第10話 ビビビッなプロレス部

 放課後を迎える。

今日は久しぶりの部活。プロレス部だ!


 プロレス、それは肉弾戦。

予定調和にストーリーが進む、総合格闘スポーツエンターテインメント。

技をかける側より、かけられる側の方が高い技量を求められる。


 全国中学生プロレス大会。僕の対戦相手はみんな、高い技量を有していた。

それに比べて僕は下手くそで、誰かの技を上手に喰らうことができなかった。

故に僕は、3年間無敗で春秋大会6連覇を達成した。


 あまりにも惨めな思い出だ。




「上杉、随分と部員が増えたみたいだね」


 しかも、女子が多いというか、ほとんどが女子。

400人くらいで、他校の制服姿の人もいる。

集合前にジャージに着替えるようにしっかり指導しないと!

僕がビビビッとくるような子がいないのはラッキーだけど。


「武田、相変わらずの天然だな。部員じゃなくって見学者だよ」

「マジか。部活を見学する女子なんて、僕たちのころはいなかったのに!」


 見学者の多さに、大会を思い出してテンションが上がる!

これも全て1年生部員たちの頑張りが評価されているから。

先輩として、こんなにうれしいことはない。

特に高遠くんは、陽子とも仲のいいイケメン、人気者だ。


「武田、それはお前にカノジョがいたからだろう」

「意味が分からないが、それを言わないでくれ……」


 上杉のやつ、空気読まな過ぎだ。

いくらライバルだからって、僕がフラれたことをいじるなんて酷過ぎる。

いつか川沿いで霧の中、背後をついてやろうと思う!


「兎に角、今日は試合形式の練習を組む。武田、あれを着けろよ!」


 上杉がそう言うのに合わせて、高遠くんを筆頭に、

6人の1年生部員が1本ずつチャンピオンベルトを持ってくる。


「分かってる。今日の主役は現役部員たちってことも。僕はヒールに徹するよ」


 リングの中央でベルトを受け取り、締めては周囲を精一杯に煽る。

そしてまた次と、少しずつ向きを変えて合計6回繰り返す。

でも僕は煽るのが下手だから、見学者のみんなは静かなまま。

どうして?




 謎のまま、試合開始のゴングが鳴る。


 僕はまず、全員に技を仕掛ける。なるべく素早く派手な技を選んだ。

1年生を応援しにきた見学者を煽るだけ煽ってから反撃を許すつもりだ。


「かかってきな!」と、仁王立ち。1年生がぐるりと僕を取り囲む。

順番に襲いかかってくるのだが……なぜだ?

なぜもっと素早くタックルしない?


 そんなにゆっくり隙だらけでは簡単にかわせてしまうじゃないか。

いやっ、違う……これはあえて1方向にかわさせる、


 作戦!


 かわしているつもりが追い込まれ、最後の高遠くんに捕まるパターン!

腕を上げたな、1年。先輩である僕をたててくれるなんて!

やはりここが僕の花道、最大の見せ場、やられどころ!


 さぁ、高遠くん、最後は鮮やかにタックルを決めてくれ!


 ところが、高遠くんの動きが遅い。一体、どうしたんだ?

このままでは、逆に僕がカウンターを喰らわせてしまうじゃないか!

そういえば高遠くんって、才能はあるのにあがり症だったな。


 いや、高遠くんのせいにするのはよくない。僕が下手くそなだけ。

満足に技を受けれずに、つい、返り討ちしてしまうだけ。

やっ、やばいっ! 高遠くんがダウンしちゃった。


 レフェリーが試合の権利は高遠くんにあると指示。立ち上がらない高遠くん。

こうなったら時間稼ぎするしかない。僕はあえて他の5人に攻撃する。


 空手チョップ・水平チョップ・脳天チョップ・大根斬りチョップ、

そして最後は騙されチョップ! 5人はリングの外に転げ落ちる。

残ったのは僕と諏訪くんの2人だけ。でも高遠くんはまだ起きない。


 本格的にやばい。フォールすれば僕が勝ってしまう。それだけは避けたい。

今日だけは、先輩として勝つわけにはいかない。


 こんなとき、プロのレスラーはどうする?

会場に向けて『 おい、オマエラ、これが俺の生き様、刮目せよーっ!』と叫び、

大技を繰り出すも失敗、撃沈、逆転負け。


 これだっ!


 この手順で僕が負ける!

僕は高遠くんから1番近いポストによじ登る。

そのとき、見学に来てくれたみんながスマホを見ているのに気付く。

そんななか、ただ1人直にリングを見つめる地味な女子がいた。


「ねぇ、みなさん。僕の姿を是非、生でご覧ください!」


 と、ここでまさかのビビビッ!

どうして? 僕はもう、未経験の少年じゃないのにーっ!


 気にしてもしかたがない。そのまま背面ジャーンプ!

空中で180度身体を捻ると、すでに立ち上がっている高遠くんに返り討ち!

……されない。高遠くん、まだダウンしている。


 僕はみごとに高遠くんにジャストミート。丁寧にフォールしてしまう。


「ワン・ツー……」


 勝ってしまった……と、実力の無さを思い知らされている最中。


「まだ終わってないわっ!」


 覆面を被った女子が、リングに登ってきた。

覆面女子レスラーに、一際強くビビビッとする。

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昨日カノジョにフラれていた僕は、シェアハウスのアメージング料理係になりました。いつのまにか掃除係も洗濯係も拝命し、最近やっとプロレスの技を試される係に就任しました。 世界三大〇〇 @yuutakunn0031

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