第24話 絶対王政2
「……だったら王様やめるって言えば良いんじゃないの?」
そんなにすぐには無理だとしても、代わりが見つかれば、本人がやめたいって言ってるんだからやめれたりしないのかな。王様ってのがどんなシステムなのかわからないけど。
「それが、やめたいって言ってもやめさせてもらえないんです。誰かに譲ってもなぜか僕が王のままなんです。たぶん……能力のせいで僕は王様をやめれないみたいなんです」
違う。これは「王にしかなれない能力」なんだ。
さすが異世界人―このセリフを言うのも何度目だろう―リントの
何もしなくても王になる。
王であろうとしなくても王になる。それが子どもであっても他に何も出来なくても、王になる。
そしてそれを周りが認める。
とてつもない能力。
反則的な能力。
だけど……意地悪だ。
そりゃまあ、王様って普通は憧れの存在だし、なりたいって人も大勢いるだろうけど。
だけど、王の能力も素質もやる気さえもない人間を強制的に王にし続けるなんて、歪な能力じゃないかな。本人が拒絶すらできないなんてこんなの能力とすら言えない。これじゃもう「呪い」じゃないか。
トラック様はいったい何を考えているんだろう。リントといい王様といい、どうしてこんなおかしな能力を与えるのだろう。
ただ今言えることは、そのお願いをボクたちにされても困るということだ。
「ボクは見ての通りただの平民だし君たちみたいな異世界人でもなけりゃ魔法すら使えないんだ。それにナツキもリントも君の力になれるような能力を持っているわけじゃない。君の力になりようがないと思うよ」
「お願いします。お話を聞いてくれるだけでも、相談に乗ってくれるだけでも良いんです。僕はもうひとりで王様をやるのは無理です! おにいさん、お願い。僕を見捨てないで……」
ええええ……。だからそう言われても何も出来ないんだってば。お願いならボクじゃなくてそこの異世界人二人にしたほうが良いんじゃないかな。この中で一番役に立たないが「おにいさん」だと思うよ。
それに。
「王様は今までたくさん死刑にしてきたんでしょ? ってことはたくさんの人を殺してきたんだよね……」
「あ、いえ。死刑は今日が初めてです。大臣が極悪人だから死刑にしたほうが良いって言うから……」
「え、そうなの? だってさっき口答えしただけで死刑にしてたじゃないか」
「あれは、あの時は他に皆さんと話せる方法が思いつかなくて、つい……」
つい死刑って……とんでもない響きの言葉だな。とにかく死刑は取り消させよう。口答えしただけで死刑はあんまりだ。
その大臣ってのがこのちび王の補佐をしていてなんとか政治を回していたといったところなんだろう。でもその大臣がナツキを死刑にしたということならちょっと文句くらいは言ってやりたいな。
「じゃあ、その大臣ってのはどこにいるの?」
「さっき死刑になったのが大臣です……」
「ええ!? すぐに止めて! もう死刑は禁止!」
「は、はい! すぐにやめさせてきます!」
いくらナツキを死刑にしようとした許せないやつだと言っても死んでもらいたいわけじゃない。
ちび王は慌てて椅子から飛び降りて、部屋の外へ走っていった。
「やれやれ……」
ボクは脱力して椅子にもう一度腰を下ろした。疲れがどっと来た。柔らかい椅子に体が沈んでしまいそうだった。ずっと緊張しっぱなしだったし。
「なあタルトっち……」
「なに?」
「あいつさ、どうするん?」
「……どうするって?」
「いや、このままでいいんかなあって」
「……何が言いたいの?」
「……い、いや。昨日仲間になったばっかの俺が言うことじゃないんすけどさ……」
仲間(仮)だよ。美少女を見つけ次第お別れなんだから。
リントが何を言いたいのかはわかる。わかりたくないけど。
ナツキの方を……見ないほうが良いだろうなあ。もうどんな目をしているか想像がついてしまう。うわ。ボクは目を見ればわかるどころか、すでに目を見なくてもある程度ナツキの気持ちを察せてしまえるようになっちゃってるのかぁ。
でもだよ。ナツキは全身を焼かれたわけだし、そう簡単には許せない、なんて展開もありえるかもしれない……よね。
思い切ってナツキの方に顔を向けるとナツキはボクの方をすでに向いていて「ひっ」って声が出てしまった。助けてやろうとか言い出す顔してた。
「タルト……。あいつどうにか助けてやれないかな」
ね。
ところで君たちはなんでボクに決めさせようとするんだ? どうしてボクがこのヘンテコパーティーのリーダーでそれが当たり前みたいな空気になっているんだよ。この中で一番役に立たないのがボクじゃないのか。それでもボクが代表だと、そういうのなら、いいよ。
だったらボクの考えを言おうじゃないか。答えはもちろん。
「ダメ。君たち二人のお世話するだけでも大変なのに、王様だって? ボクだって政治も経済も何もわからないし、何も力になんてなれないよ。そんなに気安く助けるなんて言っちゃダメ」
……ボクが言うなって話なんだけどね。とにかくこれ以上はボクのキャパシティオーバー。リントもできればどこかへ捨てていきたいくらい。
「そうか。そうだよな。悪りぃ」
ナツキは悲しそうな顔で納得。
「タルトっちがそういうならそうっすよね。ペットじゃないんだし。責任もとれねぇのに気安く請け負うものじゃないっすよね」
ねえリント。それはボクに皮肉を言ってるのかな?
ボクが気安く君たち異世界人のお世話をしていることに対するツッコミなのかな?
そうこうしているうちに王様が息を弾ませて部屋に戻ってきた。死刑は無事回避されたのだろうか。
「お待たせしました。待っていてくださったんですね! よかったぁ」
そうだね。よかったね。これで「王様の気まぐれによって殺されてしまう悲惨な国民」はいなくなったということね。このチビ王が無駄な殺生をしなくて済んだこともね。
「死刑は取りやめまてきました。おにいさんのアドバイスのおかげです。おにいさんほんとにありがとうございます」
頭を下げる王様。きまずい。いくらちびっこでも王様に頭を下げられるとこっちが申し訳なくなるよ。それにお礼を言われるようなことはしていないし。
「うん。王様。これからはもっとちゃんとした人に相談して政治をするんだよ。ボクたちなんかに相談するよりそっちのほうが絶対にいいよ」
「そう、ですか……。そうですよね。ごめんなさい。ボクの都合に巻きんでしまうことになりますもんね。無茶なお願いをしてしまってすみませんでした」
む、胸が痛いから、そんな訴えるような目でボクを見ないで。
「でも、たまには王宮に遊びに来てくださいませんか? 僕の周りには大人ばっかりでこうしてお話できる相手も全然いなくって……」
「ま、まあそのくらいなら……」
「ほんとですかあ! やったあ! ありがとうございます。ありがとうございますっ! 本当に嬉しいです! これで僕、明日からも頑張っていけそうです!」
グサグサとなにかが胸に刺さってくる。そこの二人、お前らも「何かを訴える目」をやめろ。
「じゃあおにいさん、ナツキさん、リントさん。また遊びに来てください。いつでも待ってますから」
涙目のまま金髪のちびっこは精一杯の笑顔を作って言った。
ああ、もう!
「おにいさん、じゃなくてタルト。ボクの名前はタルトだよ。国王陛下」
「タルトさん。タルトさんですね! 僕の名前ルイと言います。よかったらルイって名前の方で呼んでください」
「めっちゃ国王っぽい」
「だな」
リントうるさい。ナツキ笑うな。
「ルイ陛下。実はボクたちもいっぱい問題を抱えてて、ナツキは能力すらよくわかっていないし、リントの能力は使えないし友達もいないし服のセンスも悪いし、大変な状況なんだ。他の人のことを助けてる余裕は正直ないんだ……」
「タルトっち俺だけなんかひどくないっすか? ……え、無視?」
「だからボクもこの二人も君の力にはなれないと思う。だけどさっき君が言ったみたいに相談にのるくらいなら出来るかもしれない。君がこのさき王様をやめられるかどうかはわからないけど誰か君の助けになる人が現れるまでなら、君を少しだけ助けたいと思うんだけど……どうかな」
「ほ、ほんとですかぁ……タルトさん……いいん……でしゅか」
ルイは泣いてしまって嗚咽でうまく喋れてない。泣くほど辛かったんだろうね。
さっきはごめんね。
ボクも君にとっては異世界の人間で、この国の人間だ。なのにこの国のことを君に押し付けてしまってごめんよ。ボクが謝るべきとまではさすがに思えないけどさ、異世界人の君に、こんな幼い君に全てを押し付けてしまっていたことはやっぱり申し訳なく思うよ。
そんなことまでボクが背負うことじゃないのはわかってるし、むしろボクなんかが関わって良いことだとも思えないんだけど、こうして目の前で問題に出逢ってしまったのなら、もうしょうがなくない?
結局、ボクには出来ないんだから。困っている人を見捨てることが。
「ありがとう……タルトさん、ほんとに、ほんとにぃ……うわあああああ」
大泣きするルイの頭をそっとなでてあげた。
「さすがタルトっち! 俺たちのリーダー!」
「うん……うん」
ナツキはもらい泣きしてた。リントも泣いてた。異世界人はほんと泣き虫ばっかり。
今回はボクも少しもらい泣きしそうになっちゃったけどね。
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