異世界に飛ばされたので好き勝手に冒険します!

司馬波 風太郎

短編本文

「ん~~、このゲーム面白かった!」


 私ーー朝霧あかりはそういってゲーム機のコントローラーを置く。そのまま床に大の字に寝転がって天井を仰いだ。今の私の心は最新のオープンワールドRPGをやり終えた満足感で支配されている。


「いやー、しかし評判通りに面白いゲームだったなあ~、これ。映像よし、音楽よし、シナリオもよしというとんでもない代物だったよ」


 噂に違わない良策だったと満足気に呟いた私はベッドに寝転がる。ゲームに熱中して火照った体に布団の冷たさが心地よい。


「はあ……私もあんなRPGの世界に生まれてみたかったなあ」


 そんなこと叶うはずもないのに私は他の人が聞いたら気でも触れたのかと思うような発言をする。

 小さい頃から剣と魔法のRPGが好きだった私は成長するにつれ、その世界に行ってみたいと思うようになっていた。他人にこんなことを話したら気が触れているだの病院に行こうなどと言われるため絶対に言わないけどね。

 だってかっこいいじゃん! 魔法! 使えたらいいなと何度思ったことか! 私もあんな魔法を使ってモンスターと戦ってみたい!!

 おっといけない。自分の妄想にのめりこんでテンションがおかしなことになっていた。

 と、そんなことを考えたところで私は日本に住む一介の女子中学生。そんな魔法が使えるなんてこともなくごく普通の学生生活を送っている。

 別にそのことに不満を抱いてはいない。ただちょっと刺激が欲しいなと思っているだけ。


「……本当にRPGでよくあるファンタジー世界に行けたらいいのになあ」


 いけない、内心が声に出てしまった。こんなことを考えている場合じゃない。お母さんの家事の手伝いをしないと。

 妄想を振り払って私は母の手伝いに向かおうとした。


「ならその願いを叶えてあげましょうか?」

「え?」

 

 私の頭の中に正体不明の声が響く。なんだろう、私ついにおかしくなってしまったのだろうか。

 私が声の正体について考えていると足下から光が溢れてきた。


「ちょっ! なんなのよ、これーーーーーーー!!」


 光は段々と強くなり、私の意識は薄れていったーー。



「う、うーーん」


 意識を取り戻した私はまず周りの状況確認を行った。辺りには木々が生い茂っている。どうやら森の中のようだ。


「な、なんでこんな森の中にいるの?」


 私は今まで自分の部屋に居たはず、それで……。


「ああ、謎の声が聞こえて」


 そう、誰か分からない声が聞こえて意識を失い、気付いたらここにいたのだ。


「しかしここって明らかに日本じゃないよね」


 辺り一面木々が生い茂り、人が生活しているようには見えない。絶対に私が住んでいた街ではないと言い切れる。

 

「少し回りを調べてみようかな」


 私は状況を把握するために回りを調べ出した。歩き回ること数十分。少し疲れたため、休息を取る。


「やっぱりここは日本じゃない」


 結論から言えばここはやはり日本ではないようだ。現代的な建物が見当たらず、結局人が生活しているような痕跡もなかった。


「ん~、ということはもしかしてここって……異世界ってやつ?」


 まさかね……非現実的過ぎるけど。しかし周りの状況を踏まえるとそうとしか考えられない。


「あの声と光のせいでこっちに飛ばされたってとこかな」


 私は目覚める前に体験したことを思いだす。やはりここに飛ばした張本人はあの謎の声の主だろう。

 普通なら勝手にこんな訳が分からない世界に飛ばしてくれやがって! となるところなんだろうけど、私はテンションが上がっていた。


「ふふふ……ということは私の願いが叶ったんだよね……」


 興奮で体が震える。ついに! 願いが叶った!


「いやったー! 私ついに憧れていた異世界に来たんだ!」


 響き渡る私の換気に満ちた叫び。周りに人がいなくて良かった。


「ということは魔法とかも使えるのかな?」


 もし異世界に行ったら絶対に使いたいと思っていた。


「んー、でもどうやって使うのかなあ……」


 使えるにしても私にはその使い方が分からない。なにか詠唱とかが必要なのだろうか?


「手を横に振ってみて。そうしたら使える魔法が確認できるわ」

「え!?」


 またあの時の声が私の頭の中に響く。


「あ、あなたは一体何者なんですか? 私をこんな世界に連れてきてなにをさせようと……」

「それは今は秘密。でもあなたの敵ではないということははっきりさせておくわ」


 声は優しく私に語りかけてくる。……敵意を感じないし、とりあえず情報が少ないのでこの声から聞き出すしかないな。


「まあ、いいわ。あなたの言ったとおり手を横に振ればいいのね」

「そう」


 彼女の言葉に従って私は軽く手を振る。するとRPGでよく見るようなウインドのようなものが浮かんだ。


「この画面であなたの使える魔法を確認できるわ」


 空間に出てきたウィンドウの魔法と書かれている場所に触れる。すると何個か魔法の名前らしきものが出てきた。

 内容を確認する。書かれていたのは炎属性初級魔法フレア、水属性初級魔法ウォーターランス、風属性魔法ウィンドストーム、地属性魔法アースブレイクと。今の私はどうやら四つの魔法が使えるらしい。


「後もう一つのスキルという項目はモンスターを倒してポイントを得ることで習得できるわ。魔法を使いたい時はその呪文の名前を言えばいいだけよ。それじゃこの世界を楽しんでねー」

「ちょ、まだ聞きたいことがいっぱいあるんだけど!」


 私の抗議に反応なし。これ以上は教えないようだ。あとやっぱりモンスターはいるんだね。


「勝手なやつだなー。まあ、とりあえず教えたことで生き残れということなんだろうけど」


 私が独白しているとなにかの唸り声のようなものが聞こえてきた。声のしたほうを見るとオオカミのようなモンスターが私を睨んでいた。


「噂をすればおでましというわけね」


 オオカミのようなモンスターは咆吼をあげながら私に向かって突撃してきた。私はそれを体を捻ってかわす。 


「えーと、呪文の名前を唱えるだけだっけ、フレア!」


 私はさっき確認した呪文の一つである炎魔法のフレアを使用してみる。魔法名を叫ぶと私の前に火球が形成され、オオカミのようなモンスターに向かって飛んでいった。

 火球が直撃したモンスターの体が炎に包まれた。最初は悲鳴をあげたが、炎が体を焼いてくに連れ動きは弱々しくなっていった。


「おお……!」 


 私は感嘆の声をもらす。そして両手を握り締めて叫んだ。


「本当に魔法が使える!! やった!」


 あの訳が分からない声には警戒するけど、この世界に連れてきてくれたことには感謝しないとね。だってこんな魔法が使える世界に連れてきてくれたんだから!


「そういえばあの声はモンスターを倒すとスキルを覚えられるとか言ってたけどあれってなんなんだろう?」


 もしかしたらさっきのスキルの項目でなにかできるかもしれない。私はさっき開いたウィンドウをもう一度開いて確認する。


「……あれなにかポイントみたいなもの手に入れている?」


 さっきのモンスターを倒したことによってウィンドウの端っこにあるポイントの項目が1と表示されている。どうやらあの声が言ったようにこのポイントを使ってスキルを強化していくようだ。


「本当にゲームっぽいな。さてスキルっていうなら強化できる項目があるはずだけど」


 スキルのウィンドウを確認する。項目は剣技、魔術、回復の三種類があった。


「ん、この三種類を伸ばすことができるのか。魔術を伸ばせばなにかあるのかな」


 魔法を使いたかったから魔術にポイントを振り分けてみよう。


「魔力が増大しました」


 頭の中に声が響き渡る。さっきの声とは違うものだ。なんというか電話の自動音声に近い感じの声だ。


「やっぱりこの魔術ってスキル項目は魔法を使うことを助けるような結果になるみたいね。そうと決まれば」


 私は顔をあげる。これからモンスター倒してスキルをあげてもっと使える呪文を増やすんだ!


「ようし、それじゃモンスター討伐に向かいますか!」



 それから私はモンスターを倒してスキルの魔術をひたすら強化した。使える魔法も段々増えて最初にいた場所のモンスターを簡単に倒せるようになったため、他の場所に向かった。そこでもモンスターを倒してスキルと魔法の強化に専念していたある日、私は魔物に襲われている商人を助けた。彼の名前はレイスといい、助けてもらったお礼になにかしたいと言ったため、私が魔法を使うのになにかいい装備が欲しいと話すと彼は魔法を強化する道具をくれた。

 私は活動範囲を広げるために近くに人が住んでいるところはないかと尋ねた。流石にこのままなにもない場所で生活していくことは続けられなかったからだ。

 彼は近くに街があるから護衛をして欲しいからそこまで一緒に行こうと提案してきたため、私は彼の提案に乗って護衛を引き受けることにした。

 



「うわあ……」


 街に着いた私は驚いて感嘆の声を上げる。


「凄く大きいですね、この街」

「ああ、この街ーーウィンドブロムはこの大陸でも大きなほうだからね。商業も盛んだから人も多いんだよ」


 一番最初に来ることが出来た街が大きくてよかった。後、出会えたのがこの人なのも。


「ありがとうございます。レイスさん」

「いや感謝するのはこちらのほうだよ。アカリさん。君のおかげでここまで安全に来ることが出来た」

「いやー、迷ってた私にとってレイスさんと会えたことは幸運でした。本当にありがとうございました」

「あー、そうだ。アカリさんに相談があるんだけどね」

「はい?」

「もし君がよかったらこれから正式に僕の商会の護衛になってくれないかな? 君のように腕が立つ人はなかなかいないからね。もちろん給料はちゃんと払うよ」

「ほ、本当ですか!?」


 私にとって渡りに船の話だ。こっちでのこれからの生活もあるし、お金を貰えるならこれっほどありがたいことはない。


「レイスさんがいいならぜひお願いしたいです。お金のあてもなかったもので」

「そうか、こちらもありがたいよ。それじゃこれからもよろしくね、アカリさん」



 私はそれからレイスさんの商会の護衛として働きだした。レイスさんはしばらくこの街を拠点に商売を行う予定で私と商会のみんなは数ヶ月程この街で過ごした。

 護衛の任務の間にも私は魔術のスキルをあげて自分を強化していた。どうも巻き込まれ体質なのか街で起こるゴタゴタに巻き込まれた結果、ちょっとした有名人になってしまったし。まあ住民に手を出そうとした犯罪者を捕らえたり、街を襲ってきたモンスターを撃退しただけなんだけどね。

 この街での生活にも慣れてきた頃、レイスさんがあるお知らせを持ってきた。


「闘技大会?」

「ああ、今度開催されるみたいでね。アカリさんは魔法も相当使えるし、腕も立つから挑戦してみたらどうかなと思って」

「へえ、楽しそうですね」


 私はレイスさんから受け取ったお知らせの紙を見ながら考える。自分の実力を試すにはいい機会だし思い切って出てみようかな。まあ、優勝とか出来るとは思わないけどね。


「そうですね、レイスさんの言うとおり出場してみようと思います。申し込みってどこで出来ますか?」

「ああ、それなら街の中心にある領主様の屋敷でやっているよ。今回の大会は領主様の主催だからね」

「じゃあ今日の仕事が終わったら申し込みに行きますね」

「そうするといい。自分の力を試すいい機会だと思うよ」


 ちょっとだけわくわくしている自分がいる。普段はモンスターが主な相手だから鍛えた人間と戦えるのは楽しみなのだ。自分だどれだけ強いか確かめられるし。

 心を躍らせながら私はその日のうちに闘技大会への申し込みを済ませた。



 その後、闘技大会のに出場した私はなんと優勝してしまった。私自身も驚いたけど同時に嬉しくもあった。


(で、どうしてこんな状況になっちゃったんだろう……)


 今、私は領主の屋敷に呼び出され、その執務室で領主が来るのを待っていた。なんでも領主から話があるということらしい。


(闘技大会で見た領主様はとても美人だったけど……なんで私なんかを呼び出したんだろう)


 あれこれと考えている内に領主様が執務室に入ってきた。年は私より少し上に見える。


(綺麗な人だなあ)


 肩口で切りそろえられた綺麗な金髪と人形のような顔を持つ領主様に対して私は素直にそう思った。


「こんにちは、この街で領主を務めているミナです。今日はわざわざこちらまで来て頂いてありがとうございます」


 よく通る綺麗な声で領主様は私に挨拶をしてきた。


「アカリです。本日私を呼んだ理由はなんですか? 領主様に呼び出しを受ける理由に心当たりがなく」

「そうですね、まずはそこから話をしましょう」


 ミナ様は私のほうを見て今回私を呼んだ理由を話し始めた。


「今回あなたを呼んだのはあるモンスターの討伐に強力して欲しいからです」

「あるモンスター?」

「はい。恥ずかしながら私達だけでは手に余るモンスターでして」

「で、相手は?」

「ドラゴンです」

「へ?」


 私は思わず間の抜けた返事をしてしまう。ド、ドラゴンってあのRPGとかでよく出てくる強敵だよね……。そんなのもいるの、この世界……。


「それはまたとんでもないモンスターが現れましたね……」


「ええ、私も頭を抱えています。街の近くに住み着いて時々旅行者や商人に被害が出ているのです。幸いまだ成長途中の個体のようですが」

「それでも大変なのですか?」

「私が治めている領地は広いので他領との境に軍を多く配備しています。そのためドラゴンの討伐に人員を割く余裕がないのです。本当は領地の軍で対応すべきなんですけど……お恥ずかしいかぎりです」


 そう言ってミナ様は大きなため息をつかれた。領主というのも大変だなあ……。私は自分と同じ年ぐらいの少女を見ながら思う。


「それでドラゴンを倒せそうな人間を探すためにあの闘技大会を開いたということですか?」

「はい。もちろんこちらが最低限出来ることはさせて頂きます。あなたは魔法を多様して戦うとお聞きしたのでそれを助けるような装備や装飾品を用意させて頂きますし、魔杖も希望されるなら用意させて頂きますよ」


 おお、それはありがたい。強力な装備は欲しいからね。ドラゴンなんてレアモンスターを倒せば強力なスキルが手に入るかもしれないし!


「分かりました。今回の依頼引き受けさせて頂きます」


 私はミナ様の提案に乗ることにして、元気よく返事をした。



「さてっと」


 今私はの街の外れにある山までやってきていた。領主様からこの場所にドラゴンがいると聞かされてやってきたのだ。


「おお」


 しばらく進むと目的のドラゴンの姿が見えてきた。大きい……。


「まさかドラゴンにまで会えるとは思わなかったな」


 声が少しうわずっているのが分かる。私はこんな状況なのに興奮していた。どうしようもなく胸が高鳴る。


「さあ、最強のモンスターの強さを見せてもらおうか!」


 私は挨拶代わりにドラゴンに初級魔法のフレアを打ち込む。しかしそんな魔法では相手はびくともしない。

 攻撃をした私に気付いたドラゴンが雄叫びをあげる。そしてそのままこちらに突っ込んで来た。


「よっ!」


 私は風魔法を利用した加速で移動速度を上げ、ドラゴンの突撃をかわす。そのまま次の攻撃へ。


「フレアストーム!」


 炎属性中級魔法が発動、炎の竜巻がドラゴンを襲う。ドラゴンは少しだけ怯むものの再びこちらに向かってくる。

 

「うわあ、中級魔法喰らってもびくともしてないなんて……ならもっと威力を上げていくよ!」


 私はこちらに向かってくるドラゴンを迎撃するためにさらに高威力の魔法を発動させる。


「ブリザード!!」


 呪文を唱え終わるとともにドラゴンの周りに吹雪が巻き起こる。巻き起こった吹雪はドラゴンを凍らせていく。


「スキル複合魔法を使って生み出した魔法の威力はどうよ!」


 そうこれは覚えたスキルを使って生み出した魔法の一つだ。複合魔法は異なる属性を組み合わせて新しい魔法を生み出すスキルだ。このスキルは正直一番気に入っているかもしれない。だって好きに魔法を作ることが出来る夢のようなスキルなんだもの!


「さてドラゴンさんを追いかけるとしますか」


 私の魔法を受けたドラゴンは翼が凍ってしまい、墜落していた。しかしそれでも大きなダメージを受けたようには見えず戦意は衰えていない。

 

「ん?」


 私のほうを睨んでいたドラゴンが大きく息を吸い込み、口を開けた。これは……。

「うわ、ドラゴンブレスってやつか~。これは受けるわけにはいかないな」


 食らってしまえば即あの世行きだろう。だが私もこんなところで死ぬ気はない。


「まだいろんなところを冒険したいしね!!」


 ドラゴンの魔力が高まっていく。私も迎え撃つために魔法を発動させる。


「私の最大威力の魔法で迎え撃つ!」


 私の周りを炎と風の魔力が渦巻いていく。やがてそれらは私の左手に紫電を発生させて一つの大きな雷の槍を形成した。炎と風の属性を複合させた雷属性の魔法、今の私が使える最高威力の魔法だ。


「くらええええええええええ! サンダーランス!」


 私は絶叫と共に雷の槍をドラゴン目がけて投げつける。同時にドラゴンがブレスを吐き出した。両者の渾身の一撃が激突し、すさまじい衝撃波が巻き起こる。


「ぐ……まずいかも……」


 私の発動したサンダーランスは徐々にドラゴンのブレスに押され始めていた。なんとかしないと……。


「……やったことはないけどやるしかないか」


 空いている右手に炎と風の魔力を集中、もう一本のサンダーランスを形成しようと試みる。


(うまくいって!!)


 私の願いが通じたのか右手にもう一本のサンダーランスを形成することに成功した。


「よし! うまくいった! いっけええええええええええええええ!!!」


 私は右手にできたサンダーランスを思いっきりドラゴンのブレスに向かって投げつける。二本のサンダーランスを受けたドラゴンのブレスは霧散し、二つの槍はそのままドラゴンに直撃した。

 二本のサンダーランスを受けたドラゴンはそのまま地面に落下して動かなくなった。

 私は近づいてドラゴンが生きているか確認する。どうやら完全に息絶えているようで私は胸をなでおろした。


「ふう……なんとか勝つことが出来たなあ……流石にドラゴンは手強かった。魔力も空っぽになる戦いは久しぶりだよ。でもおかげでいろいろ手に入りそう」


 これだけ強力なモンスターを倒せばスキルポイントだけではなく、この死骸を使って強力な武器や防具を作れるだろう。


「ん? これは……」


 スキルの項目に新しいやつが増えてる。


 特殊スキル『竜化』。


「な、なんだろうこれ……ちょっと怖いけど試しに今手に入れたスキルポイントで増やしてみよう」


 新しく発生したスキル『竜化』にポイントを入れて強化してみた。


「んん、あれ魔力が……」


 さっきまで空っぽだった魔力が急速に回復している。それに体の奥から力が湧き上がってくるような……。


「ん~、よし!」


 高揚感に任せて私は近くの岩を殴ってみる。するとその岩はあっけなく砕かれた。


「ええ! なにこれ! あ! もしかして竜化って……」


 どうやらあのスキルは肉体をドラゴンに近づけるものらしい。


「このスキル有り難いけどあまりひけらかして使うものではないかも」


 湧き上がるこの万能感に身を任せたらすぐ間違いをおかしてしまいそうな気がする。とりあえずこのスキルは必要な時以外使わないようにしよう。

 こうして新たなスキルと貴重な素材を手に入れた私はドラゴンの住んでいた山を後にした。



「本当にありがとうございました」


 ドラゴン討伐から戻った私にミナ様は深く頭を下げた。


「今回のことはなんとお礼を言ったらいいか。あなたのおかげで最大の懸念事項が取り除かれて本当に感謝しています」

「いえいえ。私も強くなれましたし、貴重な素材をもとに道具を作って頂いたのでお互い得をしたということで」


 今私はドラゴンの皮膚から作ったローブやブーツを身に纏っている。ミナ様から褒美はなにがいいかと言われたため、この装備を褒美としてもらいたいと申し出たのだ。


「満足頂けた報酬ならうれしいです。それで……やはり行ってしまわれるのですか?」

「はい。領主様のお誘いは有り難いのですが、私はまだ世界各地を旅してみたいので」


 ドラゴンの討伐の後、ミナ様から専属の護衛として働いて欲しいと懇願されたのだ。私の腕を買ってくれたのは嬉しい、けどまだ冒険がしたかった私はその誘いを断ったのだ。


「……あなたが誘いを断られたのはとても残念ですけど……どうかあなたの旅が良きもとなりますように。またこの街に寄られた時はぜひ会いに来てください」

「はい、領主様もお元気で」


 名残惜しさを感じながら、私は領主の館を後にし、レイスさんの元へと向かった。



「はあ……」


 あかりさんが部屋から出ていった後、私—ミナ・ウィンドブロムはため息をついた。


「羨ましい。私もあんなふうに冒険をしてみたいなあ」


 私は領主だ。その仕事も責任も嫌と思ったことはない。


 それでもああいうふうに自由に生きている人には憧れてしまう。それが同年代なら尚更だ。


「また会えますよね」


 彼女は各地を巡ると言っていたし、この街に戻ってくることもあるだろう。その時を楽しみにしながら私は領主としての執務に戻った。



「レイスさん、お待たせしました」

「おお、アカリさん。待っていたよ」


 私を待っていたレイスさんは優しく微笑みかけてくる。レイスさんの商会は次の街へ向かうため、私も護衛として一緒に行くのだ。


「しかし本当によかったのかい? 領主様から雇うと言われていたんだろう? こちらより給金もよかっただろうに」

「そうですね。でも私はまだこの世界を見て回りたかったので。だから私はレイスさんについていくことにしたんですよ」

「そっか、それじゃ次の場所へ向かおう」


 私の言葉に納得したのかレイスさんは馬車を走らせ始めた。だんだんの街は遠ざかっていった。ああ、次の場所ではどんなものが見られるのだろう、わくわくするなあ!

 はずむ心で私はこれからの冒険に思いを馳せるのだった。 

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