内は勇者なんだってね。道理で凄いわけだ」


「……勇者?」


 勇者、異世界転生の主人公みたいな扱いを受けている竹内、その対比に己の境遇をどうしても重ねる政岡。


「ドラゴンを倒した功績を貰えて、晴れて私達は釈放されるそうだよ」


「え、マジか?」


 突然降って湧いた僥倖。突然のことで喜びがまだ感じれない。ここであることに気づく政岡。おもむろに右手を見る政岡。


「勿論、外れているよ」


 何も着いていない指を見たと同時に体の力が抜ける。待ちに待った解放の時。2度と本を借りない決意を胸に秘める。


「元気そうだね、良かった。実はドラゴンの戦いに動揺していて君の事を見れていなかった事があってね。少し腕輪を外すのを遅れたんだ」


「魔力が無くなって気絶したって事です?」


「有り体に言うならそうだ」


 とても真面目な顔をしているサキヨミ。実は竹内に話しかけていた時の記憶を朧気ながら覚えている。追求したい所だが今は素直に喜ぼうと思う政岡。


 このまま大事をとってもう1日休む事になった。竹内は王族からの仕事で盗賊団を追っているそうで、大して会話もせず政岡が気絶している時に去っていた。


 現在船に乗っている政岡とサキヨミ。前回と違い今回は晴れやかな気持ちで揺られている。このままサキヨミと同じ空間で仕事が出来ることにフライングで想像をして笑みを溢す政岡。


「何だアイツ、独りで笑ってるぞ気色悪い」


 後ろからの声に振り返ると包帯に巻かれたスキンヘッドの男がコチラを見ている。囚人だと思っていたがどうやら連日の罵倒は看守からの言葉だった。今はとても寛大な気持ちでいる政岡、何よりもドラゴンの襲撃で怪我を負った男の言葉なんて何よりのエールだと政岡は内心笑う。


 そんなことをしている時に都市に到着した2人は港を出ようとした瞬間、目の前にスーツを着た男たちが政岡を取り囲む。


「ドラゴンを倒したのは貴方ですか?」


 端的な質問。ドラゴンを倒した功績で何かパーティでも誘われるのだろうかと昂ぶる政岡。ドヤ顔で頷く。


「なるほど。つまり貴方が岩を飛ばしたと言う事かね?」


「ん? 岩?」


「とぼけないで頂きたい。君が魔法で飛ばした岩だが、私達のカジノに直撃して半壊した」


「……ん?」


「幸い死傷者はいないがそれでも被害は甚大だ。損害賠償をするために事実確認をとっていた訳だ」


 政岡の顔に必要以上に近づくスーツの男。間違っても冗談で話していない雰囲気を目に宿している。


「当店までご案内させてもらう」


「チ、チガウ……オレジャナイ、オレジャナインダ……」


 首が千切れるほどに横に振る政岡。それとは対象的に顎を上に引く男。その瞬間取り巻きの男たちが政岡を拘束。有無を言わずに引きずられる政岡。


 助けを求める様にサキヨミを見つめる。まるで注射をされる前のチワワのような目で。


「……政岡にクソザコナメクジを」


 ニッコリと手を振るサキヨミ。今までで1番輝いた笑顔を見せている。


「シンジテル……ミステナイデ……」


 そのまま男達と共に姿を消した政岡。政岡の明日に待っているのは光、それとも闇か。政岡が望む未来は? 次回は殆ど見逃しちゃう、ね。


『次回予告』


 次回予告? そんなことよりもパチンコ打ちたい。はい。僕が政岡です。次回予告で外れたら直ぐに当たることが多いから僕は詫び当たりって言ってます。だからそのまま僕は打ちます。え? 結局打つって? それが僕、パチンカスという生き物なのさ。


 次回【日常】


 はーい。次回もパチンカスぅ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

何も強くない異世界転生〜無双なんて無かった〜 @sisomasa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る