鈍感ハーレム主人公から、ハーレムを奪ってみた

青猫

本編

……私は今、とんでもないことをしようとしている。

私の目の前には、美味しそうな匂いのするカップケーキが二つ。

そして、手には『お菓子を焼いたから食べに来てよ!』と送られたメッセージの画面。




……ごめん、お兄ちゃん。

私、北川深優は今日、人としての道を踏み外します……!




東道奏斗——奏斗お兄ちゃんは、一歳年上の、私の好きな人、である。

私の義理の兄、雄也お兄ちゃんの親友で、自称帰宅部の主将をしている。




そんな奏斗お兄ちゃんの周りには、たくさんの女性がいる。

雄也お兄ちゃんと、奏斗お兄ちゃんが時々家に来るときに一緒についてくる人たちは、皆すごく魅力的だ。


丁寧に手入れをしているのであろう長い黒髪がとても印象的な女性。


見た目はちょっとギャルっぽいけど、雄也お兄ちゃんたちと一緒にゲームで白熱しているオタクな人。


そして、そのギャルっぽい人の友達なのか、よく一緒に来て、近くで本を読みながら話に参加している女の子。


あと、すっごくイケメンなのに、奏斗お兄ちゃんと話す時には乙女って感じの女性。


みんな、奏斗お兄ちゃんの事が好きで好きでたまらないって顔をしている。




……雄也お兄ちゃんは、その、まぁ、いい出会いがありますようにと私は願っている。

雄也お兄ちゃんは、小さい頃から兄妹として育ってきて、高校生になって初めて血がつながってないってことをばらされたけど、なんか、結局お兄ちゃんって感じ。




でも、多分奏斗お兄ちゃんには、私は妹みたいなものとしか思われてないんだろうなって。



「はぁ……」



私は、メールのやり取りを見ながらため息をつく。

……今日は家族皆帰りが遅く家には私一人だ。

だからこそ、こんなことができたんだけど。




二つのカップケーキ。

片方には、睡眠薬を仕込んでいる。

今日私は、奏斗お兄ちゃんを監禁する。




できれば、永遠に、奏斗お兄ちゃんを独占できればいいと思ってる。

でも、そんな事、不可能だってわかってる。

だから、奏斗おにいちゃんに、私という存在を焼き付けるんだ。




その為だけに、この計画を考えた。

きっと、何もかも終わった後には家族からも学校のみんなからもそして、奏斗お兄ちゃんからも疎まれる人生が待っているのだろう。




分かってはいる。

でもこれをするしかない。

だって、奏斗お兄ちゃんの周りにいる女性は、皆、ちんちくりんな私よりも凄くて。

私がやれる事なんて、こんなことしかない。




ピンポーンと玄関のチャイムが鳴る。

いよいよ、奏斗お兄ちゃんが来た。

私は、二つのケーキを見る。

——今なら、まだ、やり直せる。



「いや……」



私は、首を横に振って睡眠薬の入ってないケーキを冷蔵庫の中に入れた。




奏斗お兄ちゃんを家に迎え入れて、リビングに案内する。




「それにしても、深優と二人きりなんて、久しぶりだな!」

「そ、そうだね」

「あぁ、昔はいつも雄也と俺と深優の三人で遊びまわってたしな」

「……うん」

「深優がお姫様で、俺と雄也が騎士で、探検をやったりしてな、

よく、母さんに怒られたな!」

「そんなことも、あったね」

「あぁ!深優は突拍子もないことをするから、皆ひやひやしてたんだぞ!」

「へ、へぇ~」



わたしは、自分の後ろめたいことを悟られないように笑みを浮かべる。



「それが、今じゃ、ケーキを作れるようになったのか。——いい嫁さんになれるな~!」



私は自分の顔がボッと赤くなるのを感じる。

——ほんとに、奏斗お兄ちゃんはこういうセリフを息をするように吐くなぁ。

奏斗お兄ちゃんは椅子に座って、ケーキを手に取り、パクっと一口食べる。



「うん!うまい!やっぱり深優はいい、およm——」



そう言って、ぱたりと机に顔を伏せて、眠りにつく奏斗お兄ちゃん。



——いよいよもう、引き下がれないところまで来てしまった。




私は重い奏斗お兄ちゃんを何とか引きずって、私のベッドまで運んで、腕と足を私のベッドに縛り付けた。




そして、奏斗お兄ちゃんが起きるのをじっと待つ。

奏斗お兄ちゃん、今の状況を確認したら、どんな表情するかな?

「怖いっ!!」って思うかな?

「なんで?」って思うかな?




少し、ドキドキする。




じっと見つめていると、「んん……」と、奏斗お兄ちゃんが動き始めた。

私は、奏斗お兄ちゃんが目覚めたときに、一番に私の顔が見えるように移動する。

すると、丁度移動したところで、奏斗お兄ちゃんが目を開けた。




「うん……?深優……?」



まだ、意識がぼんやりとしているみたいでぼんやりとした奏斗お兄ちゃんは、いつもの飄々としたかっこよさとまた違って可愛い!



「俺は……?」



そう言って、自分の頭に手を当てようとしたとき、奏斗お兄ちゃんを縛るひもが、その動きを止めてしまった。

——あれ?思ってたより短かったかも。



「ん……?」



寝惚けまなこな奏斗お兄ちゃんもようやく異変に気が付いたようで自分の体をあちこち見回している。



「あれ?え?」



そして、私の方を見てきた。



「こ、これ、何?」



私は、その質問に笑顔で答える。



「……拘束!」



それを聞いた奏斗お兄ちゃんは、何が何やら分からないといった感じで



「な、なんで?」



と言う。

私は、どうせもう奏斗お兄ちゃんとは最後なんだからと、思い切って言う。



「奏斗お兄ちゃんが、好きだから!ずっと私と一緒にいてほしいから!」



——きっと私の顔は真っ赤っかだ。

真っ直ぐに奏斗お兄ちゃんを見つめて言い切ると、奏斗お兄ちゃんは、「ふぇ?」と

変な声を漏らした。



「す、好きなの?……お、俺の事?」

「うん!」

「雄也じゃなくて?」

「雄也お兄ちゃんは家族だもん。今更血がつながってないって言われてもねぇ……」

「そ、そうなのか……」



そこまで言うと、奏斗お兄ちゃんは、自分の顔を手に当てる。

そして、少し赤くなった顔を私に向ける。



「いや、今、拘束されていることとか、突拍子もない発言とか、色々と気になる言葉はあるけどさ……」



奏斗お兄ちゃんは、少し深呼吸をして言った。



「いや、スゲー嬉しいわ」

「……はえ?」



奏斗お兄ちゃんは少し顔を赤らめて、にっこり笑った。



「ほ、ほんと?」

「……あぁ」



私は念押しをするように奏斗お兄ちゃんに問いかける。



「……こんな俺でよければ、付き合ってくれないか?」



結果。

私は嬉しさのあまり、部屋を飛び出してしまった。



「あ、ちょっと待て!?せめて返事だけでも——」



そこから30分後。

ようやく落ち着いた私は、奏斗お兄ちゃんを部屋に閉じ込めたままだったことに気づいて、慌てて部屋に戻った。




「いやー、ちょっと漏れるかと思ったわ」

「ごめんなさい!私が最後の思い出作りなんて思わなかったら!」

「あぁ、いいよいいよ、間に合ったし」



奏斗お兄ちゃんには、事情をすべて説明した。

すると、奏斗お兄ちゃんはきょとんとした顔で、



「俺の周りにいる女の子が俺の事好き?……いやいや、あれは雄也狙いだろ」

「え……でも……?」

「雄也に近づく口実に、俺を使っているだけだって!」



あれ……?

確かに直接聞いたわけじゃないし……?

私の勘違いだった……?



「あいつら、たまに俺をのけ者にしてなんか内緒話してるんだぞ!?『俺も彼女欲しいな~!』って言うとギロリと睨んでくるし」



ん~?

正直に言って私の思い込みだった可能性もある。

じゃあ、私の独り相撲だった?



「……なんて恥ずかしい勘違いを!?」

「まぁ、そのおかげで俺は彼女ができたし、良かった良かった!」



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別タイトル「妹としか思われてないと思っていた女の子が、鈍感なお兄ちゃんに直接攻撃した結果。」


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鈍感ハーレム主人公から、ハーレムを奪ってみた 青猫 @aoneko903

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