第25話 バレた




「皆さんのお部屋を用意させました。気に入った好きなお部屋を使ってくださいね」


 ルイは上機嫌でボクたちをゲストルームのある建物に案内してくれた。……のはいいのだけど、案内された部屋がやたらと広い。広すぎる。しかも装飾品やアメニティまですべて高級品。おまけにあちこちに金箔銀箔を施してあったり大理石製であったり。こんなギラギラした場所ではとてもじゃないけど落ち着けなさそう。


「ルイ陛下、これはちょっとボクには合わない、かな」


「ルイでいいですよタルトさん。このお部屋はお気に召しませんでしたか? タルトさんには王宮内でも一番のお部屋がふさわしいと思ったのですが……あ、ではこちらのお部屋はいかがですか?」


 次に案内された部屋は紫や黒を貴重とした高級な色でコーディネートされていて、さっきの金ピカの部屋に比べて落ち着いてはいるんだけど、天蓋付きでキングサイズのベッドやら、ふかふかすぎてターフのようになっている赤いカーペットやら、どれも触るのも恐れ多いような高級品で埋め尽くされていて、ここで寝泊まりするとむしろ疲れが溜まりそうな気すらする。


「あの、ルイ。もうちょっと、なんていうかな。庶民的な感じの部屋はないの?」


「でも、皆さんは僕にとって大切なお客様ですから……」


「だけどさ、ほら、これから長い付き合いになるかもしれないし。もうちょっと過ごしやすいお部屋のほうがいいんだけどな」


「嬉しいです! ずっとここに住んでください!」


「わかった、わかったから。落ち着いて、こら、離れろ!」


 ルイはなぜかボクにやたらと懐いてしまい、そばを離れようとせずにくっついてくる。年齢的にはそこまで離れているというわけでもないんだけどな。くっつくならナツキにくっつけばいいのに。あいつならニコニコしながら


「俺はさっきの金色の部屋が気に入ったな。まあ、これまでも高級宿には泊まりまくってきたし、別にあれくらいは普通だよ」


 リントはさっきの悪趣味な部屋が気に入ったらしい。そういえばこいつは普段着が全身真っ黒というおかしなセンスの持ち主だった。


「ではリントさんは黄金の間を使ってください」


「ナツキっちも一緒にどうっすか? あの部屋ツインベッドだったし」


 唐突にリントはナツキを誘う。


「そうだな。俺も一人で広い部屋を借りるというのも気が引けるしな」


「お部屋はたくさんありますから全然気になさらないでください。でもナツキさんたちがそうしたいとおっしゃられるならお好きになさってくださいね!」


「ありがとうルイくん」


 嘘。君たち同部屋になるの? いつの間にそんなに仲良くなってたの? せっかく別々の部屋に泊まれるのに? まさか……ボクも同じ部屋になる流れなのかな? あの眩しい装飾品に囲まれて眠るの? 絶対無理。絶対嫌なんだけど。でも、自分だけ別の部屋が良いって言いづらい空気……!


「タルトっちはどうするんすか? あの部屋あんまし気に入ってないって言ってたし、別の部屋借りるんすか?」


 リントにしてはいい流れを振ってくれた。これに乗ろう。


「そ、そうだね。ボクは平民だからああいうお部屋はちょっと落ち着けそうにないからなー」


「でもタルトだけ別の部屋だとなんだか仲間はずれみたいにならないか?」


 ナツキはいつもどおり、優しいんだけど今は嬉しくないタイプの優しさを発揮。何故かコインの裏と表のようにどちらか一方しか前面に出ない。


「気にしないで。それにあの部屋ツインベッドだったし、二人用でしょ。ボクはもうちょっと落ち着いた部屋を借りるよ」


「そうか……」


 残念そうな顔をするナツキだけど、ボクとしては男の子二人と同じ部屋でずっと過ごすというのはできれば避けたい。本来なら安宿の狭い一室に三人で固まって寝なければならなかったのだ。せっかくのチャンスを逃す訳にはいかない。


「うん、じゃあせっかくだからボクはこのお部屋にするね。ルイ、本当に良いの?」


 この紫の部屋もボクには過ぎた部屋だったけど、二人の部屋が「黄金の間」にさっさと決めてしまったのにボクだけいつまでも決めないでいるとわがままを言っているようになるしルイを困らせてしまう。落ち着かないけどさっきの金部屋よりは遥かにマシだ。


「もちろんです! 必要なものがあったら使用人に言いつけてください。ではお疲れでしょうから僕は一旦失礼しますね。あとでお食事にお呼びしますからそれまでお部屋でくつろいでいてください。タルトさん、また後でお会いしましょう」


 ルイは嬉しさが抑えきれない子犬のようにはしゃいだ様子で去っていった。


「んじゃ部屋に行きますか。ナツキっちもそのままじゃ風邪引いちまうし」


 いつの間にか慣れてしまってたけどナツキは白布一枚羽織ってるだけでその下は裸だったんだ。さっきまでは意識してなかったからよかったけど急に恥ずかしくなってきた。今となりに男の子の裸が……。


「なに赤くなってすか? タルトっち。まさか……」


「ち、違うよ! ほら早く部屋に行こう。ボクは夕食まで少し眠りたいよ」


「そうだな。俺も早く服を着たい」


 着たかったのか。てっきりその格好が気に入っていたのかと思ったよ。





「ひ、広いな……」


 見渡す限りの高級品。装飾は派手ではないのだけど色やデザインが細かくこだわられている。そして部屋の中なのにいくつも扉がついている。部屋の中に更に部屋があるというのが理解できない。


「この扉はなにかな」


 開けてみるとお風呂がついていた。部屋ごとにお風呂がついているなんて王侯貴族はどんな贅沢してるんだ。

 でも、これで一番心配していたお風呂イベントを回避できる! やったぁ! いくら凹凸が少ないと言っても裸を見られたら一発で女の子だってバレるわけだし、心配してたんだ。それにボクだって女の子なんだし少しは汚れやにおいは気になるわけで。


「これ、もしかして毎日お風呂に入れるのかな。それはさすがに贅沢すぎるよね。だめだよね」


 だれもいないのに一人でブツブツいいながら部屋を散策した。


 一通り見て回って満足したら、天蓋付きのベッドに倒れ込む。ふかふかな上にカビの臭いなんて一切しない、手入れされたコンフォーター。こんな贅沢して良いのだろうか。


「ルイ様様だなあ」


「タルトさんお呼びですか?」


 扉の向こうから声が聞こえた。


「え? ルイ?」


「はい。僕です。入ってもいいですか?」


「も、もちろん! どうぞ」


「失礼します」


 ルイは新しい服を持ってきてくれたようだ。使用人にやらせるものだと思うのにわざわざもってきてくれるなんて、よく動く王様だね。


「タルトさんに似合いそうなお洋服を選んできました」


「あ、ありがとう」


 至れり尽くせりなのは嬉しいけど気が引ける。だけど、今のボクの薄汚れた服は王宮(ここ)では浮いてしまうだろうし、格好がつかないだろう。ここは大人しく服は受け取るべきと判断。


「な、なにこれ。すごく高そう……」


 用意されたのはちゃんと男物の服だった。さっきボクが派手なのを嫌っていたのを考慮してくれたのか、シンプルな色と作り。それでいてオシャレな仕上がりで、王家の紋章がついている。おそらく騎士団とかの偉い人が着る服かな。


「動きやすいものがいいと思ったので、少し地味ですがそちらにしました」


「ううん、すごくいいよ。こんなのもらっていいの?」


「もちろんです! 他にもありますからクローゼットに替えの服を用意させておきますね」


「い、いいよいいよ! これで十分だよ。そんなに気を使ってくれなくていい」


「ダメですか……?」


 この目。さっきボクを落とした上目遣い。


「ダメじゃないけど……」


 ボクはこの目をされると断れないみたいだ……。まさかこいつ、自分のかわいさをわかってやっている!?


「やった! じゃああとで持ってこさせますね。えっと、ところでタルトさん……」


「ん、なに?」


「タルトさんってやっぱり、女の子ですよね?」


 心臓が飛び出るかと思った。いや飛び出た。飛び出た心臓をさり気なく元の場所に戻しながら、できるだけ何事もないように。

 

「……なんのことかな。ボクは男だってさっき言ったはずだけど、いったいぜんたいなにをしょーこにそんな事を言っているのカナ」


「でも……さっき抱きついたときに、その、おっぱいが……」


 さっきのやつか! やられた! 完全に油断してた!

 ナツキはボクに気安く抱きついてくるなんてことはなかったしリントだって年頃の男だからベタベタ触ったりはしないだろうし。直接触られてバレてしまうパターンを全く考慮していなかった。最近少し膨らんできてたからそろそろなにか巻いておこうかと思っていたのだけど後回しにしたのがまずかった。


 どうするどうするどうする。


 │ルイ《異世界人》にボクが「女の子」だってバレてしまった。ボクは決めていた。自分が女のことだってことがバレたら逃げてしまおう、と。

 ってことはここでボクの旅が終わり? せっかくお風呂に入れるというのに!? いやお風呂はどうでもよくて。どうでもよくないけど。そうじゃなくて!


 ダメだ。でも決めてたことだ。今すぐ逃げなきゃ。異世界人の物語に巻き込まれる。それどころか、ただの村人のボクはみんなの邪魔になってしまう。


 答えられずにいるボクをみてルイが慌てて繋いできた。


「ごめんなさい。なにか事情があるんですよね。隠しておられるようだったので黙っておこうかと思ってたんですけど……」


 ルイは固まったままのボクを見て察してくれたようで。


「あ、もちろん誰にも言いません。タルトさんが望むなら、これからも男性として接します」


「あの、できれば二人には黙っててもらえないかな……事情はいつか話すからさ」


「もちろんです。タルトさんの嫌がることは絶対にしません!」


 どうしようか。

 ルイはボクを男として扱ってくれるというのなら一応まだ「美少年」として異世界人の側にいられるということ……か?

 

 そもそもルイは見ての通りの子どもで、ハーレムなんて作るのはまだまだ先の話だと思うし、美少女であるボクがルイのハーレムの一員になるなんてことはないわけで。


 だったらぎりぎりセーフ? いいのかな? いいよね? ここで終わりってさすがにないよね?


 うん、相手は子どもなんだしセーフということにしよう。


「それで……タルトさんのお洋服はすべて男性用のものでよかったでしょうか? 寝るとき用のお洋服とか下着はどんなものをご用意しようかと思って……」


 それでわざわざ言いに来たのか。

 そうか。ルイは最初からボクが女の子であることを隠していると察して、それでこっそりボクのところへ来てくれたんだ。この子、ナツキやリントよりも気が回るんじゃないか。一番年下なのに。


「ありがとうルイ。実はボクもちょっと困ってて、できれば下着と寝間着は女性用のものがほしいんだ……お願いできるかな?」


「わかりました! ではタルトさんには専用の女の使用人をつけますね。秘密を知っている人間は少ないほうが良いですし」


 本当に気がよく付く子だ。あのポンコツ異世界人二人とは大違いだね。

 

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異世界人が大嫌い!な少女は美少年になる ひみこ @YMTIKK

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